第2話

   

「どう見てもこれ、ヨクカクのグッズじゃないよな? ヨクカクのロゴも入ってないし」

 ヨクカクというのは、俺が使っている小説投稿サイトの名称だ。カタカナ表記なので類推になってしまうが、おそらく「欲をかく」の方の意味ではなく「良く書く」が由来だろう。基本的には素人小説家のための投稿サイトであり、でもヨクカクからプロデビューするユーザーもいるので、もしかすると「アマチュアとしての評価に満足せず、さらに『欲をかく』ほど頑張って、プロ作家を目指してください」という意味も込められているのかもしれない。


 ……などと今さらのように考えてしまったのは、一種の現実逃避だったに違いない。

 冷静になって現状を見つめ直せば、明らかに不審な贈り物だった。ヨクカクから送られてきたとは考えられない以上、何者かがヨクカクの名前を騙って、これを俺に送りつけてきたのだ。

 しかし……。

「額縁だもんなあ、これ。不審だけど危険じゃないよなあ?」

 左右の枠の部分を掴みながら、ジロジロと眺めてみる。爆発物が隠されているようなスペースは存在しないし、食べ物ではないので毒も入っていないだろう。

 少し気持ち悪い気はするけれど、実害はないように思えた。

「うん。送り主の意図はともあれ、額縁自体に罪はないはず」

 せっかくなので有効活用しよう、と決意する。

 改めて自分の部屋を見回せば、ポスターの一枚すら貼っていない。殺風景な室内なので、これに絵を入れて飾ったら、ちょうど良いではないか!


 それから数分後。

「うん、これで良し!」

 絵の入った額縁をベッド脇の壁に設置して、俺は満足そうに笑みを浮かべていた。

 額縁の中では、金髪碧眼の童顔少女がツインテールをふんわりさせながら、こちらに向かって「よろしく!」と手を差し伸べている。

 俺の小説のヒロイン、アル子のイラストだった。俺自身に絵心はないが、以前にヨクカクのイラストプレゼント企画に当選して、イラストレーター様に描いていただいた挿絵だ。今まではPCの中で閲覧したり、スマホの待受画像にしたりするだけだったのを、この機会にプリントアウトしたのだ。


「おやすみ、アル子」

 はたから見れば気持ち悪いだろうが、どうせ誰もいないので大丈夫。一人暮らしで良かったと思いながら、俺は絵の中のアル子に挨拶して、ベッドに横になった。

 最初に感じた額縁の気持ち悪さなど忘れて、ぐっすり心地よい眠りだったのだが……。

   

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