12.男商人「異世界にJASマークを導入しよう」女勇者「やめれー」

 

◆ミナァート王国・青空市場バザールが開催されている中央広場――


女勇者タカコ「その時、頭の上に赤い洗面器をのせた男に私の雷魔法がピシャリと!」

男商人ユウジ「おお、すが女勇者タカだな」


女勇者「見て下さい、あそこの路地裏には良いお店がたくさんあるんですよ♪」

男商人「へぇ~、らなかったなぁ」


女勇者「わあっ商人ユウジさん、これ美味しくないですか!」

男商人「もぐもぐ、っごく美味しいな!」


女勇者「この雑貨屋は私のお気に入りなのです♪」

男商人「おっ、ンス良いじゃないかー」


女勇者「実はこの前、黒猫を追いかけたら黒い下着にたどりつきまして――」

男商人「ほうほう、れでそれで?」

   (以上、仲良し夫婦になる会話術『相槌のさしすせそ』でした)


女勇者「ちょっと商人ユウジさん、ちゃんと聞いてますかぁー?」

男商人「おうおう聞いてるぞー」


◇◆◇◆◇◆◇


女勇者タカコ「わっ、あそこの露店屋さんすごい安売りしてますよ、商人ユウジさん!」

男商人ユウジ「おお本当だな。特にこの高級ハイポーションとか、昨年と同じ価格じゃ

    ないか?」

女勇者「ですねぇ~。今年は暖冬だったから原材料の青薬草ブルーハーブも収穫量が落ちて、

    どこの薬屋も高級ハイポーションは値上げして販売してるのに……これは

    お買い得ですよ♪ ここは奮発して買い溜めしちゃいますか!」

男商人「んー…いや、やめておこうか」

女勇者「ええっ、どうしてですか?」

男商人「うまい話には裏があるってね。まあ試しに1個だけ買ってみよう」

女勇者「むぅ~せっかくのお買い得なのにぃ~」



◆少し歩いた場所にある、噴水広場の長椅子ベンチ――


男商人ユウジ「ではちょっと検証してみようか。こっちが露店屋から購入した特売の

    高級ハイポーションで、そっちが俺の店で販売している高級ハイポーションだ」

女勇者タカコ「|木製の薬瓶にコルク製の栓蓋、どちらも見た目は全く同じですね《異世界のポーション容器はオシャレで素敵です♪》」

男商人「これらの中身をガラス製のコップに注いでみると――」

女勇者「あ、あれっ? 露店屋から購入した特売の高級ハイポーションの方が、

    量が少ない!?」

男商人「あ~やっぱりなぁ……これは所謂いわゆる『ステルス値上げ』だよ」

女勇者「な、何ですかそれは、「恐るべき子供○計画」ですか?」

男商人「いやいや、段ボール箱に隠れてるわけじゃねーから」



※『ステルス値上げ』とは――

 企業などが商品の価格を据え置いたまま、内容量を減らして販売する現象のこと。実質的な値上げでありながら消費者が気づきにくい点から、冗談交じりに「こっそりステルス値上げ」「静かなるサイレント値上げ」と呼び習わされた造語である。日本と英国イギリスでよく見られる現象で、英国イギリスだと「シュリンク縮みながらのフレーション値上げ」と呼ばれる。



女勇者タカコ「そう言われてみると、私の好きな「ポテトチップスポテチ」も昔より量が

    減ったような……」

男商人ユウジ「実際に減ってるぞ。例えば、カ○ビー社製のポテチの内容量は昔だ

    と90グラムあったが現在は60グラムしかない」

女勇者「うひぃ、いつの間にそんな減ってたんですか!?」

男商人「約30年間かけてジワジワと減らしたんだよ。これも典型的な『ス

    テルス値上げ』だな」

女勇者「おのれ潜入工作員スネぇぇ~クぅぅ……」

男商人「まあ企業側にも理由はあるのさ。原材料費などの製造コストが増加

    した際、販売価格を露骨に値上げすると購入離れが起きてしまう恐

    れがあるからな……。例えば、女勇者タカは「うま○棒」を知ってるか?」

女勇者「もちろんですよ、十円玉ワンコインで買える駄菓子の王様「う○い棒」っ!」

男商人「実は「○まい棒」も内容量が2~3グラム減ってるんだ」

女勇者「お、お前もか「うま○棒」ブルータス……」

男商人「けど、それじゃあ『原材料費が増加したので内容量は減らさず販売

    価格を11円に値上げします』と言われたらどうよ?」

女勇者「えぇ~十円玉ワンコインで買える『駄菓子』感を大事にしてほしいなぁ……あ、

    そういう事ですか?」

男商人「うむ。近年、消費者の節約志向も強まっているし、企業メーカー側としても

    『ステルス値上げ』は苦肉の策なんだろうさ」


男商人ユウジ「一方、今回の高級ハイポーションの様に『ステルス値上げ』の仕組みを

    よく理解していないと、知らないうちに消費者側が損をこうむる事も

    あるから注意したいな。例えば、よくお店で『営業日・営業時間の

    変更のお知らせ』とかあるだろ?」

女勇者タカコ「はいはい、近所の小売店スーパーの店頭に『臨時休業します』とか『夏季だ

    け閉店時間を早めます』とか貼り紙をよく見かけますねぇ」

男商人「ところで、小売店スーパーなどは開店営業に伴う光熱費や従業員の人件費等

    の運営コストをどう回収しているかと言うと……商品の販売価格に

    乗せているわけだ。だけど、営業日や営業時間を縮小したからって

    商品価格は値下げしないよな?」

女勇者「そ、それってつまり……」

男商人「うむ、営業日・営業時間の縮小も『ステルス値上げ』のひとつだと

    言える。あとは年会費制の遊園地やスポーツジムが営業日時を縮小

    した場合も、提供されるサービス量が減少するわけだから実質的ステルス

    値上げだな」

女勇者「はぁ~『ステルス値上げ』って「商品の内容量を減らす」だけじゃ

    ないんですねぇ……」

男商人「日常生活のいろんな場面に『ステルス値上げ』は潜んでいるからな」

女勇者「むむぅ、既にこの異世界にも潜入しているかも――」

工作員スネー○「待たせたな」

女勇者「いや待ってませんから!」

男商人(……今、誰と喋ってたんだ?)


男商人ユウジ「まあ安心しろ、『ステルス値上げ』からこの異世界を守る『秘密兵

    器』がある」

女勇者タカコ「あ~アレですね! 近年、異世界モノファンタジー作品最強チートスキルとして定番に

    なっている【鑑定】スキル――」

男商人「異世界に『JAS規格マーク』と『食品表示法』を導入すれば良い」

女勇者「やめてください」<ビシッ!(←女勇者CQCツッコミ



<次回につづく…!>


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