転生した俺が可愛すぎるので、愛されキャラを目指してがんばります

ジャジャ丸

第1話 女の子に転生してしまった

 鏡に映る自分の姿を見て、俺は驚愕のあまり目を見開いた。


 絹のように滑らかな銀色の髪に、透き通るような白い肌。サファイアブルーの瞳は、宝石のような輝きを放っている。


 歳の頃は、十歳程度だろうか? そのせいで、体型はまだまだお子ちゃまって感じのぺったんこボディなのだが、将来は間違いなく絶世の美女になるだろうと確信が持てるほどの、天使のごとき可憐な容姿を誇っている。


 グランベル伯爵家令嬢、ユミエ・グランベル。

 それが、俺の新しい名で……要するに俺は、どうやら異世界転生とやらを果たしてしまったらしい。


「いやー、マジか……こんなこと、本当にあるんだな……」


 俺はついさっきまで、いつものように家に引きこもってゲーム三昧の一日を過ごしていたはずだった。


 いや、引きこもりというと語弊があるか? なんかよく分からんウイルスが流行って、学級閉鎖ならぬ学校閉鎖が続いてたんだよ。


 よく分からんけど休みだひゃっほい! なんて、少しばかり不謹慎に思いながらもぐうたらしてたんだけど……気付いたら全く知らない部屋で、見知らぬ女の子になってベッドの中にいたんだ。


 うん、改めて考えてもまるで意味が分からん。俺、死んだのか? それすら記憶が曖昧なんだが。


 何より、俺ってば前世は間違いなく男だったんだけど。なんでそれが今は女の子? 神様の嫌がらせか何か?


「うーん……まあ、細かいことはいいか」


 しばらく悩んだ末、俺はそう結論を出す。


 正直なところ、前世にあまり未練はない。

 なんでかって、あんまりハッキリと覚えていないから。男だったことと、学生だったこと、それにゲームをしていた覚えはあるんだけど、それ以外は自分の名前も家族構成すらぼんやりしてて思い出せない。


 それに何より、重要なのは今俺がいるこの部屋だ。


 俺が住んでいた前世の部屋とは比べ物にならないくらい広く、調度品も豪華。寝間着なんて、生地の薄いドレスみたいなネグリジェだぞ。こんなん初めて見たわ。


 明らかに、ユミエは良いとこのお嬢様。伯爵家なんだから当たり前といえば当たり前なんだけど、こういった転生系の物語でよくある、なんちゃって貴族の貧乏人とかではなく、れっきとしたお金持ちで間違いない。

 そこに、この将来有望なこの容姿が加わるのだ、人生勝ち組ルートであることは、もはや確定的に明らかだろう。


「ふっふっふ……勝ったな」


 今は前世のことよりも、目の前にあるバラ色の人生の方が重要だ。


 転生したばかりだからか、少し"ユミエ"としての記憶も曖昧でハッキリと思い出せないところだし、まずは状況把握に努めるとしよう。幸い、窓の外を見るに陽はしっかり上りきっているから、歩き回っても迷惑ということはあるまい。


 そんなわけで、部屋を飛び出し家の探索を始めてみる。


 西洋風のお屋敷は、考えなしに飛び出した俺の判断を秒で後悔させるほどの広さを誇る大豪邸だったんだが、幸いなことに完全な迷子になるより早く人に出くわした。


 その女性を一目見た瞬間、俺はそれが誰なのかを思い出す。


「お母様! おはようございます!!」


 金色の髪を持つ、綺麗な女性。

 凛とした雰囲気のその人に、まずは挨拶だと元気よく声をかけたのだが……。


 パシンッ。


「えっ……」


 思いっきり、頬をぶたれた。

 衝撃で尻餅を突いた俺を、母親であるはずの女性は極寒の眼差しで見下ろしている。


 えっと、その……なんで?


