🏥 コクリツ病院は永遠に 👴
医師脳
第1話 跳んだ厚生技官
2022年4月1日、津軽地域の新たな中核病院〈独立行政法人国立病院機構弘前総合医療センター〉が、弘前市富野町に開院! (エイプリルフールのネタではなかった)
25年以上も昔の話だが、産婦人科医で勤務したことがある爺医としては「誠にご同慶の至りである」と申し上げたい。
そして記憶をグ~ンとさかのぼれば……。
1996年元旦には、こんなことを書いていた。
〈跳んだ厚生技官〉
医学部を卒業した後も、大学病院に籍を置き、文部教官として生きてきた。
ところが次期教授選に先輩方が乱立し、結果は総崩れ。映画の白い巨塔を見るように、私も45歳で第二の人生を目指した。
しかし間もなく、文部教官と厚生技官とでは、求められることが大いに違うと気づいた。
国立弘前病院の建物を見て、初度巡視にきた年配のお役人は呟いた。
「昔の療養所だねぇ」と、懐かしの名画『愛染かつら』を連想したのだろう。
応接室には歴代病院長の写真額がずらりと並ぶ。懐かしいお顔もあった。仲人をしていただいた中村家本家の豊弥先生だ。いつかは自分の写真も並ぶはずだ、と団塊世代の悲しい習性に火が付く。まだ『病院長ポストが退官教授の天下り先』というムラの掟を知らなかった頃だもの……。
それから1年後、なり手のいない医局長に手を挙げた。院長印からから始まるハンコの行列の末席に自分の三文判を押す係である。厚生省や地方医務局から出される通達の中に、興味をそそられるものも稀にはあった。
1995年10月25日から27日までの3日間、管理者研修会が国立医療・病院管理研究所研修部で開催されるという。参加するためには論文審査があり、テーマは〈国立病院・療養所の果たす役割について〉だった。
「国立医療機関の21世紀構想―Huge Medical Service GroupからNational Medical Service Networkを目指す―」が浮かんだ。
研修会の最終日。最初のパネラーとして〈21世紀構想のキーポイント〉を、次のようにしめくくった。
「National Medical Service Networkを実現し、これを成功させるためのキーポイントは、施設の単なる統合による再編成ではなく、新しく勤務する職員の徹底した意識改革です」
「それには、National Medical Service Networkの理念を理解し、それぞれの施設の果たす機能ならびに自分自身の役割が大きく変化することも納得したうえで、新しい職場へ再就職するという形を取ることが望まれます」
「その際、医師などの幹部スタッフは、全国公募ないしは地方医務局ごとに公募することが必須であり、それぞれのネットワーク内で人事異動を行うとともに、その枠を超えた広い交流が重要です」
「個人や施設の持つエゴや既得権を放棄し、国立医療機関に勤務する5万人が揃って痛みを分け合うことにより、国民は初めて21世紀における国立医療機関の存在意義を認め、National Medical Service Networkの新生を祝福してもくれるのです!」
スライドも終わり、明るくなった会場に割れんばかりの拍手。
……は、起こらなかった。
あと3年後の西暦2001年には、どうやら全国の国立病院や療養所が消えるらしい。国立の医療施設が大量に必要とされた時代は、とうの昔に終わっていたのであろう。
全国で一斉に五十周年記念式典が行われたことからも、雨後の筍のように国立病院療養所が開設された戦後混乱期がしのばれる。
その後の結核患者減少により、昭和30年ごろには当初の開設目的は達成されたはずであった。
しかし国立であったがため(首切りもできず)未だに200以上の国立病院療養所が存続してきたのである。
――と、1996年元旦の憎まれ口を忘れさり、2001年には(国立病院療養所の総本山とも言うべき)国立国際医療センターに転勤したのである。そのきっかけは弘前病院時代に、臨床産科情報ネットワーク(Clinical Obstetric Information Network:COIN)を創設したことや、ホスプネット(HOSPnet)研究会会長になったことなのだが、それはいずれまた別の稿で……。
――追記(20220602)散歩がてら富野町方面へ出かけた。もはや『愛染かつら』を連想させるものは微塵もない。しかしOBの末席を汚す身としては、つい今でも「コクリツ病院」と言ってしまう。そして、こんなフレーズさえ……。
「我が巨人軍は、永遠に不滅です!」
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