第109話 姫騎士
王都へ向かうのは、獣人族代表としてセイウス先生、それに戦士団からライガルさん以下赤虎族の部隊が続く。それから、俺とお兄様、セオ、グレイの四人だ。
リサはグランベル領で一旦お母様の方に合流することになり、お父様は赤虎族以外の戦士やレオルさん達青狼族と一緒に、しばしこの地で防衛戦。ある程度陣地構築したところで、分かる範囲で他の戦場への救援に向かうつもりだと言っていた。
そんなお父様達が動きやすいように、王都でシグートに会って情報共有すること。セイウス先生達、ユーフェミアからの救援部隊を正式に紹介することが、今回の目的になる。
「シグートやリフィネ、元気にしてるでしょうか? 無理してないといいんですけど……」
王都へ向かう馬車の中、やっぱり気になるのはシグートとリフィネの兄妹のことだ。
俺の記憶だと、ナイトハルト家の事件の後、シグートはかなり参っていた様子だった。出来るだけ励ましたけど、ちゃんと立ち直れたかどうかは断言できない。
リフィネに至っては、近衛騎士団に入ると聞かされただけで、顔を合わせてすらいないからな。
俺のことで心配かけちゃったし……早く元気な姿を見せて、安心させてやりたい。
「大丈夫だよ、シグートのやつは……まあ疲れてはいるだろうけど、あれでちゃんと王様やってたしな。それより、リフィネを見たら驚くと思うぞ」
「どうしてですか?」
「それはもう、会ってからのお楽しみってことで」
なぜかもったいぶるお兄様に、俺ははてと首を傾げる。
まあ、にやにやと悪戯っ子みたいな顔してるお兄様を見る限り、そう悪いことはなさそうだし、素直に再会を楽しみにしてようかな。
「ところで、さっきからセオとグレイ君は何をしているんですか?」
お兄様との会話が一段落したところで、俺は対面に座る二人へと気になっていたことを尋ねる。
いつもなら、絶対に俺の隣を譲らないはずのセオが文句も言わずにグレイの隣へ行ったので、少し気になっていたのだ。
「セオさんの義手を新しく作ったので、それを調整しております。見た目は少々無骨ですが……」
「見た目はどうでもいい。ユミエを守れるなら、それで」
丁寧に答えてくれるグレイに、セオが端的に……けれど強い口調でそう言い切った。
確かに、セオの義手は以前も金属製の頑丈なものだったが、より一層メカメカしさが上がっている。
「帝国で研究されていたのは、魔物因子による身体機能の強化拡張。つまり、本来人に備わっていない器官や装備を後付けし、魔物と同様の人外の力を付与しようという試みです。とはいえ、帝国で研究されていたものそのままは危険ですので、基本的には機能の幅を広げることで汎用性を持たせる造りにしてあります。強度の面でやや不安は生じますが、そこはセオさんの高い適性から来る魔力強化の恩恵に期待し──」
つらつらと、グレイがセオの義手について概要を話し、そのまま機能説明へと移っていく。
なんていうか、自信作なんだろう。セオの要望に応えた戦闘力に加えて、セオの体に負担をかけないための工夫や使用上の注意なんかを、事細かに説明してくれてる。
ただ……長い!! 俺の隣でお兄様が寝息を立て始めたくらいに長い!!
というか、お兄様寝るの早!?
「使いながら覚えるから……もういい……」
「いや、これ結構大事なことなんですよ!? ちゃんと聞いてください!?」
「一気に聞かされても覚えられない……」
自分の作品を語りたいグレイと、重要なことだと分かっていても脳の容量が追い付かないセオ。
微笑ましいといえばそうなんだけど、このまま放っておくのも可哀想だし、ちょっと助け船を出すか。
「グレイ君、口で言っても覚えられないのは確かですし、また後で紙に纏めましょう。セオも困ってますから」
「うっ……すみません、お嬢様……」
しゅん、と、グレイが悲しげに俯いてしまう。
そんなグレイの頭に、俺はそっと手を置いた。
「でも、グレイ君がセオのことをとってもよく考えてくれたことはちゃんと伝わりました。ありがとうございます、頑張りましたね」
にこっと笑みを浮かべると、グレイは喜びと照れが入り交じった表情で目を逸らし、そんな自分を誤魔化すように頬を掻いた。
「ありがとうございます、お嬢様……身に余る光栄です……」
赤らんだ顔で、消え入りそうな声で呟くグレイは……なんていうか、可愛かった。
うん、俺より四つ年上の男の子にこんな感想抱くのもどうかと思うけど、なんか可愛いぞこいつ。
「おいグレイ……俺の目が黒いうちは、ユミエはあげないからな……?」
「で、ですから、そんなこと考えてません!!」
いつの間にか目を覚ましたお兄様が睨みを利かせた途端、グレイは大慌てで俺から離れ馬車の隅っこに体を押し込める。
全くお兄様は、本当に過保護なんだから。
「……あれ?」
「うん? どうした、ユミエ」
「馬車の向こうに、誰か立っているような……」
俺達が向かう先、王都の方に、小さな影が見える。
このまま進むと危ないんじゃ? と思っていると……小さな影がおもむろに腕を、その先にある剣を掲げ、叫んだ。
「総員、構え!!」
「「「はっ!!」」」
その瞬間、どこからともなく全身鎧姿の騎士達が現れ、俺達の馬車を取り囲んだ。
突然の事態にびっくりしていると、小さな影がゆっくり俺達に近付いて来る。
「お前達、何者じゃ。これほどの規模で人がやって来るなど、妾は聞いとらんぞ。武器は捨て、身分を証明出来る者は名乗り出よ」
あれ、この声? と、俺は窓から顔を出す。
するとそこには、想像通りの子が──想像とはかけ離れた姿でそこにいた。
「……リフィネ、なんですか?」
「え……ユ、ユミエ!?」
頭の左右で結ばれた、黄金のツインテール。
ヒラヒラとした布地と金属の鎧を組み合わせた可憐なドレスアーマーを身に纏い、キリリとした表情で立つその様は、まるで物語に出てくる姫騎士のよう。
かつて、我が儘王女として名を馳せていた、俺の大切な友達。
リフィネ・ディア・オルトリアが、俺を見て目を丸くしていた。
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