第7話 王都、到着

「ご主人様、見えてきましたよ。とても大きいです」

 

 出発の日から2週間ほどが経った。

 俺とモアは順調に目的だった王都への旅路を終えようとしている。まだ入ってはいないが、その堅牢な壁が見えるところまできた。

 

 城塞都市、というのだろうか。

 遠くから見てもその威容に圧倒されてしまいそうになる。

 この壁を超えると、いよいよ王都だ。

 

「ああ、それに人も多いな」

 

 モアの言葉に頷きながら馬車の中から外の様子を眺める。

 まだ王都に入っていないというのに、王都へと向かう大きな道にはたくさんの人や馬車が行きかっていた。

 冒険者らしき恰好の人が歩いていたり、恐らく貴族でも乗っているのであろう豪奢な馬車が俺らの前を走っていたり様々だ。

 

 街の外でのこの人の多さとは。

 ラグザットでは見ることが出来なかった光景だ。

 王都の中に入ったらもっと多いのだろう。


 早く中に入りたいが、街へ入るには門番の検査を受けないといけない。

 それに馬車があるから、馬車用の列に並ばなければいけないのは面倒だが。

 盗賊たちの馬車があったお陰で大分旅の時間を短縮することができたのは僥倖だったな。馬たちの餌代は掛かったが必要経費だろう。


 盗賊たちは途中の街でしっかりと衛兵に引き渡した。

 途中で盗賊が目を覚ましたり色々あったが、木人形くんをすぐそばに置いておいたお陰で問題はなかった。

 あいつらの持っていた装備も売ることができて収支は上々である。


「いずれ来ることになるとは思っていたが、こんな形で来ることになるとはな」


 いずれ、とは冒険者としてだ。

 王都の近郊には大型のダンジョンがある。


 攻略難易度は超級。

 100階層にも及ぶ深さで、その大きさは最難関ダンジョンに並ぶともいわれている。

 王国の冒険者の誰もが攻略を夢見るダンジョンだ。

 先ほど歩いていた冒険者たちもそこへ向かっているのだろう。

 

 ダンジョンを踏破した冒険者には、国王様から褒美が与えられ、求めれば爵位すらも得られるという。

 優秀な人材を他国へと逃がさないためのという思惑もあるだろう。

 元リーダーのアランもいつか王都のダンジョンを攻略するんだとよく話していたのを覚えている。

 

 ただダンジョンを攻略できた冒険者は未だに長い歴史の中で数人のみらしい。

 そのぐらい、王都のダンジョンは難易度が高いのだ。


「ご主人様、王都へ入ってからはいかがいたしましょうか」

「すぐに商業ギルドに行こうと思ってるよ」


 そこで人形屋を開く許可を得なければいけない。

 

「ついでにこの馬たちも売ろう」

 

 王都への旅路を支えてくれた2頭の馬。

 気絶した盗賊を6人乗せても問題なく余裕そうだったからかなり力もあるし、有用性は高い。

 商業ギルドで買い取ってくれるだろう。

 高く売れそうだし。

 今後旅をする予定もない俺らに彼らは宝の持ち腐れだ。

 

「売って、しまうのですか?」


 モアは反対なのか?

 表情は変わっていないが、落ち込んでいるように見える。

 御者をしていたモアは愛着が湧いてしまったのだろうか。

 

「そうですか」

「いやだって、もうこの子たち乗らないし」


 だってしょうがないじゃないか。

 餌代だってかかるし、彼らを置いておく場所ない。

 長い間、馬小屋に放置するよりも新しい人に飼われる方がずっといいはずだ。


 モアがどうしてもというならこの馬たちを飼うこともやぶさかではないが。

 

「それも、そうですね。あなたたちとはここでお別れです」


 渋った割には随分とあっさりとした別れの挨拶だった。

 元気にやるのですよ、と声を掛けている。


 そうしている間に列は進んでいた。

 前の馬車が門番の検査を終え、王都へと入っていく。

 いよいよ、俺たちの番がやってきた。


「……次!」


 門番の声が聞こえ、モアが馬車を進ませる。

 

「よし、止まれ。女が一人に、男が一人だな。積み荷は無しか。身分を証明する物はあるか?」


 モアと一緒に冒険者のギルドカードを差し出す。因みに、ギルドカード上のモアは人間扱いである。

 門番がギルドカードを魔道具にかざして何かを確かめているのを静かに待つ。この光景はどこの街でも同じだ。

 問題がなかったのか、ギルドカードを返してくれた。


「馬車の中を確かめさせてもらうぞ」

「どうぞ」

 

 言いながら馬車の後ろから中を覗き込んでくる。

 積み荷とかはないから、何も問題はないはずだ。

 

「そのでかい荷物はなんだ」


 俺の足元の荷物。

 木人形くんは王都へ着く前にまた荷物の中に仕舞っている。彼を持ち歩くにはこれが一番楽だからな。

 しかし、袋の中に人が入っていそうで怪しく見えるのが問題だな。

 やましいことはないし、荷物を開けて中身を見せる。

 

「これは作りかけの人形です」

「随分とでかい人形だな。もう仕舞ってもいいぞ」


 門番さんも大変である。

 王都ならなおさら人の流れも多いだろうし、それを全て検査しなければならないのだから。王都内に危険物が持ち込まれたら大変だからな。

 

「よし、他に怪しい物はなさそうだな」


 確認を終えたのか、門番さんが元の位置へと戻っていく。

 そこへモアが声を掛けた。


「すいません、商業ギルドの場所を聞いてもよろしいでしょうか?」


 そういえば、商業ギルドの場所を確認していなかったな。

 うっかり忘れていた。


「商業ギルドか? それなら、ここを真っ直ぐ進んでいけば右側に冒険者ギルドがある。その先を右に曲がれば商業ギルドが見えてくるはずだ」

「そうですか。説明ありがとうございます」

「他にはないな? 通っていいぞ」


 確認を終え、馬車が進み出して王都の中へと入っていく。

 これから、俺とモアの生活が始まるのだ。


 冒険者を辞める俺についてきてくれた彼女のためにも精一杯頑張らなければ。

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