第十九話:摩訶不思議な生物
そこにはパトリックお兄様の言う通り、摩訶不思議な生物がいた。
「あれ……ですか?」
「そうだ……」
私とパトリックお兄様は揃って頭を傾ける。
「しかし、やはりマリーも見えるのか……さすが神に寵愛されているだけある……」
な、なんか聞こえたが無視よ、無視!
パトリックお兄様の意味深な声を無視して、再びそこへ視線を向ける。
そこにはどんぐりを被り、爪楊枝を持って素振りをして騎士の真似をしている妖精みたいな生物がいた。というか妖精だった。
よ、妖精よね? なんでこんなところにいるのよ。主人公が世界樹の所にいって仲間にするんじゃなかった?
もっと神秘的で可愛らしかった気がするんだけど、すっごい間抜けな顔なんですけど……。
妖精は精一杯キリッと顔を決めているがアチョー! アチャー! と声が聞こえてきそうな感じで爪楊枝を振り回しながら二枚の羽をパタパタさせながら浮いていた。
「パトリックお兄様はいつ、あれを?」
「偶然、セドリック兄に用事があって来たらあれを見つけて……な」
パトリックお兄様は眉間を揉みながら困ったように私を見てきた。
「ふぅ、私が意思疎通できるか試してみます」
「あぁ、悪いな、頼むよ。俺だと向こうが怖がるかもしれないからな」
い、陰気のくせに真面目ね。
こいつは第二皇子が嫌いなんだろうか?
訓練していた騎士たちは私がグラウンドに入ると、全員立ち止まり最上級の敬礼をした。それを妖精も一番端で慌てた様子で真似をする。
ど、どうしよう。パトリックお兄様の手前もあって安請け合いしたけど、誰も見えてないのに挨拶したら変な人だと思われちゃそう……。
安心してください。すでに変な人です。
「みなさま、お疲れ様です」
「「「お疲れ様です! マリー様!」」」
「少し変だと思われますが、全員目を瞑って耳を塞いでください」
「「「はっ!」」」
ちょうどセドリックお兄様がやってきて私を怪訝な表情をしたが、パトリックお兄様が説明していた。
私はゆっくり精霊の前に近づく。
「こんにちは」
妖精も騎士の真似をして耳を塞いでいたので気づいていないようだった。
どうしよう……。
私は物は試しとして妖精のお腹を軽くツンっと押すと、妖精はビクッ! っとして目を開いた。
「こんにちは」
私はもう一度挨拶すると妖精は大袈裟な動作で肩を上げる。
「初めまして、私マリー。あなたは?」
妖精が口をパクパクするが私では何を言っているか聞こえないので、パトリックお兄様に目で合図をするとセドリックお兄様を連れてやってきた。
「名前はマナという名前だそうだ」
え、パトリックお兄様、妖精の声が聞こえるの? そ、そんな設定あったかしら?
というか、なんでいきなり代わりに教えてくれたの?
みんなには教えよう! マリーは知らずのうちに秘技、目を細めるを使っていた! そのために、パトリックが内心で「マリーはわかっていたのか……」と考えながら、腹を括ってマリーに答えたのだ!
「あなたはなんで、ここにいるの?」
「旅をしていたら魔物が多くて遊びに来たと言っている」
ど、どういうことよ……。妖精って魔物が嫌いじゃなかった?
ハッ!
魔王を倒すには確か……妖精が必須だったはずよね!
きみにきめた!
「もしよかったら正式に帝国の騎士にならない?」
妖精が目をキラキラして見てきた。
「いいの? って言ってる」
ふっふっふ。来たる魔王の尖兵にしてやろう。オーッホッホホ!
こいつは妖精をなんだと思っているんだろうか?
◆◇◆
ある日、部屋でクッキーを堪能していると、アミラお姉様がもじもじしながらやってきた。
原作の嫌味ったらしい姿ではなく大和撫子感がすごかった。
可愛らしい。
「どうされましたか? アミラお姉様」
「うんとね、マリー」
うん。
「あのね、マリー」
「はい」
「その、ね……マリー」
長い! 長いよ! アミラお姉様!
もじもじするのはいいけど、もう三十分近く経ってるよ!
「えーと、ね……マリー」
「パスカルさんのことでしょうか?」
「あっ……」
私が名前を出すとアミラお姉様が顔をカーッと赤く染めた。
「そ、そうなの……」
ちくしょうめ! 可愛いすぎでしょ、アミラお姉様!
「今度ね?」
「はい」
「その……パスカル様のお誕生日会があるからね。それで、何をあげたらいいかなって相談しにきたの」
や、やっと本題に漕ぎ着けたわね。ここまで長かったわ……。
「もし嫌いな物だったら……」
いや、何を上げてもパスカルさんは喜びますよ。お二人が歩いている時もパスカルさんもすっごい甘ったるい雰囲気出してるし……。
本当にゲームみたいに婚約破棄するのかしら?
私はため息をそれこそスーハースーハーしたいのを我慢して頭をフル回転する。
ま、まぁいいわ。仲が良くて悪いことなんてないし。
あっ! そういえば、確か第一皇妃のヴィオレット様がヴィクトリアって呼んでる犬の魔物が何匹も子供を産んでたわよね。
「でしたら子犬の魔物とかどうでしょうか?」
「魔物……ですか」
「大丈夫ですよ。今の帝国ではみんな魔物、人で区別する人はいません」
「でも……」
「でしたら仲が良い子犬か子猫の魔物を二匹送るのはどうでしょうか?」
ヴィオレット様のご実家のテオフィルさんは、猫の魔物を溺愛してるし、姪っ子がねだれば何匹でも送ってくれるでしょ!
「そ、それなら……」
んもぅ! もじもじして可愛いんだから!
私はたまらず立ち上がって、アミラお姉様の頭を胸に抱いた。
「アミラお姉様。パスカルさんもアミラお姉様のことを好きなので安心してください。パスカルさんのことなので絶対に片方はアミラお姉様にお渡します」
「そうかしら……」
アミラお姉様はそれでも心配なのか両腕を祈るようにして、私をうるうるした表情で見上げてくる。
私はそれを見て苦笑しながら、アミラお姉様の綺麗な髪を撫でながら続けた。
「はい。仲が良い幼い魔物同士なら話の口実で、いつでも会いに行けますしね」
「うぅ……」
アミラお姉様は顔をもっと赤く染め上げ、私の胸にうず埋めてきた。
「ですので、そこまで心配しないでください」
私は最後にアミラお姉様の頭をひと撫でして離れた。
「あ、ありがとう。マリー、愛してるわ」
「私も愛しております、アミラお姉様」
アミラお姉様は綺麗な所作でスカートの裾を摘んで一礼して部屋から去っていった。
……なんかアミラお姉様より私の方が身長が高くない? なんか十センチ以上差が……うっ、頭が!
そ、そう気のせいよ! そうよ、マリー! これはきっと裏設定よ!
水の加護の乱用のしすぎのせいです。みなさんも加護の乱用にはご注意を。
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