終末世界を2DKのアパートで
丸焦ししゃも
プロローグ
「おなかすいたー」
そんな気の抜けた声が聞こえてきた。
「この前取ってきた、袋のなんか辛いラーメンあっただろ」
こちらもどこか気の抜けた声で返す。
「えー、だってあれおいしくないんだもん」
「文句言うなよ、テキトーにとってきたやつなんだから」
※※※
世界的なパンデミックが起きてから半年。
最初はただの流行り病かと思われていたそれは、たった半年で俺たちの世界を大きく変えた。
「死者が蘇る」なんて、映画やゲームなんかの創作物ではよく見るものだったけれどそれは突然身の回りにやってきた。
偉い学者さんはそれは安易に「ゾンビ」と名付けるのは嫌だったらしく様々な学者さんが諸説入り混じる色んな名前でそれを呼んでいた。
その流行り病について分かっていることは3つ。
1つ、感染力がすごく強いこと
2つ、感染したものが亡くなるとゾンビのように動き出すこと
3つ、そのゾンビらしきものは他のものを襲うことがあること
と、まぁなんともありきたりな映画の世界での話のようだった。
俺の名前は雨宮 歩 (あまみや あゆむ)。歳は20代半ばで、1度転職を経験した元会社員だ。俺は、突然そんな映画のような世界に放り込まれたが別段悲観をしていなかった。なぜなら、アパートで快適な引きこもり生活ができるという<大義名分>をこの世界がくれたからだ。
この話は、そんな俺がどのようにしてこの終末世界の日常を快適に過ごせるかを綴ったなんの面白みもない話だ。
※※※
「うわー、やっぱりまずいね」
「しょうがないだろ、近くのスーパーにあるやつだってもうそんなないんだから」
「そうなんだけどさー」
と、渋々赤いスープの辛そうなラーメンをすする。
こいつの名前は 雨宮 雪(あまみや ゆき)。諸事情で血は繋がっていないが俺のれっきとした妹だ。このパンデミックがなければ、今年高校生になる予定だった。
歳は10歳ほど離れている。病的なまでに色白で、肩まである真っ黒な髪と真っ黒な大きな瞳が印象的だ。まだまだ幼い印象が残る顔立ちは、現時点では美人よりも可愛いに分類されるだろう。
そんなうちの妹は、俺の快適な引きこもりライフを堪能するうえで現状の最大の敵でもあった。
「食料事情は考えものだよね、兄さんも私も料理できないし」
「どーもすいませんねー、元スーパーの社員が料理ができなくて」
「そんな卑屈にならなくても」
何が面白いのかクスクスと雪が笑う。
「あとどれくらい食料大丈夫かな?」
「缶詰とかもまだまだあるししばらくは大丈夫そう。最悪、親父の残していった自衛隊の年代物の缶詰もいっぱいあるし」
「あれは最終手段で」
即答する雪。
「まぁまた近いうちに近くのスーパーの在庫とか色々見てくるよ」
「うーん……」
そう言うとなぜか眉をひそめていた雪だったが、食べ終わった食器をキッチンの流し場に置き、自分の定位置(布団の上)に戻って読みかけの小説に視線を落とした。
「兄さん」
「ん?」
食器を洗おうとキッチンに向かった俺に雪が声をかける。
「私、今の生活全然嫌いじゃないよ」
視線は小説に落としたままだったが、そんなことを俺に言った。
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