23 まるで妖精のように、軽やかで、鮮やかに
ユウヴィーは対魔物区画と研究区画を授業の後に行くのが日課となっていた。彼女が光の魔法でもたらす瘴気の浄化は過去に例を見ない結果を残していた。彼女はことの重要性をわかっておらず、舞踏会に向けて訓練し、そのついでに瘴気対策を学んでいるだけだった。
数日で彼女の体のキレはすでに取り戻され、対魔物区画に居た瘴気に汚染された魔物も数が減り、学園長からストップが入ったのだった。
「ユウヴィー・ディフォルトエマノン嬢、君の活躍……大活躍は聞いている。まさに悲鳴のように、だ。そこで大変申し訳ないのだが、このままだと瘴気に汚染された魔物を扱う授業に影響が出てきてしまうので、許可した手前であれなんだが……一時的に対魔物区画へ行くのを停止してくれ」
ユウヴィーは、当初の目的を達せられたのもあり、頷き学園長室をあとにした。
ドアを閉める際に学園長がほっと溜息をついたような気がしたが、ユウヴィーは聞き間違いだろうと思ったのだった。ベヒーモス種と単体で調教するような者はこの世界には未だかつて存在しない、そのためキレたら危険人物と学園長には思われていた。
ユウヴィーはもちろんそんな事をするような人物ではないが、対魔物区画に通っていた時に常駐してる騎士たちからの報告からどんな顔を引きつらせたのだった。
(適度な運動もできたし、本当は捌いて食べれればよかったのだけども、研究区画の人たちからダメって言われたのが残念だったなー)
彼女は自身が起こした功績よりも食い気が勝っていたのだった。
学園関係者、講師、騎士、研究員からの評価がどうなっているのか気にも留めないユウヴィーは舞踏会当日を迎えるまで授業の後に図書館に籠る生活に戻り、瘴気に対して学んでいた。
+
舞踏会当日、学園内にある貴賓館が立ち並ぶ場所にユウヴィーは来ていた。諸外国の要人たち、王族、爵位が高い貴族たちが歩いていた。その中でユウヴィーも舞踏会が行われる屋敷へ歩いていた。普段の学園で学ぶ際に着る指定された服ではなく、国より特別に仕立て上げられたドレスを着用していた。
ハープと一緒に行動するつもりだったが、爵位が違うのと付き合いがあって断られたのだった。
一人心細い、と思うユウヴィーではあったものの、これから起きる出来事についての対策はしてきたので前向きに考えていた。
(一緒に行動できなかったのは残念だけど、巻き込んでしまうような事にならないからよかったと考えるべきね。ふふ、ちゃんと舞踏会に参加するわよ。エリーレイドの思い通りにはなってたまるものかー!)
意気込みを心に秘め、表情はいつもの貴族教育で叩き込まれた顔をし、舞踏会が催される屋敷に入場するのであった。
煌びやかなインテリアに彩られた宮殿のような大きな屋敷、中に入るとエリーレイドが来賓者に挨拶をし、案内をしていた。ユウヴィーは、エリーレイドと目が合うと互いにお辞儀をした。
「ユウヴィー・ディフォルトエマノン嬢、お待ちしていました。わたくしが案内するようにと、国より言伝されてますの、よろしくお願いします」
「これは大変、名誉でございます。よろしくお願いいたします」
あたりは、あれが例の特待生、サンウォーカー国の聖女、フリーザンネック王国を救った救世主、などユウヴィーに聞こえるような話し声が、絢爛豪華なドレスに気品さ溢れる紳士淑女たちから聞こえてきていた。
「会場はこちらの中央階段を上り、三階のフロアとなっています。ディフォルトエマノン嬢、案内しますわ」
中央の階段は長く、さらに左右に広い。急ではないものの転げ落ちた場合はただではすまない。そのため、階段の中央はがらりと空いており、左右の豪華な手すりをつたいながら登っていくのが基本であった。だが、エリーレイドは中央を歩き、登っていった。
案内すると言われ、左右の手すりがある方へ上るのは非常に恰好がつかなく、来賓した人たちにサンウォーカー国としての貴族内の関係性を疑われる。階段の中央を歩くことでサンウォーカー国の威信を示すと共に、噂になっているのは誰かと明確にする政治的な意図だった。
(やはり、どうしても階段で転ばせたいらしいわね)
ユウヴィーはエリーレイドの後に続き、階段を歩いていった。
急がず、慌てず、つかず、離れず、優雅に三階に到着した所で、場違いな声が聞こえた。
「あ~ら、ごめんあそばせぇーいッ!」
わざとらしくこのユウヴィーにぶつかり、階段から転げ落とそうと画策しているのは、エリーレイドだった。ここまであからさまなのは割となりふり構っていられないからだった。対魔物区画での彼女の身体能力はエリーレイドにとって、ちょっとやそっとの物理的な接触では、絶対に転げ落ちるなんてことは不可能だと考えていた。
さらにドレスでは足元が他人から見えないので、彼女は影の魔法を展開し、階段そのものにジャンプ台のようなバネを仕込み、ぶつかったと同時にユウヴィーを転げ落とす作戦だった。
「ああんッ……ドロゥ! トロワッ!」
しかし、ユウヴィーは華麗なステップで階段を下り、回転しながら、ふわりとスカートを翻し、見事な着地をしたのであった。着地した時だろうとお辞儀も忘れていない。
彼女はダンプカークラスで接触事故が起きても対処できるようになっていた。これはエリーレイドにとって誤算だったのだ。
(うそでしょ!?)
驚愕な表情を浮かべていたエリーレイドを見て、ユウヴィーは心の中でニヤリと笑った。
(馬鹿め!! お見通しだ!!)
舞踏会への参加を阻止することで、アライン殿下がユウヴィーを介抱して、フラグが建ち、親密度やその後のイベント、スチル絵回収など、展開していくはずだった。
舞踏会に参加しなかった事で印象に残るという大事なイベントだったが、難なく回避したユウヴィーだった。
なにごとも無かったかのようにユウヴィーは再度、階段を歩き、エリーレイドの元へ到着した。その間のシーンとした場の空気は、それが「演出」だったと周りは認識していた。
「あのベヒーモス種さえも手懐けたというのは噂ではないな」
「今代の光の魔法を扱う者が聖女と呼ばれるのは納得がいった」
など高評価な言葉が飛び交っていた。
エリーレイドと共に会場に入る。
「わたくしはご挨拶があるので、また後ほどにッ」
ユウヴィーはお辞儀をし、嫌味を伝えた。
「ご丁寧に、ご案内してくださりありがとうございました。無事、舞踏会場にはせ参じる事ができました」
ギリィという歯ぎしりが聞こえ、ユウヴィーは勝ったと思ったのだった。
会場内を歩いていると一時帰国していたフリーザンネック王国の王太子であるフォーラズとそのツンな婚約者と出会ったのだった。
「あぁん、久しぶりじゃねぇか」
「ふんっ、別に顔も見たくなかったわ。どうせ瘴気の事で頭がいっぱいだったんでしょ」
「お久しぶりです、お元気そうで何よりです」
ユウヴィーは目の前の二人を見て、胸やけがしてきたのだった。
「手紙くらいよこしなさいよ」
ツンな婚約者がユウヴィーに向かって構ってと言うのだった。
「オレ様の前で誰であろうと構おうとするな(顎クイッ」
(くっそ! シュガー嘔吐!)
ユウヴィーは目の前で起きるイチャイチャに心にダメージを負っていたのだった。
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