第40話【サルでもわかる古文書入門】
著者 古草伊代
(郷作村に関係する部分のみ抜粋)
(中略)
次は400年ほど前の江戸時代初期の古文書です。現代で言う徴税官の職に就いていた役人さんの残した私的な愚痴のようなものです。
(原文略)
では、現代語訳した文にうつります。
(訳)
「はぁ〜、もうやんなっちゃうよ。郷作村の奴ら、また税を滞納してるよ。もう何回目だよ、勘弁してくれ。俺の出世に響いちまうよ」
(著者コメント)
今も昔も中間管理職は大変なものです。この方も苦労されていたようです。ちなみに、この方は筆まめな方だったようで、この時代には珍しく他にも多くの愚痴を残されています。笑
(中略)
(訳)
「どうやら本馬村に年貢の受領に向かった部下が行方知れずになったようだ。もしや横領じゃないかと皆が騒然としている。なんでも、村で年貢を受け取ってから戻ってくるまでの間に失踪したそうだ。真面目な部下だと思っていたのになぁ。通り道に在る郷作村には来ていないってことは逆側に逃げて行ったのだろうか。ともあれ、これがお上にバレたら大変なことになる。なんとか隠蔽しなくては。忙しくなりそうだ」
(著者コメント)
当時の日本(江戸時代初期)は、世界有数の鉱山大国で金銀が豊富に産出し、幕府の大きな財政基盤になっていたようです。しかし採れすぎてしまったせいか、その他の税に対する幕府の姿勢はかなり杜撰だったようです。税が採れる土地を正確に把握していなかったいわゆる検地漏れをはじめ、賄賂や脱税も横行していたそうです。この怠慢のツケは金銀の産出量が衰退し始める江戸時代中期以降に支払うことになりましたが、この時代には脱税は珍しいものでもなかったということが古文書から窺えます。
ちなみに、この時の隠蔽工作は後日露見したようで、彼は左遷されてしまいました。税の管理はずさんな時代ではあったものの、やはり一つの村の収穫がゼロというのは通らなかったようですね。笑
「つまりね、この江戸時代初期くらいの時点で郷作村は貧乏だったみたいなの。あ、そうだ。それで思い出した。さっきの大地君達の話。郷作村が裕福だって話してたよね? それがおかしいなって思ったんだった」
結芽は手を合わせぽんと打ちながら、何でもないことのようにそう発言する。そうだったそうだったと頭を掻きながら舌を出している。
しかし、すぐに真顔になると自身の富地米村に対する見解を発表する。
「税を滞納するくらい貧乏だったってことは、この時代にはもう金鉱山も枯れちゃってたんじゃないかな。でもね、流石に人は食べてないと思うよ? きっと鉱山が枯れちゃって貧乏になっちゃったけど、代わりに農業を頑張ったんだよ。修験者さんの奇跡もあっただろうけどね。それで美味しいお米と里芋を作れるようになった。そういう事だと私は思うな」
結芽はそう熱弁すると、最後の餅を口に放り込み、焙じ茶で流し込む。
「あ、ごめんね。私、もう行かないと。今日はこれでさよならかな? 信玄餅ありがとうね、大地君。律ちゃんも豚丼楽しみにしていてね」
結芽はそう言い残すと、胸の前で小さく手を振りつつ部室から去っていった。先程律に良いように弄ばれた恨みつらみなど微塵も見せずに微笑みながら。
部屋に残った一同は大いに困惑していた。
「……先輩、最後にとんでもない爆弾を置いてったな」
「最初から何も期待していなかっただけに意外だ。ちゃんと調べていたんだな」
「取り急ぎ豚丼の日程を調整しなければ」
秀一郎のあんまりな感想と、律の的外れな意見に大地は苦笑いを漏らす。
しかし本日の収穫は大きかった。やはり仲間は良いものだ、大地はそれを強く再認識した。
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