小さな来訪者

れいもんと=くろ〜

小さな来訪者

 葉の上には小さなバッタが座っていた。

近くに草むらは無いし、ここは都会。


 整備された街路樹とマンションの前の小さな花壇、それに公園の、ひっそりとした子供の踏まない端にしか植物は居ない。

緑が徹底的に失われかと思えば、よその土地や国の外からやってきた植物達が我が物顔で日光を浴びている。ここはそんな場所。

近所で植物を見かけることはなく、僕の鉢植えで生命を感じることなんて、この花以外には今までまるで無かった。

でも初めて、この花以外の生命が葉の上で座っている。


 バッタが座っている葉っぱには食べた跡が穴になって残っていた。

僕は初めての来訪者に嬉しさを隠せなかった。

美味しそうに齧られた葉っぱは、どこか誇らしげで「ボクは美味しいんだぞ」と言わんばかりに生き生きとしていた。

そして僕は、どこから飛んできたのか分からないこの来訪者を迎え入れた。

と、言っても退けないだけで特別な何かをする訳ではなかった。


 雨が降り、晴れになり、燦々と日光が降り注いだかと思えば、雷が落ちる。

僕達の活動で日に日にこの星は、地上は弱っていく。

山は海に沈んで島へと姿を変え、畑や田んぼも随分と効率的になり、

人が育てている以外の命を見る機会はめっきり減ってしまった。


 それでもバッタと僕の花は元気に毎日を過ごしていた。

来訪から1週間が過ぎた辺りでバッタの具合が悪そうに見えた。

足は閉じ気味になり、微動だにしなかった。

そして翌日、来訪者は消えた。


 死んでしまったのか、

スズメにでも食べられてしまったのか、

はたまたこの葉っぱを食べ飽きて他に移ってしまったのか。

害虫と呼ばれる虫以外を全く見かけなくなってしまったこの街で

都会と呼ばれるこの街で

僕は久々に害虫以外と関わった。

今も穴はあいている。


 ふと道の端でプランターに入ったパンジーを見かけた。

ゆっくり観察してみたけれど、

やっぱり虫は居なかった。

けれど僕は知っている。

こんな街中にもバッタは居たし、春先にはチョウチョも飛んで、秋にはどこからかスズムシの鳴き声も聞こえる。


 見つけれないだけで、見つけようとしないだけで、意外とあの子たちは都会に順応しているのかもしれない。

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小さな来訪者 れいもんと=くろ〜 @Crow_swallow

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