スーパー・リベンジ

みぐだしょ

夢の終わり

首のない天使は手を叩きながら笑った。

「よくやったものだ、……なあマキータ・テーリッツ。……つぎはおまえだ」

俺は目を見開いた、血塗れのゲイボルグがライトブレードに貫かれて倒れていた。俺は思わず後退りする。


「おいおい逃げるのか?仇は討たなくても良いのか?それとも俺が怖いのか」


  怖いだと?俺はもう一度血塗れの天使を見た。


「怖くなどない俺はおまえを倒す!」


声は震えていた。


「勇敢なことだ、しかし悲しいな。身体は正直だな」


俺は後退りをやめていない。


「このセイントメシアが貴様を葬るのだ、名誉に思うがいい」


セイントメシアはライトブレードを引き抜いた。

「死ね!」

「ハァーッ!ハァーッ!」


夢か……。なぜ今になってこのような夢を見るのだ?

「どうしたの?」

雪那が俺に声をかけた。

「起こしてしまったのか?すまない」

「……どんな夢を見てたの?すごいうなされていたわよ?」

「……昔のことさ。強敵に殺されかけた夢」

「ふーん、そいつは父さんより強い?」

「……」

まさかその本人だと言うわけにもいくまい。

「……幸太郎の方が強いよ、ずっとね」


俺がそう答えると雪那はベッドの上で身体を起こしたまま少し考えてからこう返した。

「なら安心しなさいな、きっと今なら勝てるわよ」

「?」

「あんたが父さん以外の相手にそうそう負けることはないわ」

  「……そうか?」

「そうよ、次に会ったらぶっ倒してあげなさい。それにあんたなら父さんにだって……いやなにを言わせるんだい!」

「いや雪那さんが勝手に……」

「もう寝る!」

そういうと雪那は横になり押し黙った。俺はしばらく壁を見つめていた。

「……あいつに勝つ。……勝ちたい」

  


新訂光皇歴2060年のヘブンはレインディアーズをもとにした天州連邦軍によって守られていた。俺はすでに90さいに近づき、未だにアームヘッドに乗れているのは奇跡に近かった。あるいはアームヘッドに乗っている故か。ここまで生きているのは。そんな俺が最後に持った望み。

  そんな望みは神でも悪魔でも叶えられまい。……あるいはエクジコウでも。エクジコウ、……アイリーン・サニーレタスは出会った日に俺に正体を明かした。彼は言った。

「私がお前から友人と娘を奪ったのだ。いつでも後ろから狙って来い」

その言葉に不思議な真実味があった。

  「……もっとも俺は黙って殺されはしない。俺には望みがあるからな」

アイリーンは無邪気に笑い、さあ狙えとばかりに無防備な背を向けた。彼はレインディアーズにもっとも貢献した一人だった。一度も彼の背を狙わなかったのはなぜか幸太郎を思い出したからに違いない。アイリーンはもういない。

「どうしたんですの?私に負ける前にボケられたら困りますわよ」

後ろから声がした。俺は椅子に座ったまま、後ろを振り向いた。

「ミザリー……」

彼女は俺と雪那の養女になった人間型ファントムだ。

「……あなたの願い叶うチャンスをあげましてよ?」

ミザリーは不敵に口を歪ませた。

「……?」

 「わたくしは勝ちたいですもの、勝ち続けてきたあなたに……」

……俺の願いを叶えようとしたものは……もっとも恐ろしい怪物だったのかもしれない。

  

その頃のことだった。とんでもないことが起きた。トンドルの月が、滅んだのだ。

  


トンドルを滅ぼしたのは巨大なアームヘッド、惑星そのものであるアームヘッドだった。だがそれは俺にとっての最後の戦いの始まりに過ぎなかった。

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