24 シャイニングマジカルイルミネーション

 甘すぎる空間から去るに去れないユウヴィーは、早く時間が過ぎてくれと願っていた。数十分した後に会場の奥の壇上から学園長からのスピーチがはじまった。

 

「おっと、オレ様たちは行くぜ。大事な時間がこれからあるからな」

 フォーラズはそう言い残すと、スッとどこかへ行ってしまった。

(なんだったんだ……疲れた)

 

 学園長のスピーチは思ったよりも長く、内容も支援してる諸外国のゴマすりから昨今の瘴気について語っていた。演説が終わり、拍手が起き、次に壇上に上がったのはフリーザンネック王国のフォーラズ殿下だった。

 

 彼の口から瘴気に対しての進展があった事の謝辞、報告、経過、情報の連携だった。

 

 普段はオレ様の彼も、一国の王太子という事もあり、きっちりとしていた。ユウヴィーは、一緒に瘴気対策に向けて共同でやっていた事を思い出し、うまくいってよかったと改めて思うのだった。

 

 フォーラズのスピーチは終わり、会場は拍手喝采に溢れていた。

 

 会場内からどこからか音楽がきこえはじめ、ダンスの時間だった。

 

(確か、通例ではダンスの順序というのは、決まっていない。だが、今回はフリーザンネック王国のスピーチがあったから、フォーラズとそのツンな婚約者が最初のダンスをする流れかな?)

 

「では、ここで最初のダンスをユウヴィー・ディフォルトエマノン嬢にお願いしよう」

 

 ユウヴィーは貴族教育で培ったなにごとにも動じない表情を保った。

(はぁぁぁぁぁぁぁ!?)

 

 壇上から、オレ様フォーラズが私の方に手を向けていた。すると、人だかりがザッと割れ、サンウォーカー国の王太子のアラインがユウヴィーの方に歩いてきていた。その後ろにエリーレイドがにんまりとしていたのだった。

 

(恥をかいてしまえ!)

 

 ユウヴィーはフリーザンネック王国に貢献した。その事実から今回の最初のダンスの権利は彼女にあるという話をエリーレイドがフォーラズに話したのだった。ユウヴィーはそのことを瞬時に悟り、かつ誰と踊るのか? という問題を自国であるサンウォーカー国の王太子にしたのも、婚約者である私の提案なのだからと押し通したことを悟った。

 

(あの悪役令嬢ぉぉぉ!)

 

 だが、エリーレイドの誤算は、ユウヴィーが緊張してダンスを踊れない、踊れたとしても、アライン殿下と肌密着して親密度上がれば良しというザルな作戦だった。急遽考えた事であり、完全な出たとこ勝負なものだった。

 

「突然ですまないが、一曲踊りに付き合ってくれ」

 ユウヴィーにとって推しであるアライン殿下の誘いに、キュンとトキめきつつも貴族教育で培ったダンスの作法を間違えずにおこなった。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「大丈夫、フォローするから」

 アラインがそっとユウヴィーを引き寄せ、耳元で誰にも聞こえないように言うのだった。

 

(死ぬ、てぇてぇ……てぇてぇ)

 

「さぁ、踊ろう」

 

 ハッとし、ユウヴィーはコンマ数秒遅れてアラインと共に踊る。

 

 ユウヴィーは、田舎貴族とは思えない気品さ溢れる動きから、会場内にいる王族や貴族は目を奪われていた。もとより、凶悪な魔物に対して紙一重で避ける訓練をしたりしているので運動神経はいいユウヴィーだった。

 成績が優秀であり、田舎貴族というだけでバカにしていた王族や貴族などは、光の魔法を使えるというだけと思っていたが考えを改めさせられるのだった。過大評価されており噂は噂だと思っていた王族や貴族もいたが、仕草や堂々としたダンスに考えを改めなおしていた。

 

 すると少しユウヴィーの動きが鈍ったように見えたのだった。

 

(影の魔法でやっぱり邪魔してきたわね)

 

 ユウヴィーは魔物で復習し、たとえ、ダンス中に攻撃されても躱し、いなせるように、と訓練していた。たとえ、何かあっても力でどうにかするという強い意思があった。

 ダンスの最中にエリーレイドからの嫌がらせを受けていたが、影の魔法を引きちぎる程の脚力を持っているため、少しぎこちないくらいでわかる人はわかるくらいの差だった。

 

「大丈夫かい?」

「あ、はい。大丈夫でひ」

 とはいえ、密着状態で踊っているユウヴィーは推しに恥をかかせないように必死だった。そして、話しかけられ噛んでしまうのも、顔が近すぎるため、高解像度の推しの顔に心の整理がうまくついていなかったのだった。

 

(やはりアレをするしかないッ)

 

 ユウヴィーは外見上平静を保ちつつ、嫌がらせに脚力で対処している中、光の魔法によるイルミネーションを発動させた。

 

 ダンスの披露中に光の魔法を使って、演出を見せることで大喝采が会場に包まれた。

 

 光の魔法を発動させる事によって、エリーレイドの影の魔法の嫌がらせも打ち消されてしまっていた。ユウヴィーはそのことに気づかず、エリーレイドが諦めたものだと思ったのだった。会場内には、色鮮やかな光の粒子が花と花びら、そして妖精が舞うように描かれ、ユウヴィーとアラインの周りに連動するように見せた。

 

「すごいな、これはユウヴィーが?」

「ひゃいッ」

 いきなり話しかけられ噛んでしまうユウヴィーだが、光りの魔法の制御は揺らがずだった。貴族教育の賜物だった。

 

 曲が終わり、最初のダンスは終わった。

 

 優雅にアラインと同調した一礼は、誰も即興に割り込まれたものだと思わなかったのだった。

 そのあとにユウヴィーは諸外国の王族や貴族に引っ張りだこになるが、サンウォーカー国の王太子のアラインと共に対応し、それは田舎貴族とは思えない落ち着きとやり取りがあった。ユウヴィーはエリーレイドから日ごろから光の魔法を使うものとしての意識をクドクドと言われていた為、自覚が高く、社畜精神から事前予習はばっちりだったのだった。

 

 エリーレイドは影の魔法で足をつまずかせようとも、ユウヴィーが光の魔法でイルミネーションを展開していた事で事前に阻止している状況を作っていた。エリーレイドはなぜ影の魔法がうまく発動されないのかわからず内心混乱していた。

 

 ユウヴィーはちゃんと舞踏会に参加し、特段好感度も攻略対象者と上がっていないだろうと思ったのだった。

 

(計画通りィィィ!)

 

 その心の叫びは、ユウヴィーの勝利の雄たけびだった。


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