04 前向きに

 食べ物のことを考えているとハープが荷物の整理が途中だったことを思い出し、スナギモとの戯れを推し見ながら荷物整理に戻っていった。

 ユウヴィーは整理が終わった荷物の中から、紙を取り出し、前世の記憶のことを可能な限り書き綴る事にした。

 

(攻略対象者は……確か、自国の王太子と……)

 

 推し以外の攻略対象者については、思い出せないでいた。

 

(よぉし、深呼吸だ。乙女ゲーの攻略対象者は基本的な属性とか傾向は同じはずだ。年上、年下、幼馴染、眼鏡、オレ様、天真爛漫、真面目、無邪気、ドS、チャラ男、筋肉、勇者、魔王、金持ち、優等生とこのあたりの属性をかけ合わせた感じのはずだ)

 

 それらを紙に綴り、どれかでも該当する人が攻略対象者のはずだと彼女は思ったのだった。

 

(あとは、入学前に学んだ各国と自国の情勢から、同じ学園に入学もしくは在学中の人と当てはめれば、攻略対象者が誰かわかるだろうけど……)

 

 ユウヴィーは荷物の中から入学する前に詰め込み貴族教育で学んだ事をメモした紙を出し、見直したがわかるわけも思い出すわけもなかった。ただ、各国が抱える瘴気問題と自国の瘴気問題などがわかるくらいだった。どんな相手だろうと死因は世界を救うために、愛した相手と心中するという流れなのだ。

 

(真面目に瘴気対策していけばきっと死ぬ事はない、気がしてきた)

 

 ユウヴィーは瘴気問題を解決すれば、たとえ結ばれても死亡フラグを覆せるのではないか、と前向きに思ったのだった。

 

(学生の本分は学業だ。恋にうつつ抜かす前に地に足を付けてがんばれば、死ぬこともない。まずは光の魔法が使える身として、瘴気に対して効果的な対策があるか調べて、発表していけばなんとかなるだろう)

 

 その前向きさは、彼女が今まで自分の領地で瘴気に対して光の魔法を使い、浄化してどうにかなってきたという経験から言える自信の現れであった。

 一度瘴気に汚染された動物は魔物として凶悪になり、人を襲う。襲われて傷を負った場合、瘴気に汚染された人はもがき苦しみ死ぬ事が多々ある。しかし、ユウヴィーの領地では彼女の光の魔法を使ってお手軽に浄化していたことから、彼女は瘴気に対して知識が浅かったのだった。いや、勘違いしていたのだった。

 瘴気に汚染された動物、または魔物化したものを浄化して、捌いて食していた環境は自国でも他国でもあり得ないのだ。彼女はその日の夜の食卓に肉を食べたいという思いでそれを成してきたのだ。感覚がすでに幼少からズレていた。

 

(そういえばお腹空いたな……たしか食堂があったよね)

 

 田舎の領地での娯楽は食べる、狩る、開拓するの三つくらいしかなく、彼女はその中でたくましく育っていた。それは彼女の前世がエブリデイカロリーメイトとエナジードリンク生活といういつか絶対に身体壊すぞという生活習慣から「健康な生活を歩みたい」と願った事から生じた無意識の行動だった。

 

(学園の食堂、おいしいといいなぁ)

 

 前世のことを思い出そうという思いは食欲によって失せられつつあった。貧乏子爵家だったことから、食に対してひもじい日もあり、一定の年齢になった時に親に連れられて猟をさせられ、その日の夕飯をとってくる重要さを学んでいた。そこで失敗した日などはご飯が貧しくなることから、自信の技術力を向上させることが食卓が豪華になると直結され、自分自身を鍛える事に対して貪欲になったのだった。

 

(近くに森もあるし、猟って可能なのかな……)

 

 貧乏ではない貴族は猟には出ないということを知らずに育ち、つい最近になってやっと学園に入る前に学んで驚愕したのだった。食堂というのもあり、無料で食べることが出来るという事にも驚愕していた。その時の彼女は「えっ!? 狩りで獲ってこなくても食べれるの!?」といい、教育係の人が頭を抱えたのだった。

 

(いや、確か普通の貴族はそんな気軽に猟をしないんだった……)

 

 はぁ、とため息をつき目線を下げるとさっきまで書いていた紙が目に入り、前世の事を思い出して書き綴ろうとしていた事を思い出すのだった。

 

(やば、そうだった……いっその事、あの悪役令嬢の人に聞いてみるか、と思ったけれど――あ、思い出した)

 

 彼女は思い出したのだ。

 

(確か、攻略対象者と無事にくっついた場合、悪役令嬢はどのエンディングでもしぶとく生き、大変な目に合うんだった。平和になった後の世界で大変な目にあって生涯を過ごすという……)

 

 そこでユウヴィーは入学式で女性生徒代表挨拶の時に彼女が私を見て勝ち誇った顔をした意味をようやくちゃんと理解したのだ。

 

(あ、あの悪役令嬢はちゃんと悪役令嬢として私を攻略対象者とくっつける気だ……)

 

 頭を抱え、どうするかまた悩むユウヴィーだった。答えが出るわけでもなく、相手は爵位が上なので下手したら不敬罪で処される。つまりうまくいじめられなければいけない、いじめられるとどうなるか、攻略対象者と仲良くなってしまう、というよくわからない方程式が彼女の中で形成されていた。

 

(乙女ゲーの法則発動じゃない!)

 

「ふー、荷物整理はなんとか終わった。もうそろそろ教室でオリエンテーションじゃない?」

 

 ハープから声を掛けられ、悩める思考は中断し、ユウヴィーとハープは教室へ向かうのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る