黒き鏡の玉兎。
おくとりょう
第1話 月夜の沼にて
月の綺麗な夜だった。
その日も俺は仕事をサボって、いつものように沼の畔の木の下で、虫たちの声を聴きながら、うとうと微睡みの中にいた。
静かな水面には綺麗な星空と満月が映っていて、夏の終わった森からはささやかな恋の歌が聴こえてくる。落ち葉が薫る夜風が爽やかで心地よかった。
ドボンっ!
と、不意に少し離れた岸で何か大きなものが水に落ちる音が聴こえた。水面に大きな波紋が拡がる。すぐにバチャバチャバチャと水をかく音が続いて、その何かが溺れていることが分かった。
まだぼんやり夢見心地の俺だったが、見殺しにすることもできず、しぶしぶ立ち上がる。のろのろ岸辺に近寄って、ぐっと目を凝らすと、それは人間で、しかも、よく知った顔だった。
「何してんの?こんなとこで」
俺の声には気づかずに必死に手足をバタつかせる原条。だんだんと沈んでいき、やがて、あぶくを残して見えなくなった。
俺は少し迷ったあと、服を脱ぎ、沼に入った。もう秋になろうという時期の水は、肌を刺すような冷たさで、気を抜くと小便をちびってしまいそうだった。
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