81 恋愛詰問、最近ここ数年婚約者がお前の事を……

 ユウヴィーはサロンの個室に来ていた。


 目の前には自国、サンウォーカー国のアライン王太子が真剣な表情でユウヴィーを睨んでいた。

 シーンドライブ帝国の王子との事、浄化システムの事など、気になる話が耳に入り確認したいと呼び出されたのだった。エリーレイドも同席しているものだと思ったのだが、二人きりであった。


「ちまたでは聖女、という噂も出ていてね。とても誇らしく感じるよ」


 どこかトゲっぽいなとユウヴィーは感じていた。

 

 このあと長い前置きされ、交流がある諸外国の王族と深い関係に踏み込んだのに、全て断っている点などが評価された。

 各国が抱える瘴気問題や技術提供などを行い、大きな借りを作っていることを王族として誇らしく思っていると言われる。


 だが、目が笑っていなかった。


「伝説に存在するような聖女そのものだ、ね」


 背中に冷や汗が流れ、傾聴するユウヴィーは何が起きているのか理解できなかった。


「どれもエリーレイドが根回しや君の支援をしていると、私の影も突き止めているのだけど――」


 一呼吸した後にアライン王太子の目力が強まった。


「お前たちは付き合っていないんだよな? な?」


「ど、同性ですよ?」


「聞いてるんだ。どうなんだ?」


「付き合ってないです」


 アライン王太子は、手紙の束を出し、テーブルの上に並べ始めた。

 

「私も最近、公務で学園にこれないことが多くて手紙でやりとりしているんだが……ほとんど君の事が書かれている。」


 アライン王太子とエリーレイドの手紙のやり取りがあり、その内容の大半が私の動向と良さについて綴られているという事だった。


 どちゃぁと手紙を目の前に出され、一つ一つ指を指し、そこに綴られている文章をなぞっていった。まるで読めと言わんばかりの指示だった。


 それぞれ指をさすとユウヴィーの功績や諸外国からの好印象であること、これでもかと褒めちぎったものが書かれていて


(なにこの公開処刑は……)


 赤面する内容だった。

 

 ユウヴィーを推すような内容で、仲を疑っているとのことだった事に気づくのだった。なんとか説明をし、誤解を解かないとこれはヤバいと感じていた。

 先程からのアライン王太子の雰囲気が明らかに恋敵を見るような状態であり、権力を使ってどうにかする可能性があると感じたからだった。


「誤解です」


 真剣な表情で訴えた。


「これはそのあれですよ、過度な報告であり脚色されてるのでは?」


「事実確認はもちろんしてあるが、どれも脚色されてないんだよ」


(すでに裏取りしてましたか)


 ここで更に否定するのは危険だと判断し、どう切り返すか考えるユウヴィーだった。


「これを読んでるとなんというか、エリーレイドはお前の事を好きなんじゃないかな、と感じてくるんだが?」


 目の前の王太子の眼には光が宿っていなかった。


 まさか殉愛ルートではなく、王族に対しての謀反により誅殺されるルートなのかと死を考えはじめるユウヴィーだった。


 アライン王太子はエリーレイドの事を溺愛している。


「これは、普段……そう普段、私があまりにも不甲斐ない事が多々あるため、その目をかけている内に次第に情が湧いて、こう妹のような感じで見えてしまってるのかもしれないのですよ。決して恋愛的な感情は抱いてないです。それに私は異性が好みです」


 推しは貴方ですからね! と言いたいが、原作でもなかった別の顔をしているアライン王太子に怖気づいてしまい言えないユウヴィーだった。

 推しの新たな一面を垣間見ることが出来ているが、ただならぬ雰囲気に押されてしまっているのだった。


「じゃあ、証明しろ。好きなタイプは? 結婚したい者はいるのか?」


 前世基準の彼女の中では完全にセクハラじゃねぇかと思うものの、王族であるため口には出せないのであった。


「いや、好みといいますか、最近そういった関係の異性は出会いが、その……」


「どれ、今までお前が会ってきた異性の名前を列挙していくぞ?」


「えっ」


「王族直属の諜報機関から上がってきた資料がある。まずは――」


 アライン王太子の口から発せられるのは、ユウヴィーが関わってきた異性の情報だった。クラスメイトでちょっと話した相手から、食堂で目で追った相手、告白してきた諸外国の王子までありとあらゆる情報をスラスラと言われるのだった。


「丁度、ここにリストがある。まさかここに好みの男性がいなかった、と?」


 事細かに記載されていた資料を渡されたのだった。


(うそでしょ……)


「レイバレット、エリーレイドの兄との交流関係は良好のようだな……まさか兄と仲良くなり妹であるエリーレイドとは表向きに付き合えないから裏で……」


 アライン王太子の表情は何か抜け落ち、ユウヴィーは思わずゾッとしていた。

 サロンの個室の体感温度が下がったように感じていた。


「ちょ、ちょっ! そんなわけないじゃないですか! 冷静に考えてください!」


 思わず素の言葉で返してしまうユウヴィーだった。

 若干涙目になりながら、訴えかけるとアライン王太子は席にゆっくりと座り、両手を組むのだった。


「至って、冷静だ。だが、今日はここまでにしておこう。後日また確認させてもらうことにしよう。私はこの後、エリーレイドとの約束があるからな」


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