58 マックス大勝利! 希望の未来へレッツ・ゴーッ!!

 地鳴りと共に咆哮が轟き、ユウヴィーはバッドデッドエンドルートは確かなかったはずと思ったが、死ぬのではないかという危機を感じていた。

 

(光の魔法なら、刺さなくなって、殺さなくたって、瘴気だけを、瘴気を打ち払えるはずだ!)

「光よぉぉぉ!!」


 痛み苦しみだす邪龍エボラァーション。

 光の魔法により、瘴気が薄れるが、それがさらに苦しみを与えていた。

 爛れた皮膚が露わになり、体内の瘴気が漏れ出し、さらに皮膚を傷つけていた。

 

――GYAAAAAAAAAAAA!!

 

 マックスは聖剣を構えたまま躊躇していた。

 

――イヤダァァァァァァァァ!!

 

 叫ぶ聖龍エボラァーション、目から涙を流していた。

 ユウヴィーは浄化とかけ続け、抑え込もうとした。だが、邪龍エボラァーションはその胴体をユウヴィーの方へ一歩一歩近づいていった。物量でユウヴィーを押しつぶそうとしていた。

 負けじとユウヴィーは浄化の力を限界まで出し、今まで感じた事のない身体の中から力が抜けていくような感覚が起きていた。

 

(ここまで……?)

 人生を悟りそうになるほど邪龍エボラァーションの巨体が迫ってきていた。

 だが、邪龍エボラァーションが近づくと聖剣が呼応していき、光りが増していた。

(いける、かも?)

 ユウヴィーは力を振り絞った。

 

「いけ、いけるか……!?」


 それを聞いた邪龍エボラァーションがユウヴィーの言葉に憤る。

 

――お前に何がわかる小娘ェェェ!!


 聖龍エボラァーションであった部分が黒くなり、完全な邪龍エボラァーションとして一体化した。空気がいっきに重くのしかかるような息苦しさを感じ、ユウヴィーは吐きそうになっていた。

 

(吐く吐く吐く吐く!! 我慢我慢我慢我慢!!)

 

 必死に耐え、吐き気はおさまるものの、悪寒がし、血の気が引き、意識を失いそうになった。

 死を悟り、ユウヴィーはこのままではいけないと思い叫んだ。

 

「生きたいッ! 人生を謳歌したいッ! 推しをッ応援していたいッッッ!!」


 ユウヴィーが自身の願いを口にした事で感じていた悪寒を振り払う事ができた。そして、血走った目でマックスの方へ向く。


「聖剣士マックス! お前はッ! お前はこんな所でッ! 迷っている場合! 伝えて彼方の思いを! 言葉に!!」


 ユウヴィーは力を振り絞りながら巨大な邪龍を光の魔法による浄化、さらに回復を混ぜ合わせたものを発動させいた。両手を邪龍エボラァーションに掲げながら、額に汗を浮かべ、歯を食いしばっていた。 

 マックスは聖剣を地面に刺して、祈るように片膝立ちをし、邪龍エボラァーションを見上げた。


 何かを決心し、今までとは違った顔つきになっていた。


 ユウヴィーは少しでも邪龍エボラァーションから発せられる瘴気が弱まれば、浄化が楽になるから助かるかもしれないという打算的な考えだった。

(これでダメならもうし、知らないッ!!)


「エボラァ、聞こえるか? エボラァ。返事はしなくてもいい。ただ、聞いてくれればいい。


――村長のおじさんは、逝ってしまったよ。全て自分が悪かったって、言い残してね。でも、そんな事はもういいんだ。いいんだよ。


――それともその事でオレがお前を嫌いになるって、思っているのか? なあ、オレたちはこの今まで何をしてきたんだ。


――オレたちのこれまで何だったんだ。


――まだ何も答えなんか出てないじゃないか。覚えてるか?


――あの時、オレが聖剣使いに選ばれて、ちゃんとした騎士として村に戻って何年ぶりに会ったオレたちは、聖教公国の連中に無理やり勇者だとか聖龍の役割を押し付けられて、何もわからないまま……封印された瘴気の浄化させられた。


――オレは勇者と言われて浮かれ、瘴気を浄化していった。でも終わってみれば、周りは素知らぬ顔で、エボラァの事なんか考えちゃいない。


――でもそれで、オレたちが終わってしまっていいわけがないだろ。


――確かにオレたちは瘴気を浄化していった。でも、それは全てエボラァがそばにいてくれたおかげなんだ。


――そうだよ、お前とオレとで瘴気を浄化してきたことなんだ。


――だから、これからもずっと一緒じゃないと、意味がないんだ。


――エボラァ……あの時、オレは言ったよな。封印された場所を全部浄化し終えたら、お前に聞いてほしい事があるって。


――オレは戦うことしか出来ない、勇者と言われて浮ついたバカな男だ。


――だから、こんな風にしか言えない。


――オレは、お前が、お前が、お前が好きだ、お前が欲しいぃぃーー!! エボラァーーーー!!」


 マックスによる長い告白の最中、ユウヴィーは必死にあたりを浄化していた。

 冒頭の昔の話からすでに意識は半分失いそうになり、これはダメかもしれないと思いつつも、生きたいという執念で耐えていた。


「マックスゥゥゥ!!」

「エボラァーー!!」


 邪龍エボラァーションは次第に白く変わっていき、眩い光りを発するようになっていった。定着していた黒い瘴気は薄くなり消滅していっていった。

 

「マックス、ごめん。ごめんなさい!」

「バカ……もう離さない、諦めない」


 二人が盛り上がり、龍ではなく人型になったエボラァーションはマックスと抱き合っていた。それを視界の隅で見ながら、ユウヴィーは必死に空気中に漂う瘴気そのものを必死に浄化していた。

 この場に少しでも瘴気が残っていたら、また邪龍エボラァーションとして復活し、聖剣士マックスのルートが確定してしまうからだった。

 

(ンギギギギギッッ!!)


 歯を食いしばり、光の魔法を展開し、浄化し続けた。今までの瘴気と違い、浄化に抗う性質を持っていると感じていたのだった。

 

 その瘴気は粘り強く、ベトベトし、フヨフヨと軽そうな霧のようだが、見た目は不定形なジェルがそこら中に漂っていた。


「「ずっと一緒だ、これからもずーっと……フフッ」」


 二人は見つめ合い互いにキスをしていた。だが、ユウヴィーは、視界の隅だろうと周囲に漂う瘴気を根気強く浄化しているため、それどころではなかった。額の汗が目に染みて、周りがぼやけていた。もし、鮮明に見えていた場合、二人のいちゃついてるのを目にすることになっていただろう。幸いにも、集中力が切れてしまうので見えなくてよかったのである。


(無理無理無理無理ィィィ……いやいやいけるいける!!)


 弱気になりそうな心を自分自身で励まし、力の限り振り絞っていた。


「マックス!」

「エボラァ!」


 二人は地面に刺さった聖剣を抜き、空に掲げた。

 

「浄化をしよう」

「ええ!」


 聖剣が光り出し、あたりに漂う瘴気の塊が震えだした。


「「オレ(わたし)たち、幸せになります!!」」


 その瞬間、周囲に展開した光の魔法が聖剣に反応し、淡い光りが聖剣を中心に広がっていった。清涼な風が吹き抜け、さっきまであった瘴気の気持ち悪さと息苦しさがなくなったのだった。

 

(や、やった……おわ、終わった)


 ユウヴィーは周辺一帯に瘴気が浄化されたのを感じとり、力尽き倒れたのだった。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る