87 秘めた思い、生への渇望
ユウヴィーはまたもやサロンの個室に呼び出されていた。
今回はエリーレイドからだった。
「もう一度聞くわ、アライン・フェルグリーヴ・サンウォーカーのことをどう思っているの?」
「サンウォーカー王国の王太子です」
「個人的にどう思っているの、という点よ」
ユウヴィーはとても答えづらかった。エリーレイドは悪役令嬢枠とはいえ前世の記憶持ち、かつ婚約者である。
(推しです。ぐへへ)
なんて言えるわけがなかった。
だが、はぐらかすようなことも無理なので当たり障りないように伝えた。
前世の時にどう思っていたかなんていう言葉を口にするとそれはアライン王太子に伝わってしまう気がしたからだ。
「私が好きだった相手が別の人を好きだったのなら、それで幸せになってほしい。私は邪魔をしたくない、そういう好きなんです」
心の中で折り合いがつくのか、つかないのか、告白して玉砕されればと思ったりした。
しかし、相手と自分の立場というのがある。
言うは易く行うは難し、自己満足の決着をつけて、実際に相手の心情や取り巻く環境が変化してその人の幸せを壊すということをユウヴィーはしたくなかった。
メインヒロインだから、と告白してうまくいったとしてもそれで幸せかというと婚約者がいて、政治的ならばいいのかと思っていたけれど、今までの婚約者がいた人たちは名ばかりではなかった。
エリーレイドでさえ、婚約者という立場だけではなく家として行動している。
ユウヴィーは田舎貴族かつ貧乏だ。思いだけで今まで行動してきたが、王からの勅命で通っているこの学園で成果を上げていく中でうすうすと気が付いた事だった。
原作のヒロインは、恋愛を成就させ、幸せだった気持ちを感じてもらいたいから殉愛したのだと思った。理不尽に瘴気によって殺される世界から救いたかったのだと思った。
では、ユウヴィーはどうなのか?
「わかったわ」
と言い、その場を去っていった。
いつものように多くを語らず勝手に去っていった。
ユウヴィーは聞きたかった、アライン王太子のことをどう思ってるのか、と……。
(嵐のように来て、去っていった。何があったのかは、なんとなく察したけれども)
本心のどこかで付き合えたら、という考えもエリーレイドから詰問された後に考えなかったかと問われるとウソになる。前世で遊んだゲームなのだから、そういった考えはあった。
だが、それが現実となった場合に殉愛という死が待っている。
図書館で調べ物をしている時、ふと推しとのそういう関係を妄想したりした事もあった。だが、実際に現実はどうかとなると彼女は何か違うと思っていた。
(やっぱり私は死にたくない)
実家に戻って貧乏でもいいから狩猟をしたりする生活でもいい。だが、世界の瘴気に対する不安、怯え、汚染状況からユウヴィーは無視出来ずにいた。
(私がどうにかすればみんな助かるけれども、だとしても死にたくない)
前世の彼女が身を削った先にあった過労死だったからだ。
+
「ハープ、私の今後の結婚とか恋愛ってどうすればいいと思う?」
ユウヴィーは同室のハープに相談を持ちかけていた。
「今までの功績からして普通の恋愛はもとより結婚も難儀しそうよね」
「えぇぇ、そんな事を言わずに何か教えてください。お願いします」
「でも、実際にその功績で婚約者もいないなら、好きな相手をくっつけるんじゃないかな……相手に婚約者が居ようとも関係なく」
ユウヴィーはもうそれはただの略奪では? と思うのだった。
「ユウヴィー、引いてるけれど、貴族や王族では当たり前よ。むしろ引くというのは恋愛に対して侮辱していると思うのだけど」
思いが強い方が勝つ、それがこの世界の恋愛観では常識だった。
ユウヴィーは図書館に籠りっきりなのと王族とその婚約者に対し、調停のような事をした。彼女が持つ独自の恋愛観と殉愛したくないという思考からの行動だった。
「思いが強い方が勝ちであり、その思いをぶつけ、返ってくるからこそ、捨てられた方も学ぶのよ」
ハープは真剣かつ親身になってくれていた。
「でも、嫉妬心から暗殺とか何やらしてくる可能性ないの? ほら、相手は少なからず権力持ってるし?」
「光の魔法パワーと功績にそんなことしてくる無謀な人いる?」
「いやいない……かも?」
「ね?」
「いやわからないじゃない」
「もしかして、恋愛にビビってる?」
「え」
(そりゃ実際に死ぬかもしれないから……ビビってるのか……)
ユウヴィーは本気で恋愛をしたくても死を恐れていた。恐れいたから動けなかったのかと改めて向き合った。
ハープから言われて、今までの相手に向き合えなかったのは、死ぬのが怖いからだ。
本当は恋愛して、寿命を全うしたい。願わくば、そういう人生を歩みたいと思っていたのだった。
「恋愛結婚したら死ぬわけでもあるまいし」
ハープが言ったことがどうにもその通りなんだよなぁとぼんやりと思ったのだった。
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