第二十九話:ワクワク婚約者探し!


 食堂でジャックに絡んでご飯をもぐもぐしている時、私に天啓が落ちてきた!


 そういえば闇ギルドの副マスターが腹黒のイケメンだったはず!

 くっくっく……。確か名無しだからネームレスとか言うかっちょいい名前だったはずよ。

 私が死ぬ前に何度、攻略しても殺しにきた忌々しい腹黒イケメンが!


 ふっふっふ。私の帝国の力を使って婚約者にしてやるわ! オーホッホッホ!




 ようやく悪役皇女の本領発揮ですか?




 ◆◇◆




 ふっふっふ。


 なんでか知らないけどサンドラちゃんが闇ギルドの場所の知っていたから、頭を撫でこ撫でこして教えてもらったわ!


 とりあえず警護としてアルを連れてきたけど……でも、なんでかしら?

 なんで、みんな私を見るとプルプル震えてるの?


 うーん、まぁいいわ!

 私の参上よ!


 私が華麗に馬車から降りるとガッシャーン! っと私が降りた馬車の上に大柄な獣人さんが降ってきた。


 な、なにやつ!?


「オラァァッッ、覇王マリー様の馬車だと知っての狼藉かァァッッ」


 アルがすぐさま悪鬼のような顔になって馬車の中から突き破って天井に飛び乗って獣人を掴み上げた。

 すると、その横に頭から血をかぶった可愛らしい女の子が降ってきた。


 あ、あの子! ゲームで私を何度も暗殺してきた子じゃないのよ!


 私があわあわしていると、アルが横に現れた女の子へ素早く剛腕を振る。が、女の子はまるで曲芸師のように体をくねっと曲げて避けた。


「ほぉッッ。我が拳を避けるとはッッ。貴様ッッ、名は何だッッ」


 アルは上半身に力を入れると服がハチ切れて飛んでいった。


 脳に翼が生え、飛翔しそうになった。


 その女の子は短剣を顔に持ってきて、小さく口を動かす。


「公国リファール男爵家次期当主エマニュエル」

「ほうッッ。名高いリファール家とはなッッ。だがッッ、公国に仕えているというのにッッ、我ら帝国に歯向かう気かッッ。愚かなりッッ」


 アルは足を広げて拳を構えると、音を置き去りにする速度で拳圧を飛ばす。

 エマニュエルはそれを最小の動きで避け、一瞬で私の目の前にやってくるとなぜか跪いた。


「寵愛の子にして魔を統べる鮮血の精霊第六覇王、御無礼申し訳ありません」

「ほうッッ。我が神拳を避けるだけではなくッッ、我がマリーお姉様に挨拶するとはッッ。殊勝な心がけだッッ」


 馬車からドンッと降りたアルは腕を組んでエマニュエルを睨む。


 いや、意味がわからないんですけど。

 どうして戦ってたのに力強く頷いてるの?


 混乱に襲われたが流石に女の子を痛めつける趣味はないので女の子に声をかける。


「大丈夫よ。気にしないで」

「その天上なる御身ありがたき幸せです!」


 なぜかエマニュエルちゃんがザメザメと泣き始めた。


 あ、あなたゲームじゃ隙あらば殺しにかかってきてなかった?

 なんか性格変わってない?



 後ろを見なさい、後ろを。その殺気を放っているおっかない弟を。



 私が呆然としていると、エマニュエルちゃんが血みどろの短剣の柄を私に向けた。


 な、何よ……。


「私たち公国リファール男爵家はマリヴォンヌ様に忠誠を誓っておりますゆえ、我が剣を受け取っていただければ」


 え、えぇ……すっごい血が付いてるんですけど。

 というかあなた公国の貴族なのに受け取ったらおかしいでしょ!


 私はアルに救いの目を求めると強く頷いていた。


 このバカ弟! 違うわよ!

 くそぉ、こう言う時に限ってウィルはいないんだから!


 私はできるだけ目を背けながら短剣を受け取り、エマニュエルちゃんの肩を叩いた。


「う、うぅ……ありがたき幸せ」

「これ以上ここにいては、他の方たちの迷惑になります」

「はい!」


 エマニュエルちゃんはぴょんぴょん跳ねながら、獣人の首根っこを掴んで二階へ戻った。


 す、すごい身体能力ね。



 私は血まみれの手をハンカチで拭き取ってから、髪の毛をファサッと靡かせて建物に入る。


 ふっ、闇ギルドめ!

 私がやってきたわよ!


