2章・第4話:シルファの頼み
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結局、依頼は首尾良く終わった。
ただし、馬車を目的地まで送り届けるまで一切会話はなかったし、アタランテにいたっては目が合うだけで泣いて謝罪してきた。レイやジリアンは涙を浮かべ、アタランテの前へ立ち唇をかみ締めながら覚悟を決めているし、ジャドは死体のように蒼白な顔色で幾ら差し上げれば宜しいのですかなど等と聞いてくる。
こういった状況を首尾良くと言っていいのかは甚だ疑問だが、兎にも角にも襲撃の類はそれ以上は無かったし、荷だってちゃんと過不足無く運べた。
クロウは自分を恐れるジャド達を見ても苛立ちなどは覚えなかった。
理解されない事には慣れているからだ。
だが、これまでのクロウであるならそこで思考は止まってしまったかもしれない。
しかし今のクロウは違う。
一皮剥けたのだ。
精神的に成長をした。
死を乗り越える事は人を成長させる。
だから0から、いや、マイナスの評価からでも目に見えない何かを積み重ねて行く事で、彼等と再び仲良くなれると信じていた。
ただし……信じているだけで、じゃあ具体的に何かをしたかというとそういうわけではない。厭うているのではなく、何をすればいいのか分からないのだ。
その領域に至るにはいま少し成長する必要がある。
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「よう! クロウ! 随分元気そうじゃねえかよ、なんだよその目は? ははーんこの前の事を気にしてるのか? まあまあ、俺はランサック。寛容、それが俺の代名詞。ポーション代を請求なんてしないぜ、なんといったって俺は稼いでいるからな。ところで聞いたか? 王城にニルの森のエルフの生き残りがきているって話。なんでも礼をさせてくれとのことらしいぜ。全員殺されたわけじゃなかったんだな、よかったよかった! まあ俺は何もしていないわけだが! いや、クロウ、お前さんにポーションぶっかけたか! ははは、ああ? 鐘がなってるな、いけねえ! これから飲み会があるんだ、じゃあな」
ランサックは手をひらひら振りながらギルドを出ていった。
クロウは彼に密かにランサック新聞と名づけている。
くすりという笑い声が聞こえ、振り返るとアシュリーが苦笑している。
「クロウ様、申し訳ありません。ランサック様も悪気があるわけでは……」
クロウはアシュリーの謝罪を遮る。
「あの人には助けられましたから、それにランサックさんの話はタメになります。不思議な人ですよね」
クロウがそういうと、アシュリーは頷いた。
「はい、ランサック様は少し特殊な立場なのです。ただ公言する事ではないので……」
うん、とクロウは頷いた。
それなりに強くなったクロウには分かる。
ランサックと殺しあったとしたら、殺されるのは多分自分だろう。
ああ、そうだ、とアシュリーが言い出した。
その雰囲気に、クロウは何となく面倒事の気配を感じる。
「シルファさんがですね、3日後にお時間が取れないかと仰っていましたよ。クロウ様の宿へいきなり出向くのも失礼だからと先触れを頼まれたんです。どうでしょう?」
「わかりました」
クロウの答えはYES。当然だ。
クロウは確かに成長はした。
精神的にはやや前向きになった。
しかし、バラバラになったグラスの破片を慎重に元の形へ組み立てようとした所で使い物になるわけではない。
1度メンブレ(メンタルブレイク)した精神はブレイクしたままなのだ。
誰かに何かを頼まれたら、それが出来るものならばYES。
出来ないものでもYES。
まあ後数回死にかければ(成長すれば)そんな奴隷根性は多少改善するのかもしれないが……。
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