みっつ
私は心中で
夏の陽射しに
傘も
雨水が滝のように伝う岩肌に、身を擦りつけるようにして屈み込むと、私の膝の高さに大きな割れ目が口を開けている。もちろん私は、これ幸いと頭から這い込んだ。
その奧は深い
洞窟。これぞ冒険者の聖地である。
全身ずぶ濡れであることなど、きれいさっぱり頭から飛んだ私は、濡れたリュックから懐中電灯を取り出し、わくわくと胸を弾ませつつ、スイッチを入れた。
先月の誕生日に買って貰ったばかりの青い懐中電灯は、カチリと心地良い音で
私は、あらん限りの叫び声を上げた。
枯れ木のような人影が、それの背後の岩壁に大きく伸びた。
とてつもなく凄まじいものが、光の輪の中にいる。
逆立った髪を振り乱し、片方しか無い目をギョロつかせている。
「まぶしい! うるさい! 喰い殺す!」
身の毛のよだつようなバケモノが、
「すいませんでした!」
私は慌てふためいて懐中電灯を
「わしはゴーヤ峠の
木枯らしのような声がじりじりとこちらに近寄ってくる。
私は懐中電灯を握り締めたまま立ちすくんだ。
「すみませんでした! ただちに帰ります!」
逃げだそうとした私の首根っこを、なにかがガッツリつかんで引き戻す。首筋に
「何をしに来た、と訊いてるんだ」
気を失いかけた私を、山姥は容赦なく揺さぶった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ゴーヤ峠が見たくて来たんです。許してください」
私は泣いて謝った。
すると、山姥はさも嬉しそうに、くっくと笑った。
「おやあ、そうかい。そんなにわしの里が気に入ったなら、おいで」
私の襟首を掴んだまま、山姥は稲妻のように暗闇の奧へ駆け出した。
「この山のふもとの里では、何も言われなかったかい」
闇を駆け抜けながら、山姥が訊いた。
「その名をっ 口にするなとっ 言われましたっ」
大風の日の洗濯物のように、横にたなびきながら私は答えた。
「大人の言うことは、聞くもんだろうが」
山姥は身の毛のよだつような声でゲラゲラと笑った。
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