愛の溢れる国

暗黒騎士ハイダークネス

第1話



またこの空間に人が来た。


「女神様・・・」


 頬を赤く染め、うっとりとした表情で彼女は私を見てつぶやいた。


 私は何も返しません。


【私は与えるモノ・・・あなたの願いは・・・?】


 いつも通りにその定型文を彼女の頭の中に流す。


 ある者は感動で泣き、またある者は元の場所に返せと喚き、そして、その問いかけに意味がないことに気づくと、誰もが無言で私の言葉の意味を考えていた。


 彼女は例外だった。


「女神様、私は愛されたいの」


 返事がなくても、私に話しかけてきた。


「お母さんはいつも男の人のことばかり、私を邪魔ものだって、いらない子だって、死ねばいいって、いつもいつもイツも、ワタシハあいされなかッタの」


 私は何も返さない。


「でも、それでもね、新しくできたてお母さんは優しくなったの・・・でもね、お父さんはお母さんと結婚したのに、私に手を出したの、それでお母さんは私のことをアバずれだって、殴られたの。。。。」


 彼女のことが多く話されたが、私は何も返さない。


「親友が好きだった人が私のことを好きになってね。親友だと思った子にね、悪い噂を広められちゃって、でも、、、彼はカれだけは私のことを独りの人として、愛してくれてた・・・はずだったの。でも、気に食わなかったのかな?最後は親友から階段から突き落とされて、死んじゃった・・・・ハハハハハッハ」


 彼女はずっと狂ったように笑い続けた・・・突然笑いやめると、じっと私のことを見つめる。


「ねぇ、私は何も悪いことなんてしてなかったのに、なんでこんなにも私は恵まれないの?なんで私ばっかり、普通にして、聞き分けのいい子でいたのに・・・なんで!!!なんで、、私を嫌うの?」


 何も返さない。彼女の言葉だけがこの空間に響く。


「ねぇ・・・女神様、なんでもくれるっていうなら、私に愛を頂戴、汚れのない私だけの愛を」


【与えましょう、あなたが愛される力を、あなたを愛するようにする魅力を】


暗い暗い真っ黒な瞳・・・彼女はどうなるのでしょうか?


 いいえ、私はただここで、ここだけで、ただ誰かに与えるだけのモノなのだから、考えたって仕方がない。






 ある国に1人の大変かわいらしい少女が産まれました。


 少女が成長するにつれ、多くの人を魅了しました。


 男女問わず、彼女の美しさに振り返り、その声を聴きたいと話しかけ、その笑顔が見たいとたくさんの贈り物をしました。


 彼女の笑顔でみんなもうれしくなり、ここは笑顔があふれた幸せな村でした。





 彼女には魔法の才能、とりわけ回復魔法に才能があったようで、彼女の元には多くの患者さんが来られるのです。


 来る日も来る日も、患者さんが訪れて、、、ついに彼女は倒れてしまったのです。


 そりゃ、もうバッタンっと。


 慌てます、慌てます!!


 大変だー-!!大変だー-!!!


 村の中は大騒ぎ、村にあった唯一の高級回復薬を飲ませ、彼女は意識を取り戻したのです。


 彼女は感謝します。


 それで村はまた笑顔があふれるそんな素敵な村でした。






 ある時に、彼女は気づきます・・・最近まで来てくれていた患者さんが来ないことを。


 大きくなるにつれて、教会の中だけで、村に出ると囲まれるからと外出を面倒くさがっていた彼女が外に出たのです。


 外にはある商人の馬車がいて、村の子が粗末な服を着て、馬車に乗ったのです。


 その子の親に詰め寄ると、近所の子供が笑顔で奴隷になって、消えたというのです。


そのお金を彼女のために使ってくださいと言い残して。


 怖くなりました。愛されることが。。。もうやめてくださいと、彼女はそう言いました。


そんなことをする人なんて嫌いです!!と


・・・ある日にどこかの小さな村は人口が消滅してなくなったようです。





 彼女は当てもなく、さまよいます。


 教会で無表情で治療を施し、多くの時を同じ場所にとどまらずに点々と旅をします。


 そんなときに、彼女の治療のうわさを聞き付けた貴族が彼女を捕らえようと、専属の治療師にしてやると、横暴な態度で彼女に詰め寄りました。


 ある町の領主がその町人によって、殺されました。






 そんな日々を過ごしていると、美しい少女の凄腕の治癒師がいると、村、町、街、都市、王都に噂が駆け巡ります。


 ある時多くの兵士に連れられて、王都に行くことにしました。


 彼女は大人しく付いていくことにしました。


 とても丁寧に対応されたからです。


 



 ある時、王国の庭園会に招かれ、庭園を美しいと、微笑んでしまった。


 そこから、何もかもがうまくいっていた時が狂い始めた。


 彼女は丁寧にながらも、監禁されました。


 もうここから出して!というと、次の日には多くの大臣や宰相、国王までもが自殺しました。


 王国の大パニックです。王国を回す人間が突然多く亡くなってしまったのですから。


 そこで年若い王太子と王弟が争います、なぜですか?こんな大変な時に身内で争うなんて!!


 彼女の微笑みを見てしまったからです。


 彼らは今なら彼女を自分だけのものにできるとそう望んでしまったから。








 王国の歴史は戦いの歴史です。


 身内での争いが絶えないそんな凄惨な歴史です。


 ですが、ある時にピタリとやみました。


 ある女王が即位したときです。


 そこから先は争いのない、平和で幸せで笑顔のあふれる国となっていきました。









 もう彼女は愛されるのをやめました。


 玉座からはもう逃れることはできない。


 みんながそう望んでいるから、降りるといえば、城のもの全員が自害するから、、


 そんなのは望まない。


 彼女は1人、玉座に座る。


 嫉妬してしまうから、彼女の周りには誰もいない。


 遠く遠く囲むだけ。


 彼女の声は誰も聞けない。


 うらやましくて、みんなが殺したくなっちゃうから。


 彼女は笑わない・・・


 ただ笑い方を忘れてしまったから。



 最高級の食事、最高級の環境・・・彼女には劣るが、美男美女の王国。


 彼女の笑顔のためにこの国は回ってく。














 ここは愛の溢れる王国。


 世界が一番愛の溢れるそんな素敵な王国。






 ここは彼女に向けられた愛で溢れる狂った王国。


 世界で一番愛されたかったと願ったそんな哀れな女が住まう牢獄。

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