83 膨らむ不安

 エリーレイドからサロンの個室に呼び出され、入ってみると彼女の目はらんらんとし、口はにんまりとしていた。


「エリーレイド様が思っているような事ではないですよ」


「くふっ、くふふ」


「ご機嫌ですね」


「いやぁ、だって私に黙って密会してるのだもの、そりゃあ……つまりそういうことでしょ?」


 ユウヴィーはどうしたものかと思った。先日アライン王太子と確かに密会のような形で会っていた。会っていたとしても記録として上流貴族や王族で閲覧可能である。


 ヒロイン、メインキャラ、ライバルとの三角関係というのは恋愛漫画やら恋愛小説とか恋愛系のものでは定番だ。

 

 実際に自分がそれに組み込まれていると話は別となる。


(とてもめんどくさい)


 エリーレイドは、ユウヴィーと誰かをくっつけたい。

 エリーレイドとアライン王太子は親が決めた婚約者同士だ。だがユウヴィーとアライン王太子は親密になりたい、くっついたら死ぬ運命だしそもそも推しではある。親密であって、恋愛関係になりたいわけではない。

 

「そういうことなわけないですよ」


「ふぅ~ん、そうかしら?」


 なにか含んだ言い方だなと思いながら、適当にあしらう事にした。

 今日も今日とて図書館へ行き、光の魔法以外で瘴気対策をどうにかする方法を見つける。実際に様々な国の正気問題を根本的ではないにしろ、ある程度予防や対策など貢献してきた事に自信を持っているのだった。


(各国の瘴気問題に対して、何かしら打つ手があったように、光の魔法以外に頼らなくても出来る可能性があるはずだし)


 そうじゃないと自分の身を犠牲にしないと諸々解決しないというひどい世界だからだ。本当にそうなのか、彼女は思っていたのだ。


 常々、光の魔法そのものがどういうものか図書館に書いてある事以外で何か特性があるのかとか調べ、実際に可能性を検証してきた。

 

「男女二人きりだったじゃない」

 

 ユウヴィーはエリーレイドと話をしていることを思い出し、瘴気について考えるのを止める。


(そういえば、エリーレイドの頭の中はどうなってるんだろうか、そもそもお互い死にたくないし……やっぱり私を誰かとくっつける事で回避したいって事は変わらないけれど――)

 

「エリーレイド様は殿下の事を好きじゃないの?」


「私の事はどうでもいいでしょう」


 聞かれる事を予想していたのか、間髪入れずに返してきた。

 はぁ、とため息をついてこれ以上話す事もないと思いその場をあとにした。

 

「それじゃごきげんよう」


 だが、少しばかりいつもと違う表情をしている事にユウヴィーは気にかかっていた。

 

 一人、サロンの個室でユウヴィーは腕を組みながらエリーレイドが早々に去っていった事に疑問を感じ、さっきまでの会話からとりとめもないただの雑談だったことに首をひねる。


「なんだったのかな?」


+


 ユウヴィーは図書館へ向かいながら入学してからの事を振り返っていた。主に瘴気の事ではなく、攻略対象者たちに対してだった。


(最初に出会ったのは自国のアライン王太子、これは私の推し――)


 本来なら小鳥のような聖鳥が彼の肩に止まって一枚のとても素敵な絵になってという所を思い出す。だが、実際には後ろにユウヴィーの後ろからトテトテとついてきてる使い魔の犬であるスナギモである。


(最初から何か間違ってるわね。アライン王太子の次はフリーザンネック王国の王太子……オレ様のフォーラズね。今は自国に戻って各領地に対して瘴気対策をしていて、あれからどうなったんだろ?)


 共同で解決策を見つけたとしてはユウヴィーは貧乏子爵家の令嬢。おいそれと外交的な情報を教えてくれるようなものではなかった。


(まあ、きっとうまくやってるでしょ。次はハマト国の皇子の所は……)


 ユウヴィーは攻略対象者を思い浮かべながら、どれもその後うまくいっているのかどうかわからなかった。何も連絡が無いことはきっとうまくいっているのだろうと推測するしかなかった。

 エリーレイドにそのあたりの事を聞けば、きっと何かわかるのかもしれないと思ったが引き合わせようとし、くっつけようとする可能性もあると思い頭を振った。


(あ、そうだ。レイバレット様に聞いてみる方がいいか。次に会った時にそれとなく聞いてみよう)


 ユウヴィーは、瘴気をどうにかすれば自分が犠牲にならずに解決すると思っていた。解決した場合、エリーレイドも多分大丈夫だろうと思っていた。


(図書館に籠もりきりな学園生活だったけれど、攻略対象者とは出会うし、なんとか瘴気を解決してきた。けれど、何か嫌な予感がするのよね)


 殉愛、愛する者同士の犠牲によって瘴気を浄化しなければいけないような凶悪な瘴気に今まで対峙したのは一度だけだった。


(邪竜は聖竜に戻ったし、あの二人の愛の力で……いや聖剣の力もあるけど、なんとかなった。あのレベルよりも更に凶悪な瘴気があるって事よね)


 ユウヴィーは自然と貴族教育で培った表情から苦虫を噛み潰した表情になっていた。


(だ、大丈夫。きっとまだ手はある)


 その日、彼女は図書館で過去の凶悪な瘴気について復習し、どうやって解決できるのか資料をまとめるのだった。

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