第二十三話・ライバルの絆

 龍仁の耐久レース参加の提案がきっかけとなり、決別する覚悟で告白に踏み切った真由美。

 

 だが、真由美の告白は決別ではなく、みんなとの絆をより一層深めることになった。


 


「まぁ、何はともあれぇ、丸く収まって良かったわねぇ」


「わたしたちが悩まなくても、まゆは自分で答えを出していたのだな」


 西園寺と美春が、みんなに聞こえないようやり取りしていた。


「さて! 彩木さんの長年の悩みは、無事解決いたしました!」


「まゆちゃん良かったのです!」


「うん……みんな、ありがとう」


「湿っぽいのはここまで! お祝いに花火やりましょー!」


 そう言った榊原先生の手に花火が握られていた。


「おしっ! 花火やろうぜ! 南藤、打ち上げあるか?」


「あるよ。でも、こう言うのは最後じゃないのか?」


「何でもいいからやろうよ〜」


 


 それぞれが好きな花火を持ってキャンプファイヤーから離れる。


 手持ち花火で楽しむ女性陣。少し離れて男性陣が打ち上げ花火に火を点ける。


 今まで抑えていたものを、一気に爆発させてはしゃぐ真由美。


 女の子らしくと頑張っていたが、おてんば気質が消えたわけではない。


 


「まゆちゃんが元気いっぱいなのです」


「とても嬉しそうだねぇ。あんな真由美ちゃん、初めて見たよぉ」


 花火を思う存分楽しんだ龍仁たち。


 花火の後片付けをし、再びキャンプファイヤーの周りに集まる。


「あぁ〜楽しかった!」


「まゆがあんなに騒いでるのを見たのは初めてだ」


「まゆちゃんがクロだったのなら納得なのです」


「クロはやんちゃで暴れん坊だったからな」


「龍ちゃん! ひどい!」


「ほうほう。彩木さんは猫を被っていたと?」


「一生懸命女の子らしくなろうとしてたんです! 先生までそんなこと言わないでくださいよ」


「つまり、わたしのように自分を変えようと努力したわけね」


「ま、まぁ……そう言うことです……」


 恥ずかしそうに下を向く真由美。


「まゆちゃんも努力してたんだ……わたし、何か努力してきたのかな……」


 独り言のように呟く麗奈。


 何気なく呟いてしまった言葉が、真由美に聞こえていた。


「れなちゃんも努力してきてるでしょ。語尾が『です』になるように喋るのって大変でしょ?」


「あっ、そ、それは言わないで欲しいのです……」


 それを聞いた西園寺が食い気味に話に入ってきた。


「れなの喋り方は、意識的にやってることなのか?」


「麗奈、そうだったのか?」


 龍仁まで会話に加わる。


「龍ちゃん、覚えてないでしょ。れなちゃんにそうさせてるのは、龍ちゃんだよ」


「ほうほう。またまた佐々川くんがやっちゃいましたかな?」


「な、何の話だよ……」


「まゆちゃん……」


「れなちゃん。言っちゃってもいいんじゃない?」


「は、恥ずかしいのです……」


「先生はいいと思うよ。今日は、何もかも曝け出しちゃいましょう!」


「うぅ……分かったのです……」


 


 真由美がクロだと告白したことに比べれば、この話は大した事ではないのかも。

 

 そう思った麗奈が観念したところで、真由美が話し出した。



 

「わたしが戻ってきて初めて会った時、れなちゃん普通に喋ってたのよ」


「そういやそうだな」


「どちらかと言うと乱暴な言葉遣いだったわね。そうだ、高崎くんにだけ、昔の言葉遣いになってるね。あの事件依頼」


「確かに。高崎にだけ『です』を付けていないな」


「それでね、ある日龍ちゃんが言ったのよ。『麗奈。その言葉遣いは良くない。ちゃんと何々です、って丁寧に言わなきゃダメだぞ』ってね」


「そう言ったような気もする……」


「そこからよ。れなちゃんが『です』を付け始めたのは」


「やっぱり佐々川くんが犯人じゃないのよ」


「そうねぇ、佐々川くんが原因のようねぇ」


「龍仁。今のうちに謝っとけ」


「勘弁してくれ……」


 そこで麗奈が話し始める。


「いいのです。まゆちゃんに言われて、麗奈も努力してるんだって、そう思ってもらえてたんだって分かったから、それでいいのです!」


「麗奈。その……大変なんだったら止めていいんだぞ」


「ううん。龍兄に言われたことだから、麗奈は頑張るのです。それに、これは麗奈のアイデンティティでもあるのです!」


「そうか。喋りにくい時は無理に使わなくてもいいからな」


「龍兄、ありがとなのです」


 みんな慣れてしまって疑問に思わなかったが、麗奈の話し方には理由があったのである。


 


「さ〜てと、今日は色々と分かって有意義なキャンプになったわね」


「真由美ちゃんの告白も聞けたしねぇ」


「そ、そうだ、まゆが告白していたな……」


「あら、先生も告白させていただいたわよ」


「その話、もう少し詳しく話すのです」


「肝試しの時に本気告白させてもらったわよ。ねぇ〜佐々川くん」


 全員が龍仁に視線を移す。


「あ、あぁ……告白された」


「彩木さんもライバルに加わったことだし、ガンガン行かないとね!」


「この中では、わたしが一番早く告白してるのよ。忘れないでね、先生」


「麗奈は毎日言ってるのです!」


 


 自分だけ告白していない事実に気付かされた西園寺。


 一度「好きなんだ」と口に出したことはあるが、病院のアナウンスにかき消されて届いていない。


 焦った西園寺は、日常と違う環境と雰囲気に押されて行動に出る。


 


「じ、仁!」


 突如立ち上がる西園寺。


「おっ、おぉ。どうした七海」


「わたしは! じ、仁にょ、きょとぎゃしゅしゅしゅ」


「ナナちゃん! しっかりするのです!」


「七海ちゃん! ファイト!」


「七海ちゃぁん! がんばってぇ!」


「西園寺さん! 気合よ!」


 女性陣の応援。その言葉に後押しされる西園寺。


「わ、わたしは! 仁のことが好きなんだー!」


 龍仁以外の全員から拍手が沸き起こる。


「えっ? 七海……?」


「す、好きだ! 仁のことが大好きだ!」


 


 全てを出し尽くした西園寺は、その場で崩れ落ちた。


 真由美と美春が西園寺を支えながら座らせる。


 復活するのに時間がかかりそうだと判断し、女性陣全員でテントへ運ぶことにした。


 


「な、何がどうなってんだ……?」


「龍仁。これだけの女性から告白されたんだ。無視するわけにはいかないぞ」


「いや、でも俺にはどうしていいか分かんねえよ……」


「答えを出すのは直ぐじゃなくていいって。それは彼女たちも分かってるよ」


 困った顔で頭を掻きむしる龍仁。


「真剣に向き合ってやれよ。ちゃんと見つけてやらなきゃだぞ」


「何を見つけんだよ」


「恋だよ」


「そんなもん、どうやって見つけんだよ……」


「龍仁は今まで通りでいいさ。ただ、彼女たちの気持ちを真剣に考えてやれ。その結果、誰も選ばなかったとしても、真剣に考えた結果なら分かってもらえるさ。まあ、それで彼女らが諦めるかどうかは別問題だけどな」


「南藤。これからは色々と相談にのってくれ。俺一人じゃどうしていいかサッパリだ」


「分かってるよ。任せておけとは言えないが、できるだけ力になるよ」


「頼りにしてるぜ」


「ささっち〜大変だね〜」


「大変だよ……」


「それにしても」


「何だ?」


「ライバルなのに凄い応援してたな。不思議な連帯感だな」


「ライバルだけど〜、やっぱり友達だからじゃないかな〜」


「そんなもんなのかな。女性の気持ちは良く分からないな」


「だから藤田に告白できないんだろ。いいかげん告白したらどうだ?」


「ちょ、ちょっと待て! いま俺の話はいいだろ!」


「よくよく考えたら、恋は俺に任せとけ! って顔しながら話してたけどよ、南藤はどうなんだよ」


「てっちゃん告白しちゃえばいいのに〜」


「い、いや、告白して振られたらどうすんだよ! 店に行けなくなるだろ!」


「南藤。自分のことは見えてないんだな……」




 これで、龍仁に恋する彼女たちの気持ちが、すべて伝えられた。


 ライバルでありながら応援できる不思議な関係は、彼女たちにしか理解できないのかも知れない。


 そして、四人もの女性から告白された龍仁。


 いまだ恋愛感情が分からない彼には、航海図も何もなしに大海原へ出航したようなものだろう。


 龍仁は、自分の港を見つけることが出来るのだろうか。


 恋を探す旅は、まだ始まったばかりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る