第4話 襲撃者
馬車を何者かに包囲されているらしい。
そして、人間を襲う生き物に思い当たった。
魔物だ。
魔物というのはダンジョンで生まれ、基本的に外に出てくることはないが、その数が増えるとダンジョンの魔物が外へ溢れ出すことがある。
この大陸には、大昔にダンジョンから溢れ出た魔物がその地域によって独自の生態系を築き、その数を増やしているという。
ゴブリンなどは繁殖力も高く広い地域に生息しているため、多くの被害が出ている。
それらを狩ることも、冒険者の役目だったりするのだ。
俺はもう、冒険者は引退したつもりだが、遭遇したら戦わねばならないだろう。
「魔物か?」
「いえ、恐らく盗賊かと」
半ば確信をもって聞いたんだが、予想は外れらしい。
それは良いんだが。
しかし、盗賊か。
これまた厄介なのが現れたな。
「数は?」
「6人ですね」
6人か。
事前の戦闘準備もない今。
俺一人だったら絶望的な数だ。
「強そうか?」
モアは気配だけで相手の凡その力量がわかる。
今まで彼女が相手の強さを見誤ったことは一度もない。
「いえ、私一人で問題ないかと」
言いながらモアが立ち上がった。
あらやだ、この子ったら頼もしすぎる。
「そうか、なら馬車の中は俺に任せてくれ」
「かしこまりました」
俺に頷いて、モアは勇ましくも馬車の外へ出て行こうとする。
「あ、ちょっと待って」
まあ、必要ないかも知れないが、おまじないみたいなものだ。
振り向いたモアの肩に触れ、俺の魔力を送り込むと彼女の身体を淡い光が包み込む。俺の人形使いとしての力。人形を強化する力だ。
「んんっ、感謝します。ではこちらはお任せください」
「うん、がんばってね」
目を閉じて俺の力を受け入れていたモアは、今度こそ馬車の外へと出て行った。
盗賊に立ち向かっていく彼女の手前、馬車の中は任せてくれとか言ったが、盗賊がこの馬車の中に入ってくることもなさそうだ。
万が一にも彼女が負けることはないだろう。
「お、おい、あんた」
「安心してください御者さん。あの子強いので盗賊ぐらい一捻りですよ」
「そ、そうなのかい?」
「ええ、安心して大丈夫だと思いますよ」
飛び出して行ったモアに御者が慌てていた。
まあ、どこからどう見ても普通の女の子にしか見えないからな。そんな子が単身盗賊へ挑むのだ。慌てて当然だろう。
盗賊も馬車から出てきた彼女に攻撃されて驚いている。
「ば、バケモンがっ!」
それにしても強いなぁ、あの子。
盗賊にも強そうな人がいるが、彼女には敵いそうにない。
「話が違うじゃねえかっ! ぐああっ」
剣やら斧を持った盗賊を拳1つでなぎ倒していた。
盗賊が恐れ慄いている。
果たして俺の強化は必要だったのだろうか。
少なくとも、俺の出る幕はなさそうだ。
戦いは一瞬だった。
いや、もはや戦いにすらなっていなかったかもしれない。
モアによる一方的な蹂躙。
気付いたころには、盗賊たちの山が出来ていた。
今更ながら気付いたが、俺が一人でこの馬車に乗っていたら、この盗賊たちの相手を俺一人でする羽目になっていたわけだ。
無理だ、そんなの。こちとら、刃物と言えば小さいナイフと布を縫う針ぐらいしか持っていないぞ。
モアは素手で戦ってるとか知らない。
俺が一人なら馬車の中でビクビク震えていただろうよ。
しかし、彼女が俺についてきてくれたお陰でそれは免れたわけだ。
そろそろ俺も馬車から出てもいいだろう。
ヒョイと馬車を降りて彼女が作り上げた盗賊の山へと向かう。
「こちらは終わりました」
「ああ、お疲れ様」
さて、何かこいつらを縛る物がないだろうか。
気絶してるだけだし、いつ意識が戻ってもおかしくないからな。
だが、6人も縛ることが出来る縄なんて……。
「あれ? 5人しかいないけど、あと一人は?」
モアでも気配を読み間違えるとかあるんだなぁ。
もしかして逃げられたのだろうか。依頼とかで来たわけじゃないからそれでも大して問題はないけど。
「ご主人様!」
「ん?」
モアの言葉に顔を上げると、その瞬間背後から男の腕に首を締め付けられた。
俺が。
「動くな! 動いたらこの男の命はないと思え!」
モアに向けて叫ぶ男。一瞬で背後から人質に取られてしまった俺。
仲間はもう一人いたのだ。
ナイフをちらつかせながら、モアを威嚇している。
「お、落ち着いてください御者さん。動かないですから」
「黙れ! いいか、動くなよ」
無抵抗を主張する俺の首にナイフの腹を押し当てているのは、御者さんだった。
あっという間に人質の出来上がりである。
そして1つ気付いてしまった。
モアの言っていた6人は御者も含めての数だったらしい。
幻の6人目は、すでに姿を現していたようだ。
だからモアは、こちらは、とか言ってたのね。そちらは任せましたよってことね。いや、わからんわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます