閑話:ザザ
◇◇◇
ある夜ザザはリリスの胸に埋まりながら益体もない事を考えていた。
(俺は果たしてリリスの体を愛しているのだろうか、それとも心だろうか。あるいは両方なのだろうか)
恋人は要らない
家族は居ない
友も不要だ
そう思って生きてきたものの、ここ最近はどうにも独り寝が寂しくなっている様な気がする…独りで寝るのはまあいい、だが独りで死ぬのはどうだ?
俺がくたばっても皆すぐに俺のことなど忘れるのだろう。
それは少し寂しいことだ。だがそういう生き方をしてきたのも事実だ…とはいえ、やはり少し寂しいものは寂しいのだ…
秋の背が見えてきたせいか、夜になれば多少は冷える。
夜の寒さが心を弱めているのだろう、とザザはリリスの●首を◆いながら考えていた。
◇
「ザザ様、先ほどは何を考えていたのですか?他の女性の事…ではありませんわね、もっと…そうですね…どうでも良い事ですわね」
――どうでも良いということはないだろう
ザザは苦笑する。
「ザザ様?余計な事を考えず、楽しく、思うままに生きて下さいまし。仮にザザ様が道半ばで斃れたならば、少なくとも私だけはザザ様を想い泣きましょう」
リリスの言葉を聞いたザザは決心した。
明日もリリスを抱こう、と。
そのためには金を稼がねばならない…
ザザが駄目なのはこういう所なのだ。
身請けをするとは言えない。
金銭面でもあるまい、彼は金等級冒険者だ。死ぬ気で稼げば高級娼婦の1人や2人、どうにでもなろうだろう。まあリリスを見請けするとなれば1度の死ぬ気じゃだめで、数度の死ぬ気を求められるかもしれないが…。
結局彼は最終的な責任を取るのが怖いのだ。
魔狼でも鬼でも賊でも、なんだったら竜に挑むことさえ恐れないザザだが、失敗しても失われるのが自分の命1つであるなら大して怖くはないとおもっている。だが結婚などは別だ。
下手を打てば愛する者の人生を失わせる羽目になる。
まあそんな悩みも、リリスの●首を◆っている内に忘れてしまうのだが。
◇
翌朝、ザザはギルドへ向かった。
依頼探しといえば依頼探しだが、そうでないとも言える。“奴”なら良さそうな依頼に心当たりはあるかもしれない、そう思い立ったからだ。
そして暫く待っていると“奴”がやってきた。
「よう!ザザ!相変わらず辛気臭いツラしてるなぁ!む!?女の匂いがするぜ…さてはまた娼館か!?だが金が「それだ。ランサック。稼げる依頼はないか?単純なモノがいい。つまり討伐依頼だ」…討伐ねえ…」
ランサックの長口上が始まる前にザザが被せて尋ねた。
それをきいたランサックはしばし考える仕草を見せる。
「討伐依頼…ってわけじゃねえけど、俺個人の手伝いならあるぜ」
いつもヘラヘラしているランサックの真面目面を見て、ろくでもない依頼なんだろうなと思いながらもザザはランサックに依頼の詳細を聞いた。
「なあザザ。討伐依頼なら何でもやるか?俺の手伝いだけどよ、金貨を三百枚出す。俺個人の資産からじゃねえけどな。ルイゼが出す」
ルイゼ・シャルトル・フル・エボン。
我等がギルドマスター。
ザザは顔を顰めた。
複雑な心境だった。
金貨三百枚というのは、リリスを30晩買える。しかし報酬に見合った危険さもあるのだろう。
ルイゼ絡みの依頼など黒金等級のそれではないか。だがランサックが声をかけてきたということは、少なくとも自身の力が全く通用しないという事でもないのだろう。
勝算があるのならば、金貨三百枚という額を諦めるには惜しすぎる。
正しく命を賭けるに値する額だ。
(ちくしょう、こんな依頼は受けずにいままで通りチビチビ稼げばいいじゃないか。だが俺はリリスを抱きたい。もっと沢山抱きたい…沢山だ!畜生!毎日抱きたい!)
「話せ。何でも受けてやる。何を斬ればいいか言え。だが金を貸せ。出発は明日以降だ。やばい山なんだろう。俺は死ぬかもしれん。ならリリスを抱いて置かねばならん。」
ランサックはどこかうっそりと答えた。
「何でも斬るんだな?」
ザザはチッと舌打ちして答える。
「ああ」
ランサックはザザの目をみながら再び口を開く。
「魔族でも?」
ザザは目を細め、頷いた。
「魔族でもだ」
ランサックはにやりと笑い、ザザの手に金貨を握らせて言った。今晩リリスを抱くための金だ。
「出発は明日の晩。ギルドへ来い」
ギルドから去っていくランサックの背を見送り、ザザはため息をついた。
娼婦を抱く為に命を賭ける羽目になるとは俺はなんとアホなのだろう、と情けない想いを抱く。
しかも強制されたわけではない。
自分の意思で命を賭けているのだ。
これを低脳と言わずして何を低脳といえばいい?
――だが斬ると決めたなら斬る
――斬れなければ、死ぬだけだ
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