魔動人形と始める人形屋生活 ~『人形使い』の力を活かして人形職人やる~
バナナきむち
第1話 追放される
物作りとはいいものだ。
静かに人形を作っている間は、心が穏やかになる。
このひと時だけは現実の辛さや、外界の騒がしさすらも忘れさせてくれる。それが例え、揺れる馬車の中だとしても。
つい先ほど、俺は職を失った。
近場に3つのダンジョンがあり、多くの冒険者が活動拠点とする辺境の都市、ラグザット。
昨日まで俺もそこの冒険者ギルドに所属する冒険者だった。
汗水流してパーティーの仲間と依頼をこなす日々を送ってきたのだ。
そう、昨日までは。
所属していた冒険者パーティーのリーダーからクビを宣告されたのが今朝のこと。
理由はよくある戦力外通告。
頑張ってきたつもりだったんだが、冒険者稼業というのは俺では力不足だったようだ。
初めからすんなりと受け入れたわけではないけど、俺が何を言おうとリーダーの決定は覆ることなく、パーティーはクビ。
俺をクビに出来て嬉しそうなリーダーの顔を見ればきっぱりと諦めもつくというものだ。
ソロで続けるつもりもないし、新たに仲間を見つける気力なんてない。
今後は別の仕事を探そうかと思っているが、俺をクビにした彼等と同じ街にもいられず、荷物をまとめて適当な乗り合い馬車に乗り込み、今に至る。
晴れて無職だ。
あまり悲観してもいない。これからは気楽な一人旅。
しばらくは人形を売りながら生活することになるだろうが、俺なんかが作ったものでも、商業ギルドに持っていくと、ありがたいことに買い取ってくれる。
お陰でしばらくは、生活には困らないだろうと思っている。
のんびりやっていこう。
さて、人形もそろそろ出来上がりそうだ。
「にいちゃん、そりゃ何作ってんだい?」
ん?
人形から顔を上げると、正面にいたのは野性味あふれる風貌ながら人の好さそうなおじさん。
何の用かと思ったが、ぬいぐるみのことか。
出先で作っているとたまに声をかけられるんだよな。
「ぬいぐるみです。あと少しで出来上がるんですよ」
「へえ、こんな馬車の中で器用なもんだ」
馬車の中で布を縫う男が珍しかったのか、声をかけてきたらしい。
随分と興味深そうに覗き込んでくるが、もしかして欲しいのだろうか。
「良ければあげますよ? 中身を詰めれば完成です」
「へ? せっかく作ってたのにいいのかい?」
俺の提案が予想外だったのか、ほうけた表情になったおじさん。
俺としては何の問題もない。
今作っているこのぬいぐるみは手持ち無沙汰で作っているだけだしな。これでは売り物にもならないだろう。
今初めて話したが、このおじさんは人が好さそうだし、大事にしてくれそうだ。
「人形ならまた作れますし、沢山持ってますからね」
「あっはっは、まさかその荷物の中は全部ぬいぐるみかい?」
俺の足元に置いてある大きな荷物を指しておじさんが言う。
「人形が入ってるのは確かですね」
「だと思ったよ。そうだなぁ。俺にガキでもいりゃあもらってたんだがなぁ」
「残念です」
「おっと、俺はここまでだ。止まってくれ!」
馬車がゆっくりと停まり、おじさんが立ち上がる。
「あれ、まだ終着点じゃないと思ってたんですけど」
「いや、俺は元々ここの森に用があってな」
もしかして森行きの馬車に乗り込んでしまったのかと不安になったが、杞憂だったようだ。
「またな、にいちゃん。横の嬢ちゃんにもよろしくな」
「……はい、またどこかで」
それから御者に声を掛けておじさんが降りて行ったのは、本当に森の中だった。
冒険者には見えなかったが、ここら辺の猟師だろうか。近くにダンジョンがあるなんて話は聞いたことないしな。
ゆっくりと馬車が動き出し、おじさんがいなくなった馬車は元の静けさを取り戻した。
さて、暇になってしまった。
作っていた人形もほとんど完成だしな。
もう1つ作ってもいいが……。
後は中身を詰めるだけで完成のぬいぐるみを一旦荷物に仕舞っておく。
現実逃避するように人形作りに没頭するのは俺の悪い癖だ。
俺にはやらなければならないことがある。
荷物を閉め隣へと視線を移す。
そして。
「なぁ、きみ」
「何でしょうか、ご主人様」
意を決して、横の嬢ちゃんに声を掛けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます