第31話
――塵家
中秋節で屋敷に宗主が戻ってきた。
宗主に呼ばれて塵有眉は祠の様子を報告しに祠堂に呼ばれた。
真っ黒な漆喰で八角形に作られた一角は許可がない限り直系であっても入ることができない場所だ。
蝋燭の灯りがあるが閉じられた祠堂の室の中は薄暗い。
胸の前で手を合わせて有眉は報告をする。頭を下げて目を見ないように気を付ける。
「有眉」
「はい。ここに」
「呼んだ理由はわかるな」
「祠の中に妖気は一切残っておらず塵家と桃家の門弟も撤収し参拝者の出入りも許可しました。祠は立て直し生まれた龍神を祀りました」
パシッと扇子を閉じる音が響く。
「そんなことも謝家に頼らなければできなかったのか。祠のあった土地は代々塵家の土地だ。祀られていたのが妖龍だったなんて恥さらしもいいとこだ」
叱りつける声に有眉は即ドンと膝を床につけて謝った。
「申し訳ありません」
怒りは収まることなく手のひらから一撃を出される。
有眉は衝撃を受け内臓から込みあがってくる咳を奥歯を噛みしめてぐっと耐えるが口の端から血が漏れ流れた。
「仕向けずとも桃威殿が謝砂も祠に向かわせたのに始末できないとはまったく情けない。驍家の屋敷で回収するつもりだったのにすでに先を越されていたとは」
有眉はなんのとか唾と口の中に溜まった血を呑み込んだ。
「浄化された魂霊丹を謝宗主が持っていたのは想定外だったのです。塵当主」
塵当主は続けて言う。
「腕輪も使い捨てになってしまった。仙世家は知らぬが魂霊丹をつくる元は妖丹だ。石像に入った妖丹は手に入れたがこれはもう少しだったのに残念だ」
「申し訳ありません」
有眉はまた謝った。
「門弟の魂を修復したのは謝砂らしいな」
修復された魂を有眉に見せ手に黒い煙を纏いぐっと魂を掴んだ。
魂の中には白い煙のように輝く元神が入っている。
「何をなさるのですか?」
有眉が門弟の生霊を中に戻したはずだった。なぜ目の前にあるのか分からない。
「ふんっ。何も出来ぬわ。塵家の師弟と門弟は忠誠を誓うため支障がない程度で魂の一部を祠の妖丹に吸わせていたのにその傷も修復して完全な魂に戻している」
有眉に向かって魂を投げた。
有眉は割れないように拾い腕の中に抱える。
「妖気に直に触れても傷もヒビも入れることができない。妖丹に魂を吸わせることもできぬから傀儡としての使い道もない」
「門弟を殺したのですか?」
「縁談の一つもできなかった無能でも察しはいいのだな」
「殺す必要はないはず……くっ」
有眉は言いかけて続きを話せなかった。
暗闇の中から飛び出てきた腕には隕鉄で作られた腕輪がはめられていた。
黒い煙が飛び出し紐のように出有眉の首に巻きつくとぐっと絞められる。
腕輪にはめられた珠には自分を含めた師弟たちの魂の一部が吸われているため反抗して傷をつけるわけにはいかない。
「お前にもう用はない。外に出れば修復された魂でも入る体がなければすぐに消えるだろう」
煙が首から解かれると首には火傷をした後のようにヒリヒリと痛む。
気道は空気を急に吸い込んで咳込んだ。
「ゴッホ、ゴッホ」
「そうだ謝家に世話になった礼に贈り物を用意した」
「――失礼します」
有眉は静かに祠堂を出た。
扉が閉められ有眉は抱いていた魂を見た。
涙がポタポタと流れたが拭くことをせず歩いた。
少し離れた庭先の橋の上で塵昌が月を眺めていた。庭の池に灯篭が浮かんでいる。
ぐっと袖で涙と血を拭った。
「塵昌ひとりでいるの?」
「姉上! 心配で見つからないようにこっそり待っていました」
「今日は中秋節だったわね」
「それは……」
塵昌は有眉が抱えていたものを見た。
「この池は川につながっています。姉上門弟たちが無事生まれ変われるように流してあげましょう」
塵昌は池の中に入り浮かんでいた灯篭を一つ持って消えかかっている魂を中にいれ灯篭を流した。
ゆらゆらと浮かぶ灯篭を見送った。
謝家仙府がある
月が出ていた夜だった。
子の刻になっていたが酔っぱらった男が一人歩いていた。
嶺家荘の東街の足のたもとに一本の橋が架かっていた橋の上に人影を見つけた。
「夜更けに月見かい。お前さんも酒を飲んだのか?」
道を遮られて仕方なく声をかけるとその人影は近づいた。
「俺の舌は長いか? 見て答えたら通してやる」
酔っぱらった男に顔を近づけて長い舌を出した。
「うわぁぁぁ。鬼、鬼がでた!」
男は叫びながら逃げ出したが家に着くと病気になり起き上がれなくなった。
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