第四十五話・伝説に向かって

「南藤! これでどうだ!」


「もうちょっと下げてくれ」


「この辺か?」


「あぁ、それでいいよ」



 文化祭に向けて、各部やクラスの準備が始まっている。


 この日、二輪車倶楽部に集まっているのは龍仁、南藤の二人。


 二人は、展示物の設置場所を決めるため試行錯誤していた。



「よし! 写真飾んのはこれでいけんだろ」


「バイクは奥で、ビデオは入口近く。こんな感じでいいかな」


「バイクにスポット当ててえな。何かいいもん無えかな」


「おやっさんとこに作業用のライトならあったぞ」


「あぁ、あれか。一回試してみっか」


「準備のほうは如何かしら」


「おぅ、東雲。あっちはいいのか」


「こちらも気になりましたので、少し様子伺いに来ました」


「そりゃ何だ?」



 龍仁が東雲が持つ紙袋を指差す。



「飲み物と、パンケーキの試作品です」


「いいね。南藤! 休憩しようぜ!」


「今行く!」



 東雲がテーブルにパンケーキの試作品と飲み物を並べる。



「これか。いいんじゃないかな」


「ちゃんとパンケーキがタイヤになってんな。バイクの絵は誰が描いたんだ?」


「私です」


「へえ〜東雲ってこんな絵が描けんだな。すげえな」


「お役に立てて良かったです。では、私は戻ります」


「おぉ。ありがとな、東雲」



 東雲が部室を出たところで、南藤が龍仁の前に座る。



「なあ、龍仁」


「何だ?」


「真由美ちゃんたちは名前呼びなのに、何でお嬢と東雲は名字で呼んでんだ?」


「あぁ〜そう言やそうだな。きっとあれだ。彼氏居るからじゃねえか」


「は?」


「藤田も東雲も彼氏居るだろ? 何となく名前で呼んじゃ悪いって思ってんのかもな」


「待て待て。確かに東雲には健児がいるけど、お嬢に彼氏居ないだろ? ま、まさか! お、俺の知らないところで……」


「何言ってんだよ。藤田の彼氏はお前だろうが」


 

 龍仁の発言に顔を真っ赤にする南藤。


 

「は、はい? な、何言っちゃってるんだ?」


「まだ告白してねえのかよ。早くしちまえよ」


「そ、それは、あ、あれだ。もう少ししたら、だな……」


「きっと藤田待ってるぞ」


「そ、そうなのか! お嬢に聞いたのか?!」


「いや。麗奈たちがそう言ってたぞ」


「じゃ、じゃあ分からないじゃないか!」


「本当に自分の事は見えねえんだな」


「そう言うお前はどうなんだよ!」


「何がだよ」


「四人のこと、どうするんだ? ちゃんと見てんのか?」



 困った顔で頭をかきながら、視線を天井に向ける龍仁。


 その視線をゆっくりと南藤に向ける。



「南藤。俺、どうすりゃいいと思う?」


「ちゃんと四人の気持ち見てやれよ。そうすれば分かってくるだろ」


「藤田の気持ち分かんねえ奴に言われてもなぁ、全く説得力ねえなぁ」


「じゃあ最初から俺に聞くなよ……」



 自分たちでは何の答えも出せないと思った二人は、無言で文化祭の準備に戻った。


 文化祭の準備も楽しいイベントのひとつ。全生徒が期待に胸膨らませながら充実した日々を送った。

 

 こうして二輪車倶楽部とクラスのホラーハウスも、文化祭前日までに準備を終えることができた。


 


「いよいよ明日から文化祭だ」


「楽しみなのですー!」


「幽霊の練習もバッチリだよ!」


「まゆの幽霊は怖くて洒落にならない……」


「ナナちゃんの幽霊も半端ないのです」


「龍仁。二輪車倶楽部の係は二人でいいのか?」


「展示案内に二人だ。パンケーキ班に二人だな」


「それで人手足りるのか?」


「先生も手伝ってくれるらしいから大丈夫だろ」


「初日はれなちゃんがホラーハウスの係員で、わたしと七海ちゃんは幽霊だからね」


「まゆちゃんとナナちゃんの最恐コンビなのです」


「そうだったな。じゃあ、初日のパンケーキ班は東雲と藤田。健児と南藤で展示の案内やってくれ」


「分かりました。では私がパンケーキを焼きます。販売は美春さんにお任せします」


「りょうかいだよぉ」


「校内で焼いたのは俺か先生が運ぶわ」


「二日目はどうする? 初日の反応見て臨機応変でいいか?」


「いいんじゃねえか」



 初日の動きを決め、展示物の確認をし、この日の二輪車倶楽部は解散となった。


 