 なんか赤いペンキをぶちまけたように汚かったが、無視して私は肩で風を切りながらバーテンダーのところへ行って肘をつく。


「アル」

「ハッッ」


 アルは懐から金貨を取り出し、半分に折り曲げて渡した。


「……曲げなくていいわよ」

「すみませぬッッ」


 アルは器用に半分に折り曲がった金貨を戻すと、歪になった可哀想な金貨を机の上に叩きつけた。


「出せッッ」

「は、はぃぃぃ!」


 強面のバーテンダーはプルプル震えながらエールをふたつ出すと、逃げるように奥へ入っていった。


 いや、私未成年なんですけど。

 まぁ、帝国では飲めるってのは知ってるけど、さすがにねぇ……?


 流石に前世の倫理観から手をつけずに待っていると、これまた屈強な髭だるまの男性が眦に涙を浮かべながら現れる。


「ど、どうされましたか?」

「ふんッッ。わざわざ聞くのかッッ、要件はわかってるはずだッッ」


 アルは机を掴み、剥ぎ取ると後方へ投げ飛ばした。


「アル、そこまでしなくていいわ」


 私は髪の毛を靡かせ顔を決めて言った。



 あなたは何回、髪を靡かせるんですか?




「あなたもわかってるでしょ? これからのこと……を」


 今よ! 秘技、目を細める!


「は、はい! もちろん闇ギルドはパロメス帝国に忠誠を誓っております!!」

「「「我らの命、パロメス帝国のものであります!!」」」


 髭だるまの男性がそう言うと、いきなり奥からワラワラ人が飛びてできて耳が痛くなる声で叫んだ。


 あ、あの……私、副マスターと婚約しに来ただけなんですけど……。


「マスターと副マスターはいらっしゃる?」

「い、今お取り込み中でして……」


 私の横でぐしゃりと握りつぶす音が響く。

 そちらへちらっと視線を向けるとアルが悪鬼のような顔になって、エールが入っていただろうグラスを粉々に握りつぶしていた。


「貴様ッッ。マリーお姉様が差し出せと仰っているのにッッ、お取り込み中だとォッッ。四股をもがれたいのかッッ!!」


 アルが怒髪天を衝くように髪の毛を立ち上がらせ怒気を発した。


 し、四股をもぐって……。


「ア、アル。言葉遣いが汚いわよ」

「申し訳ありませんッッ」


 アルはその場で自分の顔を何度も殴り始める。


 私はもう脳が飛びそうになっていると髭だるまの男性が泣きながら裏へ入っていった。少ししてジャックとジェレミーが奥から出てくる。


「な、何してんの?」

「……何やってんだが」


 ジャックがアルの光景にドン引きしながら、ジェレミーは呆れながら私たちを見ていた。


「用事よ、用事。アルもういいわよ……」

「ハッッ」


 私の声にアルは不動の姿勢をとった。


「ふぅん。やっぱりマリーもわかってたのか、さすがだな」


 何がよ。


「チッ。だったら最初から自分で来ればいいのに」


 ジャックに続いてジェレミーも毒を吐いた。


「第六覇王マリー様! 闇ギルドのマスター連れてきました! あとサミュエルお兄ちゃんも!」

「あとって何だよ、あとって」


 エマニュエルちゃんにボコボコにされたのか、顔を腫らした大柄な獣人と胡散臭い男がやってきた。


 あれ? 腹黒のイケメンはどこよ。


「副マスターは?」

「私ですが?」


 胡散臭い男が変な顔をして言った。


 いや、あなた誰よ! ネームレスさんを出しなさいよ!



 説明しよう!

 ネームレスはジャックの子飼いになっているゼロだ! 本来であれば、闇ギルドに所属するはずだったが、何の因果かジャックが瀕死状態のゼロを助けて配下にしていた! 原作のジャックだったら見捨てていたがマリーのおかげで根が優しくなり、名前がないと言うことでゼロと呼んでいる。黒装束を着ているせいでマリーは気づいていない。

 終わり!



 くそぉ……どうなっているのよ!

 チッ、しょうがないわね! 次はイケメンの暗殺ギルドのマスターよ!


「あなたたち、暗殺ギルドと繋がってるわね?」


 大柄の虎獣人族! 顔がパンパンしてるけど見覚えあるわよ。副マスターと会うためだけに何度、暗殺者を向けられたか!


「チッ。どこまで帝室のやつらにバレてんだ?」


 虎獣人族のジギエルは頭をポリポリかくと、アルが憤怒の顔になりはじめた。私は手で制して落ち着かせる。


「なら、暗殺ギルドの長に合わせてもらっても?」


 ふふふ。知ってるわよ、ジギエル! あなたが暗殺ギルドのある子に恋を寄せてる……ってね。


 私だけ恋できないなんて許さないわ!

 絶対に邪魔をして、私が愛の勝者になってやるわよ! オーホッホッホ!

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