「昼間からうるさいわよ、この出来損ないが!! 少しは静かに出来ないの!?」


 僅か十歳ばかりの娘に向けるには、あまりにも辛辣過ぎる言葉が胸に突き刺さる。


 何も言えず、ただ呆然と倒れこんでいると、後ろから慌てて駆け寄って来る誰かの足音が聞こえてきた。


「奥様、申し訳ございません! お嬢様は病み上がりで、ただ心細かっただけで……!」


「なら、あなたがしっかり見ておきなさい! 二度と私の前に姿を見せないようにね!!」


 ふん、と去っていく母親に代わって、駆け寄ってきたメイドが俺の体を抱き上げた。


 未だ硬直してしまっている俺を見て、くしゃりと顔を歪めたメイド──リサは、俺の頭をそっと撫でる。


「……奥様は、少し虫の居所が悪かっただけですよ。あまり気にせず、部屋に戻りましょう」


「……うん」


 頷きながらも、いまいち状況が掴めぬまま、俺は部屋に連れ戻される。


 いくら考えても、母親にあんな態度を取られた理由が思い出せなかった俺は、思いきってリサに質問してみた。


 俺が今更そんなことを聞くのが不思議だったのか、リサは少し戸惑っている様子だったが……ちゃんと丁寧に説明してくれた。

 正直、助かる。


 で、肝心の理由だけど……なんと俺、この屋敷をクビになった、とあるメイドと父の間に出来た婚外子らしい。


「ある日突然、旦那様が新しい娘だとお嬢様を連れてきた時は、私も含めた屋敷の誰もが驚きました。中でも、奥様の動揺は大きく……それ以来、旦那様とは顔を合わせる度、喧嘩ばかりしています」


 以前は、とても仲の良い夫婦だったのですが。と、リサは溜め息を溢す。

 直後、まるで俺のせいで屋敷の雰囲気が悪くなったと言っているようなものだと気付いたのか、慌てて弁明し始めた。


「大丈夫です、奥様も、本心からお嬢様を毛嫌いしているわけではないはずです。今は荒れていますが、きっとすぐに仲直りして、お嬢様のことも受け入れてくださるはずですから」


 確信というより、こうなって欲しいと願うように、リサは語る。


 いやー、人生超イージーモードかと思ってたのに、スタートから思った以上にハードだな。これじゃあ、勝ち組人生だなんだと楽しむ余裕もありゃしない。


「うーん……」


 説明の傍ら、ネグリジェから着替えさせて貰ったドレスの裾をつまみながら、鏡の前に立つ。


 くるりと回るのに合わせ、ひらりと揺れるスカート。

 慣れない衣服に違和感は強いが、白銀の天使とも言うべきユミエの容姿に、淡い空色のドレスはよく映えていた。


 自分で言うのもなんだが、やっぱりめちゃくちゃ可愛い。

 こんな子が義理とはいえ家族になるって言われたら、俺なら狂喜乱舞して一日中転げ回る自信があるね。


「よし、決めた」


「決めたとは……?」


「お父様とお母様を、仲直りさせる」


 俺の言葉に、どうやって? と言わんばかりに、リサが首を傾げる。

 そんな彼女に、俺は渾身の笑顔で答えた。


「俺の可愛さで、二人をメロメロにして……二人の間を取り持つんだ!!」


「んなっ……!?」


 アニマルセラピーなんて言葉がある通り、人間可愛いものを愛でていれば心が癒され、些細なことでは怒らなくなる。


 何より、俺の存在が原因でお母様が荒れているというのなら、俺を可愛がって貰えるくらいお母様に受け入れて貰えれば、全ては丸く収まるはずなんだ。


 だからリサ、そんな絶望的な顔をしないでくれ。このユミエちゃんの可愛さを全力で引き出せば、決して不可能なミッションではない!!


「"俺"だなんて……お嬢様、そんな言葉遣いをどこで覚えたのですか!? すぐに直してください!!」


 ……あ、気になったのそっち?

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