84 推しがヘタレてるのは見たくない

「それでエリーレイドは私のことをどう思ってるのだ?」


 サロンの個室でアライン王太子がユウヴィーに問い詰めていた。

 先日のような焦燥感はなく、余裕があった。


「アライン王太子は、いつまで学園に?」


「昨日、監視していた配下から連絡があってな、聞いたそうじゃないか、私のことをどう思ってるのか、と」


「え、ええ」

 質問に答えず、はぐらかそうとしたがダメだったユウヴィー。

 食い気味に聞いてくる殿下に圧倒されている。

 

 エリーレイドの反応が即座にあった事と、答えは言ってない事を伝えるとそれについてどう思った、何を感じた、普段と表情の違いは、と質問されるのだった。


 ユウヴィーはそもそもそういう反応はアライン王太子の方がこつこつコミュニケーションとって微々たる動作を見逃さないものじゃないのだろうか、と思った。


 なぜならエリーレイドのことが好きなのだからである。

 

「アライン王太子は、エリーレイド様に対して好きとかそういった言葉を投げかけた時は彼女はどんな反応示すのですか?」


 純粋な疑問だった。

 普通に乙女な反応を示すのだろうか?

 

 しばし沈黙が流れる。

 

「アライン王太子?」

 

 か弱いほそぼそと、何言ってるのかわからない声量だった。

 

「アライン王太子?」

 

 再度、何言ってるのかわからないから聞いてみた。

 

「してない」


(はぁ?)


 開いた口が塞がらなくなった。思わず声に出しそうになったが、そこは耐えるユウヴィーだった。


(こいつ、ヘタレてるやんけ! あるぇ、歯をうくようなセリフとか原作であったような……もしかして、相手の気が強そうだから言いにくいとかそういう?)


 原作のヒロインは少し引っ込み思案でぽわぽわしてるのをうっすらと思い出す。


(無個性な主人公だから言われても嫌われないだろう的な雰囲気だから、王太子も甘い事を言えたのか?)

 

「アライン王太子、まずは思いをぶつけましょう」

 

「き、嫌われたらどうするんだ? お前責任とれんのか? あぁ?」


 いきなり顔が険しくなり、まさか責任を問われるとは……しかもキレだした。

 

「婚約破棄でもされたらどうするんだ? いや相手は王族の私よりも下だからさすがに……いややろうと思えば、可能か?」


 このアライン王太子は変な所で頭をフル回転させていた。

 

「アライン王太子、いいですか。婚約者同士でしょう? 親が決めたとはいえ私はあなたのことを好きですと伝えればいいだけじゃないですか」

 

 ぐむっ、という表情をしていた。


(こいつ原作でどうやってヒロインに告白したっけ? まるで思い出せない)


 すでにアライン王太子をこいつ呼ばわりしているユウヴィーである。

 彼女の中では最推しとはいえ、目の前でへたれている状態は何か許せないのか、強気だった。

 

「一度、面と向かって言ってみて反応見てみて、それで少しずつアプローチしてみたらいいじゃないですか」


 ユウヴィーの前世はあまり異性との恋愛経験はなかった。そのため適当にアドバイスしたといっても過言ではなかった。


(本当はこう恋愛というのは相手が自分の事をどう意識させ、好きに持っていくのかとかあるんだろうけれど、ハープが言っていたやり方は何かこう……恋愛というよりもハニートラップみたいだったから違うんだろう。いやよくわからない)


 ユウヴィーは同室のハープとどうやって結婚相手を見繕うのか話を何度かしていた事を思い出すがどれも何か違うと思ったのだった。


「そ、そうだな。確かにユウヴィー嬢の言うとおりかもしれない。私はどこか怖じ気づいていた、お互いすでに婚約者としての月日から考えるとこの距離感のままというのはおかしいな」


 メインとなる攻略対象者だけあり、ポジティブな押しの強さは根底にあった。そのため、アライン王太子の目には輝きが灯ったのだった。


 アライン王太子は大きくうなずき、微笑むと彼は颯爽とサロンの個室から退出していったのだった。

 

 残ったユウヴィーは誰もいない部屋でため息をつきそうになり、止める。


(そういえば、昨日のエリーレイドにアライン王太子についてどう思ってるのか聞いたって言っていたわね……)


 この部屋そのものに盗聴がされているのかもしれないとユウヴィーはキョロキョロとあたりを見渡すがそれらしい魔法具や魔法の痕跡を発見できずにいた。


(ううーん?)


 王国の諜報部による普通の人にはわからない方法なのだろうと思い、探すのをやめてサロンの個室から出たのだった。


(図書館に行って、勉強の続きをしよう。今の自分にはそれぐらいしか打開策が思い浮かばない)


 とぼとぼと図書館の方に向かい、まだ知らない瘴気の事を調べようと意気込むユウヴィーだった。


(よし、殉愛なんてせずに頭脳パワーで瘴気を浄化してやるぞー!)


 彼女の持つ光の魔法の力は幼少の頃から原作とは違う方向で極められていたのだが、当人は気づいていなかった。



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