月のお迎え

クロノヒョウ

第1話



 月の欠片を拾った夜はなぜか懐かしい気持ちになっていた。


 これでいくつ目だろうか、欠片を拾うのは。


「まあ、また拾ったの?」


「うん」


 フェンスに囲まれた広場に戻ると、ボクが抱えている月の欠片を見て彼女は目を丸くした。


「これ以上ここには置けないかもね。どうする?」


「さあ、どうしようか」


 彼女の言う通り、広場はボクが拾ってきた月の欠片でいっぱいいっぱいだった。


 広場のフェンスは今にも壊れそうだ。


 ボクは彼女の隣に座って欠片たちを眺めた。


「不思議ね」


 彼女がぽつりと言った。


「こうやってると何だか落ち着くわ」


「うん、ボクもだよ」


 そうしてしばらくボクたちは月の欠片を見ていた。


「ねえ」


「ん?」


 彼女は何か思い付いたのか突然立ち上がった。


「この欠片たちをつなぎ合わせたらどうなるのかしら」


「えっ」


 ボクも慌てて立ち上がり、欠片の山をもう一度よく見た。


 でこぼこした欠片は、確かにつなぎ合わせることが出来るかもしれない。


「やって、みる?」


「うん!」


 ボクがそう言うと彼女は嬉しそうにぴょんっと跳びはねながら月の欠片を手に取った。


 それからボクたちは必死で月の欠片をつなぎ合わせた。


 不思議なことに、欠片はまるでジグソーパズルのようにぴったりとはまっていった。


 どんどん合わさっていくうちに、欠片は丸くて大きな月の形になっていた。


「月だわ」


「うん、月だね……」


 月はみるみるうちに輝きながら大きく膨らんでいった。


 やがてフェンスからはみ出し、天井の壁を突き抜けると上昇し始めた。


 ボクは思わずその月にしがみついた。


「待って」


 ボクを乗せたままどんどん上昇する月に、彼女も飛び付いた。


 ボクは手を伸ばして彼女を掴んだ。


「ありがとう」


「うん」


 月はさらに大きくなりながら空高く昇っていった。





「先生! 太郎と花子が消えた!」


「ん? 朝から何事だ?」


「今、いつもみたいに太郎と花子に会いに行ったら二匹ともいなくなってたんだ。ウサギ小屋がめちゃくちゃになってて」


「何だって?」


「いいから来てよ先生」


「わかった」




「こりゃひどいな」


「先生、太郎と花子は?」


「どこかに逃げたんだろう。それかどこかに隠れてるんじゃないのか?」


 ウサギ小屋の回りを調べていた教師はふと空を見上げた。


「はは……そういうことか……」


「先生? どうしたの?」


「ああ、安心していいぞ。太郎も花子も無事だ」


「本当に?」


「うん。二匹とも、月に帰ったんだよ」


「月に……。そっか、帰れたんだ。よかったね」


「ああ、よかったな」


 二人は空を見上げて微笑んでいた。


 ちょうど太郎と花子がこの小学校に現れてからの一ヶ月の間姿を見せなかった月が、水色の空にうっすらと見えていた。


「太郎、花子、元気でね! また遊びにおいでね!」


 二人は月に向かって手を振り続けた。




          完



 

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