第二十七話・想い出を

「じゃあ、三日後の九時に部室に集合。行き先は何とかって遊園地でいいんだな」


「何とかじゃなくて、夢と緑の国なのです」


「あぁ、それな。じゃあ麗奈、俺は先に帰ってるからな」


 


 藤田社長からの強制に近い提案により、四人とデートすることになった龍仁。


 走行会後に五人で部室に集まり、デートについて協議していた。

 

 五人で協議した結果、場所はアスレチックや植物園なども楽しめる遊園地に決まった。


 龍仁が帰ったあと部室に残った四人は、当日の予定を話し合っていた。



 

「それで、順番はどうするのかしら?」


「ジャンケンで良いんじゃないかな?」


「それでいいのです」


「異論はない」


「先生は最後でいいわよ。ジャンケンは三人でどうぞ」


「先生いいの?」


「あんまり順番待ちたくないでしょ? 先生として譲ってあげるわよ」


「先生、たまに良いこと言うのです」


「麗奈さん、たまには余計よ……」




 榊原先生を除いたジャンケンにより、麗奈、真由美、西園寺、榊原先生の順に決まった。




「では、麗奈さんが最初の二時間でいいわね。麗奈さんの番が終わったら、お昼にちょうどいい時間ね」


「お店で食事もいいけど、みんなでお弁当作ってこない?」


「いいな。まゆの意見に賛成だ」


「芝生エリアでピクニック気分なのです」


「その後に三人だから……閉園時間には間に合うわね。では、当日はそんな流れで行きましょう」




 こうして当日の流れを確認し、四人は部室を後にした。


 それから当日まで、洋服やお弁当、どんなデートにするか考えながら過ごす四人。


 そして夢にまで見たデート当日、五人が部室に集合する。




「おっ、もう皆んな集まってんのか」


「佐々川く〜ん! おはよ〜! 麗奈さん、おっはよ」


「皆さん、おはようなのです」


「龍ちゃん、れなちゃん、おはよー!」


「仁、れな、おはよう。これで全員集まったようだな」


「では参りましょうか!」




 今日の舞台となる遊園地は、学園から車で約三十分。


 車内はウキウキとした雰囲気が溢れていた。


 もちろん、龍仁にはウキウキした気持ちは微塵もない。


 龍仁が今日デートするのは、レースに向けての問題を解決するためである。


 決して楽しむためでは無かった。


 相反する気持ちを乗せた車が遊園地に到着する。




「到着なのです!」


「荷物は忘れずにロッカーに預けてね」


「ついに……仁とデート……」


「七海ちゃん、緊張しすぎよ」

 

