異世界なんて二度と行くかボケェェェェェェ!
森林梢
第1話 受け入れがたい事実の大渋滞
「
「……」
色々と言いたいことはあるが、まず人の死でウケるな。倫理観バグってんのか?
不満を飲み下し、眼前の自称女神を睨みつけた。
パリコレモデルも真っ青のプロポーションを有している。
脚はすらりと長く、白い肌はきめ細やかで、顔は今まで見た人間の中で最も小さい。
彼女が身を捻るたび、艶やかなブロンドの長髪が揺れ動いた。
枝毛もなければ癖もない。髪の一本一本が、金細工なのではないかと思うほどだ。
年齢は、俺より少し上くらいだろうか。一八歳以上、二〇歳未満と推測。
服装は、やや扇情的だ。
身に纏っているのは、着物めいた羽衣一枚だけ。
肩や鎖骨、胸元、太ももを大胆に露出している。
ああいうの、オフショルって言うんだっけ。
スリーサイズは、上から、B81、W58、H83くらい。
俺が好きなAV女優とほぼ一緒だな。
脳内にて、女神もののAVを自主制作しつつ、同時並行で彼女と出会うまでの過程を思い出す。
◇
死んだ自覚は無いが、雪見だいふくが喉に詰まったことは覚えている。
何で、二つとも一気に食べようと思ったんだろう。
今年のダーウィン賞は、俺が選ばれるかもしれない。割とマジで。
ていうか、あの賞、アメリカが強すぎるだろ。
おっと、話を戻そう。
ダブル雪見だいふくの苦しみから解放されたと思ったら、いきなり眼前に、照明が一つもない真っ暗な空間が登場した。
何も見えない。見通せない。
にも関わらず、自分の身体や手足、着ている衣類だけはハッキリと視認できる。不思議だ。
ここはどこだ? 誰かいないのか?
軟禁? 監禁? ではなさそうだな。手足の自由は利く。
立ち上がり、周囲を見回してみる。
何も見当たらない。ひたすら真っ暗だ。
閉鎖空間なのか、広大な場所なのか、それさえも判然としない。
よし、何でもいいから叫んでみよう。反響の具合で、広いか狭いかくらいは分かるはず。
「ピーリカピリララポポリナペーペルトォォォォォォォ!」
どこまでも響き渡る呪文。当然、闇からの返事はない。
めげずに、繰り返し呪文を唱える。
「ピーリカピリララポポリナペーペルトォォォォォォォ!」
「……」
「ピーリカピリララポポリナペーペルトォォォォォォォ!」
「……」
「ピーリカピリララ」
「うるさいです」
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
いた。人だ。多分。
断言できなかったのは、声の先に、誰もいなかったから。
俗に言う【天の声】っぽい。
虚空からの注意に恐れおののいていると、光の粒子めいたものが、一か所に集まり始めた。
無数の粒子は、徐々に人型を形成していく。
そして、一分と経たぬうちに、先の美女へと変化したのだ。
絶句する俺に向けて、彼女が厳然と名乗る。
「我が名は、女神ペシャル」
「……」
【ペプシスペシャルゼロ】の略称みたいな名前だ。女神なのに。可哀想……。
そんな女神ペプシが、次に言い放ったのが、冒頭の台詞である。
◇
「……分かった。死んだことは受け入れる。話を先に進めてくれ」
おそらく、彼女が望んでいた返事のはず。
なのに、ペプシは大きな目を見開いた。
「随分と飲み込みが早いんですね」
「こんな訳の分からん場所で、ジタバタしたって仕方ないだろ。お前に逆らったら、何されるか分かんないし」
「なるほど。物分かりだけは良いみたいですね」
だけ、って何だよ。お前が俺の何を知ってるんだよ。
半眼を無視して、ペプシが言い切った。
「それでは、これより、生前のデータを参考に、今後の処遇を決めていきたいと思います。いくつか質問しますので、正直にお答えください。嘘を吐いても構いませんが、女神である私には通用しない上、マイナス査定の対象となるので、お勧めはしません」
「えっと……、質問については理解した。けど、処遇ってなに?」
