第4話

   

「えっ? 絵じゃないの……?」

「つまらないダジャレはしてください、タカシさん」

 タブラ・マルギナータの声は、苦笑しているように聞こえた。

「いや、そんなつもりないんだけど……。それより、もしかしてヨクカクは関係ないのか……?」

「何ですか、ヨクカクって。知りませんよ、私」

 きっぱりと「ヨクカクが秘密裏に開発した魔法の額縁」説は否定されてしまう。ならば一番最初に考えた通り、差出人は単なる偽装だったのだろう。

「最初から順を追って説明しますと……。私、魔法の国から参りました」

「やっぱり魔法の額縁だったのか!」

「違います! 元々は私、こんな姿じゃありません!」


 タブラ・マルギナータの話によると。

 彼女は平和な魔法の国の住人であり、外見的には俺たち人間と同じ姿で暮らしていた。そこに悪い魔法使いが攻め込んできて、特殊な魔法で全ての国民を額縁に変えてしまったという。

「なんで額縁……?」

「知りませんよ、悪い魔法使いの考えることなんて。それより大切なのは……」

 魔法の国には昔から「王国に危機が訪れた時、異世界から来た魔法少女によって救われる」という言い伝えがあった。単なる伝説ではなく、それが事実な証拠の一つとして、異界の女性に魔法の力を授けるようなアイテム――外見的には花飾りのついた手鏡――も、王宮の宝物庫に保管されていた。

「それで、魔法少女を探すという重大な使命を帯びて、私がこちらの世界に渡ってきたのです。『一番波長の合う人間にしか私の声は聞こえない』とか『一番波長の合う人間のところに送り届けられる』という魔法も付与されています。昨夜は私が眠っていたので、肝心の声も届きませんでしたが……」

 目も口もないタブラ・マルギナータだが、にっこり笑ったような言い方になっていた。

「……タカシさん! こうして今、私の声がきちんと聞こえているのですから、あなたこそが、その伝説の魔法少女のはず! さあ、変身の時です! 私たちの王国を救ってください!」


「いや、そんなこと言われても……」

「お宝のアイテムなら、ここにあります。それっ!」

 おそらく、これも魔法なのだろう。タブラ・マルギナータが強く念じると、額縁姿の彼女の前に、ボウッとした光が浮かび上がる。みるみるうちに、それは白い手鏡として実体化した。

 言われるがまま、その手鏡を手にして……。

「ラミスクニクテ・ラミスクニクテ・ルールルルー!」

 これもタブラ・マルギナータに言われた通り、変身呪文を唱えてみた。

 しかし、何も起きない。

「変ですね? 私の声がハッキリ聞こえる以上、タカシさんこそが伝説の魔法少女に最も相応しい候補者のはずなのに……。何がいけないのでしょう?」

 首を傾げるような口調の彼女に対して、俺は冷静に告げた。

「男だからダメなんじゃね? 魔法少女って言うくらいだから、若い女しか変身できないんじゃね?」

「あっ……」

 タブラ・マルギナータは絶句して、まるで普通の額縁みたいに、しばらく黙り込むのだった。

   

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