80 若さの勢い

 浄化システムの試作機がいくつか完成し、様々な障害があることをユウヴィーとリレヴィオンはエリーレイドから教えてもらった。


 二人はすぐにどうすればいいのか、話し合っていたがすぐに解決できるようなものではないとわかったのだった。


「オレがまだ帝王じゃないから、権限や政策、税、そういった様々な決定権がないからか……」


「私も貧乏子爵家令嬢だから、そういった事は何も出来ないわね……」


 試作機とはいえ、浄化システムとして瘴気、魔物の種類によっては効果的に発揮する。リレヴィオンはすぐにでも実用化に向けて動きたくて焦っている様子がユウヴィーには見えていた。


「とりあえず、今日はもう帰りましょう」


 リレヴィオンはうなずき、浄化システムの実装を現実化するための話し合いは解散となった。


+


 そういった日が何日も続き、互いに行き詰まりを感じる中でも試作機の改良などを行っていた。

 だが、焦れる想いが爆発し、リレヴィオンはユウヴィーに対して行動的になったのだった。


「オレと共に帝国に来てくれ」


 ユウヴィーはそのセリフを前世で聞いたことがあったものだった。


 片膝をつき、真剣な表情で見上げ求婚をするその仕草はまさしくシーンドライヴ帝国ルートであり、リレヴィオンルートのものだった。


 どうしてそうなるのだろうか、と疑問に思うユウヴィーだった。


「サンウォーカー王国の公爵家令嬢のエリーレイドとはすでに話をしてある。彼女もまた瘴気について憂いていて、前向きだった。後のことの段取りなどは問題ない、あとは本人の意思に任せると言ってくれている」


 ユウヴィーはリレヴィオンの言っている事から前世のシチュエーションとだいぶ違う事に気づき、冷静になった。

 片膝をつき、リレヴィオンと同じ目線にし、真剣な表情で返事をすることにした。


「あなたが背負ってるものがあるように私にも背負っているものがある。瘴気問題の解決という共通の思いがある。それは間違いないわよね」


「あ、ああ!」


「そして、今こうやってやれているのは国の支援や他国との繋がりがあってこそよ」


「君が欲しい」


 ユウヴィーはリレヴィオンの頬を赤らめた表情から発せられた突然の告白に驚く。


「確かに私とあなたが組めば、浄化システムもうまくいくかもしれない。けれど、今までうまくいけていたのは誰のおかげ? それを蔑ろにするような人と組んでいくほど、私は軽くないよ」 


 リレヴィオンは眼をパチクリとし、要領を得ていなかった。


「いい? 今あなたがここまでがんばれたのは、親や婚約者、あなたを慕う者たちが国にいるからでしょう? それを知り合って間もない聖女と噂されるような私がシーンドライヴ帝国に突然きたら、どうなると思う?」


「オレの婚約者ならわかって――」


 ユウヴィーは首を横にふり、彼が言い終わる前に否定した。


「そうやって独りよがりに戻ったら、また同じ過ちを繰り返しちゃうわ」


 リレヴィオンはいつのまにかユウヴィーに甘えていた事に気づき、立ち上がる。

 ユウヴィーもまた立ち上がり、見下ろすような形になる。


「あと私は年下は好みじゃないの、ごめんなさい」


「ふ、ふーん。まだまだだね」


 強がりながら、涙を堪えるリレヴィオンだった。


「オレが帝王になった時に、絶対に後悔させてやる。あの時、オレの手を取っていればよかったってな」


「ふふ、それは楽しみですね。頭がいいのなら、もうちょっと婚約者の事や自分の国と他国との関係を更に良くしていけば、すぐですよ」


 無理やり笑顔を作り、涙を流さないようにリレヴィオンは強くあろうとしていた。

 ユウヴィーはリレヴィオンの事をお姉さん視点でしか見れていなかった。

 彼が抱く想いは、思春期特有のよくある年上のお姉さんに惹かれてしまうものだと思っていたのだった。

 そのため、彼がどのくらいの覚悟でこの学園にきて、浄化システムのことに取り組んでいるのか、深いところまで踏み込むような考えはなかった。


 それがリレヴィオンにとって、とても心地よく年相応でいられた瞬間だったが本人は自覚がなかった。


「結局、この浄化システムはあんたの浄化には程遠い……か」


「そうだとしても、一つの力が弱くともそれが百、千とあれば覆せる可能性がありますわ」


「コストはかかる、けどな」


「でも可能になったじゃありませんか、あとは一つ一つ解決していけば近い将来、浄化の魔法に頼らずとも浄化できる未来があるとわかったじゃない?」


 リレヴィオンはニヤリと笑い、会った時のような強気な表情になっていた。


「あんたが卒業するまえに、解決してやる」


 こうして、ユウヴィーは今回もまた攻略対象者の殉愛ルートから円満に脱することができたのだった。





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