問うと、ペプシは面倒くさそうに目を細める。
面倒くさがるな。ちゃんと説明しろ。
「これから貴方が辿る道は、大きく分けて三つ。蘇生。転生。生まれ変わりです。今から行う質疑応答で、三国幸司として蘇生するのか、どこかの誰かに生まれ変わるのか、異世界で誰かに転生するのか、決めていきます」
「あー、ぼんやり分かった気がする」
世に言う異世界転生イベか。おっけー、把握。
『転生ってなに!?』とか『異世界って、どういうこと!?』なんて台詞は、今さら言わないぜ。
「ちなみに、貴方の意思は尊重されますが、決定打になるとは限らないということを、ご理解ください」
「はいはい。分かった分かった」
理解できないとわめいた所で、ここからは出られないんだ。従う他ない。
嘆息すると同時、ペプシが指を鳴らす。
どこからともなく、おびただしい量の羊皮紙が現れ、彼女の背後に整然と並んだ。
全ての紙に、びっちりと細かい文字が記されている。
日本語や英語、アラビア語らしきものもあれば、象形文字や甲骨文字めいたものまである。
その中の一枚が、ペプシの眼前まで、ひらひらと飛んできた。
「ふむふむ……。貴方、生前、かなり恵まれていたみたいですね。親の総資産は100億円オーバー。中学を卒業後は、毎日部屋で漫画を読み、ゲームを遊び、腹が減ったら出前を取り、疲れたら寝る、という自堕落な生活を堪能していた」
「まぁな! 生まれながらの勝ち組ってやつよ!」
「うざ。友達いないのも納得です」
無礼な発言。すかさず反論した。
「と、友達いないんじゃなくて、作らないだけだし! あと、別にマウント取ろうとしてる訳じゃねぇし! あいつらが低すぎて、自ずとマウント取る形になっちゃっただけだし! そもそも、あいつらなんか眼中にねぇし!」
「黙れ中卒ニート」
「ちゅ、中卒を馬鹿にするのは許さないぞ! 学歴差別反対!」
「中卒はバカにしていません。馬鹿にしているのは貴方だけです」
「なおさらムカつくわ!」
こいつ、本当に女神なのか? 雲行きが怪しくなってきたぞ……。
不安に駆られて、堪らず尋ねる。
「こんな会話で、何が分かるんだよ?」
「前世の貴方が不遇されていたか否かをチェックしています」
言った直後。ペプシの背後から、二枚目の表皮氏が飛んできた。
彼女は二名目の紙へ視線を向ける。
「基本的には、前世で不遇された人間は、来世では優遇されます。逆もまた然りです」
「ふーん。優遇って、具体的には?」
「たとえば、事故や事件により、一生ものの大けがを負っていた方には【オートガード】というスキルが標準装備されます。スキル所持者に対する、全ての攻撃を無効化します」
ほぉ。いかにも、って感じのチート能力だな。欲しいっす。
「何らかの不遇により、夢を諦めざるを得なかった方には、【パーフェクトトレース】というスキルが標準装備されます。他者の能力を完璧にコピーできます。コピーできる数に上限はありません」
「夢を諦めたヤツが、コピー能力を得るのか? 繋がってなくね?」
「全ての夢のスタートは、他者への憧れ。すなわち模倣ですからね」
ふぅん。そんなもんか。夢を追ったことが無いから、よく分からん。
ペプシの淡白な説明が続く。
「幼少期に両親を亡くした方には、【ガーディアン】が標準装備されます。分かりやすく言うと、守護霊ですね。また、先天性の持病に苦しんできた方は、【リザレクション】が標準装備されます。自分と仲間の体力&状態異常を、瞬く間に完治することが出来ます。使用回数に制限はありません」
「あー、もういいよ。理解した。結局、俺はどんなスキルが貰えるんだ?」
「貴方の場合、世帯年収が一〇億円を超えているので、さきほど例として挙げたスキルを含む、全ての優遇策が適応されません。よって、異世界転生はお勧めしません」
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