第四十七話・白き聖夜
激動の文化祭を終えた二輪車倶楽部。
パンケーキの初参加初日完売、南藤による美春への公開プロポーズ。
二輪車倶楽部の知名度は一気に上昇した。
南藤のプロポーズがナンバーワンに選ばれたことにより、部費も大幅に上昇した。
二輪車倶楽部を取り巻く環境が激しく動いた秋も終わり、季節は冬へと入っていた。
「やっぱバイク寒いな……」
「そ、そうだな……」
バイク通学の龍仁と西園寺が、教室にある暖房器具で冷えた体を暖めていた。
「龍ちゃん! 七海ちゃん! おはよー!」
「おはよう、まゆ」
「真由美は元気だな」
「麗奈も元気なのです」
「おはよう。れなも来てたのか」
「皆んな、おはよう」
「冬でもアツアツの南藤さんご登場ですよ」
「まあな。俺と美春はいつでもアツアツだよ」
「まゆちゃんのツッコミにも動じなくなったのです」
文化祭の後、南藤が藤田社長に「娘さんをください」と挨拶し、何の躊躇もない「おう。持ってけ」との返事をもらっていた。
「ところで! 今年のクリスマスはどうするのです?」
「クリスマスに何かやられるのですか?」
「クリスマス楽しみだね〜」
たった今登校してきた東雲と高崎が会話に加わってきた。
「まだ何も決まってないのよ。龍ちゃん、どうする?」
「そうだな。せっかくだし、部室でクリスマスパーティーやるか?」
「やるのです!」
「おぉ、クリスマスパーティー……夢にまで見たクリスマスパーティー……」
「七海ちゃん、泣くほど嬉しいのね……」
白羽学園の冬休みは、毎年二四日から始まる。
今からその日に向けて準備に入る二輪車倶楽部。
これだけの人数で集まるクリスマスは皆んな初めてだった。
自然と皆んなのテンションは上がる。
「ケーキどうするのです?」
「わたしと先生で作るのはどうだろうか?」
「いいね! じゃあ、わたしとれなちゃんでチキンとか作ろっか!」
「それなら私も手伝わせてください」
「エミっちも一緒なのです! 美春ちゃんにも手伝ってもらうのです!」
百瀬先生が教室へ入ってきた事で、クリスマスパーティーの話が中断される。
そして、放課後の部室で話の続きが始まる。
「飾り付けは俺らがやればいいんだな」
「飾りは健児に任せたほうがいいな。龍仁に任せると、可愛くないのが出来上がるからな」
「確かにな……じゃあ、俺はツリー飾るか」
女子の料理に続き、男子の役割も決まっていく。
そこへ榊原先生が遅れてやってきた。
「皆んなーお待たせー!」
「待ってないのです」
「またそんな事言う〜。そんな子には……こうだ!」
「あはははははは! ギブギブ! ごめんなさいなのですー!」
榊原先生が麗奈をくすぐるのは、二輪車倶楽部では日常風景になりつつあった。
「本当に仲が良いですね。あれでライバルと言うのが不思議です」
「だよね〜。でも〜今じゃ〜不思議だと思わなくなっちゃったかな〜」
麗奈をくすぐり終えた榊原先生が、振り返って質問する。
「料理と飾り付けは決まったみたいだけど、時間はどうするのかしら」
「夕方からがいいのです。やはり、夜のほうが雰囲気がいいのです」
「そうよね。じゃあ夕方から始めましょ。それと、プレゼント交換はどうするの?」
「あぁ〜そうですね。どうしたらいいかな?」
「プ、プレゼント交換……ついに……ついにその日が……」
「ナナちゃん、泣くのはプレゼント交換が終わってからなのです」
「西園寺さんの涙は当日にもう一度見せていただきましょう。さて、プレゼント交換なんだけど、ルールを決めておこうと思うのよ」
「ルール? そんなもんいるのか?」
「佐々川くん。全員分のプレゼントを用意できるかしら?」
「あっ、そりゃ無理だな」
「でしょ? だから、用意するプレゼントは一人一つだけ」
「良いかもしれませんね。私たちと美春さんたちには、何も問題ありませんものね」
「そうだな。四人はどうせ龍仁に贈るだろうしな」
「なるほど。そうなると、仁が誰に贈るのか……それが問題だな」
「えっ?! 俺も贈らなきゃ駄目か?」
「当たり前でしょー! それがどれだけ重要なことか。佐々川くんには分からないと?」
「そう言えば、龍ちゃんからクリスマスプレゼント貰ったことないかも」
「麗奈もないのです」
「別に俺から貰わなくたっていいだろ」
「これはルール作って正解だったかもね。佐々川くん。必ずプレゼントを用意するのよ!」
「わ、分かったよ……」
二輪車倶楽部クリスマスパーティーの詳細が決まった。
後は、当日までに各自が会場や料理の準備を進めるだけである。
「おやっさん。ちょっといいかな?」
クリスマスパーティについて話し合った翌日、龍仁は藤田バイク店を訪れていた。