「で、どうすんだ?」


「はい! まずは麗奈からなのです!」


「麗奈からか。何すんだ?」


「ここに行きたいのです」



 麗奈が指差した先には【日本で三番目に恐いお化け屋敷】と書かれた看板が見えた。



「れなちゃん、大丈夫?」


「だ、大丈夫なのです。これは、最重要ミッションなのです」


「先生には分かるわよ。お約束の抱きつき狙いでしょ?」


「うっ……な、なんのことなのです?」


「まあいいでしょう。頑張ってらっしゃい!」




 お化け屋敷などは怖くて入ったことがない麗奈。


 しかし、このチャンスを逃すまいと覚悟を決めたのである。


 目的は榊原先生に見破られてしまったが、この際それはどうでも良かった。




「麗奈、大丈夫か?」


「だだ、だいだだ、大丈夫なのなの……」


「全然歩けてねえじゃねえか。ほら、手つなげ」



 お約束のパターンに持ち込もうと思っていた麗奈。


 怖すぎて身体が言うことを聞かなかった。


 手をつないでもらった嬉しさと安心から油断した麗奈。


 お化けの不意打ちに腰を抜かしてしまった。




「おい、麗奈。立てるか?」


「だ、だめなのです……足が言うこと聞かないのです……」


「しゃあねえな。ほら」


「龍兄……?」


「おんぶしてやるから、早く乗れ」


「あ……うん。ありがとなのです」



 龍仁におんぶしてもらい、強く抱きつく麗奈。



「ねえ、龍兄……」


「なんだ?」


「なんか、懐かしいのです」


「そうか」


「兄妹になって初めて行ったお祭り、覚えてるです?」


「あぁ、そう言えばあん時、疲れた麗奈をおんぶしたっけか」


「そうなのです。その時のこと、思い出してたのです」


「確かに懐かしいな。あん時にくらべて麗奈も成長したんだな」


「ど、どのへんが成長してるのです?」


「体重」


「龍兄……ひどいのです」


「冗談だ。そう怒るなよ」


「ちゃんと他にも成長してるのです」


「ほお、たとえば?」


「龍兄への気持ち」


「え?」


「あれから麗奈の気持ちは変わってないよ。龍兄を好きな気持は成長してるんだよ」


「なあ、麗奈。俺たちは兄妹――」


「言わないでっ! 義理の兄妹になるって出会いが始まりだけど、それだけのことで龍兄のこと、好きになっちゃ駄目なの?」


「いや、それは……」


「出会いは何だっていいでしょ? お願いだから……麗奈のこと妹じゃなくて、一人の女の子として見てよ……」


「麗奈、俺には好きって何だか分かんねえんだよ」


「それは知ってるのです」


「だから、麗奈のその気持ちに、いまは応えてやれねえ」


「今はそれでいいのです……でも、その時がきたら、麗奈をちゃんと見てほしいのです」


「分かったよ。だから、もう泣くなよ」


「な、なんで泣いてるって分かったのです!?」


「首がさ、涙で冷たいんだよ……」


「ご、ごめんなさいなのです……」




 当初の思惑とは違ったものの、結果として大きな成果を上げた麗奈。


 龍仁の心に、麗奈の気持ちをぶつけることができた。


 その代償として、少し休憩が必要となり、二時間の予定が一時間になってしまった。


 それでも、麗奈は大満足だった。




「ごめんなさい……麗奈は燃え尽きたのです……」

 

「じゃあ、ランチタイムしてからの予定だったけど、彩木さん今からデートしちゃう?」


「そうですね。ランチにはまだ早いですしね。龍ちゃん、行こうか!」




 真由美は龍仁を連れてアスレチックエリアに向かった。


 遊園地の乗り物などにはあまり興味がわかず、龍仁と楽しめるのはこれしかないと考えた。




「龍ちゃん! こう言うの、懐かしいね!」


「砂場とか遊具でよく遊んだな」


「あの時、遊んでくれてありがとね!」


「礼なんかいらねえよ。俺も楽しかったからな」


「言わせてよ! 龍ちゃんが居なかったら、わたし独りぼっちだったんだから」


「暴れん坊だったからな」


「何で笑うのよ〜! 龍ちゃんのいじわる!」


「違わないだろ?」


「まあ、そうなんだけどね」



 

 笑いながら、楽しそうにアスレチックコースを進んでいく。


 二人はまるで、幼い頃のりっくんと、クロに戻ったようだった。


 休憩しながら、思う存分アスレチックを楽しんだ二人に、デート終了の時間がやってきた。




「楽しかったー!」


「あぁ、楽しかったな」


「ねぇ、龍ちゃん」


「どうした?」


「ふふっ。龍ちゃん」


「だから、どうした?」


「龍ちゃん、龍ちゃん、龍ちゃん! 大好き!」


「な、なんだよ突然……」


「わたしね、この間クロだって告白した時が、皆んなとの最後だと思ってたの」


「あぁ、キャンプの時のだな」


「いま、こうして皆んなと一緒に居れて、龍ちゃんとデートしてるなんて、夢のようなの」


「そうか」


「とっても幸せな気分なんだよ。大好きな龍ちゃんと一緒に居られることが、わたしの幸せなんだよ」


「お、おぅ……」


「龍ちゃんに恋愛感情が無いのは知ってるよ。今はそれでもいいんだ」


「真由美……」


「いつか、わたしのこと好きだって言わせて見せるからね!」




 昔のように、二人で楽しく遊ぶことができた。


 龍仁は、この時間を楽しく感じていた。


 真由美は、龍仁への恋愛感情を再確認していた。



 

 デート前半で、麗奈と真由美から恋愛感情を届けられた龍仁。


 その想いに応える術を、龍仁はまだ持っていない。


 そんな龍仁を、デート後半が待っている。


 はたして、西園寺と榊原先生は、龍仁の恋愛感情に触れることができるのか。


 恋のゴールは遥か遠く、まだ誰にも見えないのであった。

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