6.ネタばらし
☆☆
あゆ専属のマネージャーとして働き出して2週間が過ぎたころ、勘のいい彼はもう気が付いたらしく質問してきた。
相棒らしく答えるしかないだろう。
なつは使われていない部屋にマネージャー見習いを押し込んだ。
「やたらと見かけるやつがいるんですが、あれがストーカーってやつですか」
(これはばれたと判断していいわよね)
「……アユの使い君、座ってくれる?」
「はい」
「あの子、君の契約期間が終わったとき。あなたに気づかれなったら結婚するつもりらしいのよ」
「はぁぁぁぁ?」
「賭けの対象って感じ。まぁ、言い出したのはなつだけど、そういう反応になるわよね」
女子高生になり立ての提案に乗るマネージャーもいい性格をしている。
「はぁ。誰っすかそいつ」
「一般の方。21歳。道で偶然にあった人だって。ある日、ぶつかってこれは運命の出会いだからって」
「乙女ですか! そんなの偶然ですし、そのあとの出会いはつけられて、演出されたものだとおもいますよ。いいヒトだっていう保証ないですよ」
「だから、縁談話を一緒につぶしてほしいなって」
「わかりました。まだお二人とも高校生ですよね?」
「ギリギリね」
「そんなのに引っかかるなんて相棒やめたいくらい馬鹿だなと思うわよ」
「ですよね」
「だからあなたを私所属のマネージャー見習いにしたいの」
「今はあゆみさんの専属っすよね」
「そうね。あなたに気づかれずに付き合い続けることができたら引退して家庭に入るらしいわ」
「あなた、止める?」
「まだキャリアを追いかけた方が」
「私もそう思うし、一緒にやりたいと思う相棒はあの子だけなの」
さんざん同じ事務所内の子たちと会って、この結論なのだからあゆみには悪いが、アイドルを続けてもらわないと困るのだ。
それは複雑だろう。
「で、俺に何をしてほしいというんですか?」
「徹底的に邪魔して、これが彼氏の容姿」
写真を見せられる。
「あっ、何度か見たことあるストーカー候補。不審者じゃなかったんですね。わかりました」
それからはアイツを徹底的に排除することになった。
カノジョがトイレと言って遠い場所に行こうとするなら「こちらのトイレのほうが近いです」
と連行。妙齢の女性には嫌かもしれないが、警護も兼ねているのだ。彼氏のほかにもどこかでSNSに上げようとしているやつはいるかもしれないのだ。
☆☆
おかしい。
最近、彼氏に電話できなくなった。
暇がなくなったのだ。夏海とマネージャーのいる場所では連絡を取れないし、隙間時間には使い君が徹底的にいるようになったのだ。
控室、トイレの道まで警護となると家の中しかないが、その時間には彼氏は寝ている。
悪循環だ。とりあえず彼氏には忙しくなってきたからとラインを入れた。
「使い君にきづかれたかも」
心なしか夏海も一緒にいる時間も増えている気がする。
☆☆
ライブ前日
当日の衣装を着てリハーサルだ。
「思ったよりもフリフリだな」
「かわいい系着ないからだよ。足の所作を付けないと色々見えちゃうよ」
「ガザツな性格とか」
「あゆ」
トレーナーが始めの合図を出す。
踊りだす2人。
長年、組んで練習してきただけあって一糸乱れぬ完璧な振り付け。
「どうだった?」
「素人目には完璧です」
「素人に意見も止めないの。サビ前、5ミリずれていたわ」
ビデオを回していたようで、2人に確認させる。
「「はい」」
こうして緻密な振り付け指導が続く。
なぜだか、高学歴に目を付けられて、警備員の統括を任せられた。
(経費削減っておかしいだろ。素人に何やらせんだよ)
SNSで東京のどこかでやっているという情報だけを頼りに借りたライブスタジオを特定できるとは思えないが、予想外にしつこいのがヲタクという生き物である。
厳戒態勢に越したことはないのだ。
現在の警備に3割、当日の警護の最終チャック表に7割ほどの意識をもって仕事をしていた。
ライブ当日
直接アイドルを見られるわけではないのだが、外には人だかりができている。
外に集まったわずかな聴衆の中にあゆの彼氏がいた。
(いや、この中で、来ちゃうの、勇気ありすぎでしょ)
彼はモテるって感じのさわやかな雰囲気をしている。
(ぜったいにあゆに会えない時間にほかの女と遊んでそうだ)
偏見である。しかし、あゆと会えない間、彼がどこでだれと何をしているのかまだまだ分からないことだらけだ。
女性と一緒にいるかと思いきや、男性一緒にいる。
(友人って感じかな。いや、恋人のライブに友達連れてこれるのすごくね。うっかり話したりしないのかな)
自分なら話してしまいそうだが。よほど口の堅いひとなのだろうか。
(まぁ、噂にならなければいいのか)
直接接触できるわけでもないので、彼氏のことは見逃して、他の不審者を探す。
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