86 悪役令嬢のエリーレイドは絶対に諦めない
エリーレイドはどうしてこうなってしまったのか、何がいけなかったのか、今までの取り組みそのものを振り返り考えた。
「今まで画策してきた事はすべて無駄だったわけじゃないと思うわ。彼女の好みという点でも様々なイケメンが揃っているし、誰かのはずだった。だけどそれぞれの攻略対象者に対しての私達のアプローチの仕方が悪かったと考えるべきね」
彼女は今までの攻略対象者とヒロインである関係と流れを使い魔のマーベラスと振り返る。
「我が主、落ち度という反省すべき箇所は見受けられないと思います。あるとすればユウヴィー嬢が持つ感情的な面、つまりは性格を考慮されてなかった事に尽きるだけかと」
使い魔のマーベラスは主を否定しない。肯定し、その上で更に改良できると進言する出来た使い魔だからだ。
「ユウヴィーの性格ね。あの子とは何度か話しているけれど、なんていうか、現場主義というか貴族令嬢の皮を被った庶民よね」
エリーレイドはふと、思い出す。
彼女が普通の庶民的な生き方をしていたわけではなく、幼少から光の魔法で狩猟をし、日々の食糧事情や領地改善していたことを。
「違うわね、庶民じゃなくて光の魔法使いだわ」
光の魔法使いとは何か?
彼女は哲学的な思考に陥った。それは答えのでない問いだった。
「我が主、ユウヴィー嬢は主と同じ前世を持つ方ということは同じ思いを持っているという事でしょう」
「同じ思い、か」
エリーレイドはこの世界に転生してきて早々に攻略本という形で思い出せる事を書き綴った。自分がどのような思いを持っていたか、思い出せずにいた。
あるのは、死にたくないという思いだ。
転生し、家族、婚約者、領民、取引相手、傘下の商会、多くの部下、専属の騎士など数え切れない程の新たな出会いがあった。
その人たちを残して先に死ぬなんていうのは絶対に嫌だった。
この世界が好き、愛しているといっても過言ではなく、そのためなら悪役令嬢として――
「そうね。同じ思いのはずだわ」
彼女はユウヴィーも同じ思いを持っていると感じざる得なかった。前世の記憶をいつ思い出したとしても、それまで生きてきた過程で関わってきた人たちの事に対して何も感じていないわけじゃないと理解するのだった。
「我が主、では――」
「どちらかが殉愛しなきゃいけないのならば、公爵令嬢の私が残り、なんとしてでもユウヴィーをアライン王太子とくっつけるわよ」
使い魔のマーベラスはどこか
「何度も言うけれど、絶対にお兄様のルートは阻止するわよ。いい、私は殉愛しないでユウヴィーが殉愛し、相手はアライン王太子。他にもう選択肢はないわ……過去に降った攻略対象者とくっつくなんてことはないわね。いや、もしかしてあるかもしれない?」
「我が主、この攻略本には書かれていませんが可能性はあるかもしれません!」
「そうね、このあと最後のイベントがあるわ。あるけれども、起きるかどうかわからない所なのよね」
「もしかして、あのユウヴィーの使い魔の件ですか?」
ユウヴィーが幼少の頃に契約した使い魔のスナギモ。見た目は子犬だが、どこから拾ってきたのか? エリーレイドはその使い魔がどこからやってきたのか調査し、判明させていた。
「あれ、最後のイベントのラスボスなのが確定していたのよね。ヒロインがラスボスを使い魔にしてるってなんなのよ」
う〜んという唸りながら頭を抱えるエリーレイドだった。
「我が主、この攻略本によるとこのあとの最後のイベントでは氷狼王フェンリルによって古の瘴気が蘇り、次第に様々な地域で瘴気汚染が広がります。広がっていく中で諸外国の騎士団と共に浄化をおこなっていき、聖女として役割を全うしていくと書かれています」
「もうすでに聖女じゃない?」
ユウヴィーの日々の行動や諸外国の王族に対しての対応とその婚約者に対してなど、波風を立てていなかった。更に自国に対して優秀な働きをし、諸外国に対しても模範的な行動をしている。
言動や時折見せる貴族らしからぬ行動は元が子爵家であることから目を瞑られている。
「我が主、肯定します」
悪役令嬢としての行動をエリーレイドは振り返る。
「王太子とは二人っきりにしていたり、ユウヴィーとは何度か接触があった。イベントとして邪魔という邪魔はしたけれど、邪魔したのは問題だったのかしら?」
エリーレイドは事前に何か準備しておけば、人を使えたけれども王国だけにとどまらず国外からの情報から何か不穏な感じがあって情報の整理に忙しかったのだった。
「でも、王からの直々の命令だったのもあって調査せざる得なかったのよね」
「我が主、この攻略本によるとそういった兆しがあってから間もなく起きると書かれています」
「そうなのよね、最後の大きなイベントがカギを握ってるというか、もうそれしか……頼れるのがないのよね」
「我が主、この攻略本によるとその際にヒロインと主のお兄様との――」
「絶対に、お兄様のルートは嫌。却下よ!!」
エリーレイドは、使い魔のマーベラスを掴み顔を埋めて吸う。
――すーはーすーはーすーはーすーはー
使い魔のマーベラスは余計な事を言ってしまったと後悔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます