ニューロビート
しどろ
第1話 いちご
世間の人が言うには、ファーストキスはいちごの味がするらしい。
だが僕が味わったのは、いちごでもレモンでも桃でもない、あれは──
「うえっ、くっっっさ!!!まっっっず!!!」
彼女の唇を舌で開いた瞬間、流れ込んできたのは強烈な悪臭、そして苦味だった。脳に残るその臭いに、思わずうずくまって口を塞いだ。駄目だ、吐きそう。
「あー、ごめん南くん。やっぱり駄目だったかぁ……」
僕の名前は南涼太。今日は僕の彼女、ローザと遊園地でデートしていた。ローザとは半年前に知り合った。デートに行くのはこれで8回目。もう中々仲良くなってる。ご飯は一緒に食べてくれなかったけど、彼女とはクタクタになるまで遊んだ。それで最高の思い出のまま帰る。……そうなるはずだった。
「はぁ……ほんと、なんかごめん」
彼女はうずくまる僕を見下ろして言った。哀れんだ顔で。見なくてもわかる。情けなくて、申し訳なくて、消化液だけじゃなく涙までこみ上げてくる。
しばらく僕がぐずぐずしていると、彼女は貧乏ゆすりをしつつ、鞄から何か棒状のものを取り出しはじめた。そしてカチッという音がしたあと、口に咥えた。「だから私キスは嫌って言ったのになぁ」
「ウッ、ローザちゃん、さっきはごめん、ひどいこと言ってごめん。でも、ウッ……。えっとさ、その、それ、何?タバコ?」
半べその僕は、涙でぼやぼやした視界でタバコのようなそれを見つめた。白い煙が立っている。やっぱりタバコじゃないか。
「あ、あのさ。ローザちゃん僕と同じで中学生くらいでしょ。ここ遊園地だよ。やめなよ。捕まるよ」
「あーその、南くん。違うの。これはそうじゃなくて」
「やめてって……言っただろ」
耐えられなかった。悔しかった。遊園地デートに来て、初キスで吐いた挙げ句、彼女はなんかタバコ吸ってるし、まるで僕だけ子供みたいで。
何より悔しいのは、彼女の唇を支配しているのが、僕じゃなくてあのタバコという事実だった。僕より先に彼女の唇に奪って、全部染め上げて。僕はそこに立ち入ることすらできなかった。僕は、僕なんて……。
「もうバカ!これタバコじゃないよ。電池」
ピシャリと彼女は言った。そして手に持ったそれの蓋を開けて見せた。中には単6電池が直列に収まっている。
「え?」
信じられなかった。予想を外したからではない。
「電池を吸ってるだって?そんな、じゃあ、まさか君は……」
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
「……つまり君は、人間じゃない」
彼女は躊躇いなく肯いた。
「そうよ。私はKIEテクノロジーズの人間型自律二足歩行ロボット、
僕の人生は、きっとこの瞬間に変わってしまった。
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