「じゃあ、明日から文化祭楽しもうねー!」


「楽しむのですー!」


「上手くできるだろうか……不安と期待で複雑な心境だ……」


「七海さん、大丈夫ですよ。貴女の幽霊は一級品です」


「恵美、ありがとう。わたしは最高の幽霊になってみせる!」



 あっという間に過ぎた準備期間。皆で楽しく頑張った準備期間。


 そんなかけがえのない時を過ごし、待ちに待った文化祭当日を迎えた。




「ただいま冥土喫茶やっております〜。ご来店特典に数珠を配布しております〜」


「サッカー部ではPK体験やってまーす! ゴールキーパーになってみませんかー!」


 

 あちらこちらで呼び込みが行われ、学園全体が活気付いている。


 龍仁は二輪車倶楽部、麗奈はホラーハウスの呼び込みをしていた。



「耐久レース出場の記録やバイクの展示に加え、二輪車倶楽部特製パンケーキの販売もしてまーす!」


「本日限定、最恐幽霊コンビが見れるのは、ホラーハウスなのですー!」



 そのホラーハウスは盛況であった。


 最恐幽霊コンビが口コミで話題となり、一目見たいと行列が出来ていた。



「麗奈。二人の幽霊姿見てねえんだけどさ、そんなに恐いのか?」


「まゆちゃんは血を流しながら追いかけるメイドさん。その先で、チェーンソーを持ったナナちゃんが待ち構えてるのです」


「それって幽霊なのか? まあ、ホラー感満載で恐そうだけどな」


 ここで龍仁が不思議そうな顔をする。


「でもよ、それなら誰がやっても恐いんじゃねえのか?」


「龍兄、甘いのです。あの二人には何かが憑依してるとしか思えないのです。テストプレイで、内容を知ってる女子が本気で泣いてたのです」


「後で見てみるかな……」



 二輪車倶楽部は、想定していたよりも盛況であった。


 今回の文化祭でパンケーキを販売している所が他になく、すぐ品切れになるほど売れていた。



「哲也くぅん。パンケーキ全然足りないよぉ」


「そうだな……。健児、表を頼む。お嬢は焼くの手伝ってきてくれるか」


「わかったよぉ。じゃあ行ってくるねぇ」



 校内の調理場では、東雲と榊原先生が必死にパンケーキを焼いていた。



「ちょっと〜売れすぎじゃないかしら〜嬉しい誤算だわ〜」


「想像以上ですね。先生、このままでは容器が足りなくなってしまいますよ」


「それでいいわ。初参加で初日完売の伝説を残すのよ! そうすれば、来年も売れに売れるわー!」


「では、頑張って焼くといたしましょう」


「お手伝いに来たよぉ」


「あら! 藤田さん! よし、これで生産力アップよ!」



 生産力が上がったパンケーキは、文字通り飛ぶように売れた。


 そして、榊原先生の思惑通り、初参加初日完売を達成した。



「いや〜まさか本当に完売しちゃうとはね。皆んな、おつかれさま!」


「先生もお疲れ様でした。お陰様で完売と言う結果に結びつきました」


「これで目標の一つは達成したわよ」


「目標の一つですかぁ?」


「何か他に目標ってありましたか?」


「あら、言ってなかったかしら」



 東雲と美春が顔を見合わせる。


 そして榊原先生を見る。



「聞いてないですね」


「わたしも聞いてませんよぉ」


「そうか〜言ってなかったか〜」



 上着のポケットから何やら紙を取り出す榊原先生。


 そして、それを広げて二人の目の前に突きつけた。



「白羽学園文化祭! 今年のナンバーワンはこいつだー! コンテストー!」


「何ですか、これは?」


「男女関係なく、我こそは今年のナンバーワンだー! って人が出場するコンテストよ」


「先生、それがどうかしたのですか」


「ふっふっふっ。二輪車倶楽部からも出場するのです!」



 コンテストの事を全く知らなかった東雲と美春。

 

 榊原先生の意図が分からず呆然とする。


 二輪車倶楽部からコンテストに出場することは、他の部員も聞いていなかった。


 白羽学園に伝わるコンテストの伝説も、当然知らなかったのである。

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