「おぅ、どうした龍」
「ちょっとお願いがあんだけどさ」
「なんだ? 言ってみろ」
「こう言うの持ってる人知らねえかな?」
「こんなもん、何に使うんだ?」
南藤と美春が居るのを見て、藤田社長に小さな声で耳打ちする龍仁。
「ほぉ〜そいつぁ面白いじゃねえか。よし! 俺に任せろ。何とかしてやる」
「ありがてえ。恩に着る!」
他の準備は滞りなく進んでいた龍仁。
最大の難関だったプレゼントにも目処がついた。
その他のメンバーも準備は万端である。
こうして二十四日のクリスマスパーティー当日を迎えた。
「メリークリスマス!」
榊原先生の一声によりクラッカーが鳴らされ、二輪車倶楽部クリスマスパーティーが始まった。
テーブルには女子が作った料理とケーキ。
部室の中には、高崎が作った飾りを南藤が飾り付けてあり、龍仁が飾ったツリーが置かれている。
笑い声を飛び交わし、料理やケーキを堪能する。
二輪車倶楽部の部室の中には楽しさが溢れていた。
「さて、皆さん! お待ちかねの時間がやってまいりました」
「プレゼント交換なのです!」
「つ、ついにこの瞬間が……」
「それじゃ〜カップル二組から始めようかしらね!」
南藤、美春。高崎、東雲。それぞれのプレゼント交換が終わる。
「あっ、これは俺が欲しかった工具! ありがとう、美春」
「どういたしましてぇ。わたしのは何かなぁ。これってぇ……」
「南藤くん。ここで指輪贈るとは……驚きなのです」
「ありがとうねぇ。サイズ合うかなぁ」
そう言いながら左手薬指に指輪を持っていく美春。
「あらぁ、ピッタリだよぉ。大事にするね」
「サイズ聞かなくても、美春のことは毎日見てるからな」
「はいはい。お熱いのは二人だけのときにお願いね。そちらのお二人はどうだった?」
マフラーを巻く高崎と、新しいピンクのカチューシャを着けた東雲が微笑んでいた。
「はいはい。そちらの二人もお幸せにどうぞ。では、わたしたちの番ね!」
龍仁の前に四人が並び、順にプレゼントを渡していく。
「お、おぅ。ありがとな」
「開けてみて開けてみて!」
「じゃあ、真由美のから。おっ、防寒グローブか。こりゃいいな。ありがとな」
「麗奈のも開けるのです!」
「分かった分かった。おっ、最新の格闘技グランプリのDVDじゃねえか。ありがとな」
「わ、わたしのも開けてみてくれないか」
「おぅ。これは……イニシャル入りのキーホルダーか。バイクのキーに付けとくわ。ありがとな」
「先生のも開けてみてご覧なさい」
「どれどれ。交通安全のお守り? クリスマスに神社のお守りって……神様に怒られねえか?」
「大丈夫よ。神様はそんな小さいこと言わないわよ。佐々川くん……運転には気をつけてね」
「あぁ、ありがとな」
これで残りは龍仁からのプレゼントだけである。
四人が期待半分、不安半分の表情で龍仁を見つめている。
そんな視線を受けながら、龍仁が携帯を取り出し電話をかける。
「もしもし。龍仁です。おやっさん、お願いします」
「ん? なぜ藤田社長がここで出てくるのかしら?」
「まあまあ、細かいことはいいじゃねえか。皆んな、外に出てくれねえか」
龍仁がそう言うと、外から何かのエンジン音が聞こえてきた。
皆んなが部室の外へ出ると、空から何かが舞い落ちてきた。
「えっ……雪?! 龍ちゃん! 雪降ってるよ!」
「今日は一日晴れのはずなのです」
「おぉ……これが噂に聞くホワイトクリスマスと言うやつだな……」
「綺麗ね〜って、藤田社長?」
「どうだい! 龍に頼まれて知合いから借りて来た降雪機は! 小型だけど雰囲気いいだろ!」
「これが俺からのプレゼントだ。気に入ってもらえたか?」
「わたしだけじゃ無いのが残念な気もするけど、龍ちゃんらしいプレゼント……ありがと!」
「龍兄にしては考えたのです。グッジョブなのです!」
「友達とホワイトクリスマス……夢のようだ……」
「やるわね、佐々川くん」
「考えましたね。これなら、誰かを選ばなくてもいいんですものね」
「龍仁にしちゃ洒落たこと思いついたな。だけど、この手が使えるのは今年だけだぞ」
「そうですね。毎年と言う訳には行かないでしょうね。いずれ、誰かを選ばなくてはいけなくなります」
「それはぁ、その時に考えればいいんじゃないかなぁ。今日は素直に楽しもうよぉ」
クリスマスプレゼントの難題を乗り越えた龍仁。
しかし、それは東雲たちが言うように一時しのぎでしかない。
龍仁は、次のクリスマスまでに、その答えを出すことができるのだろうか。
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