03 小さい頃の私は……
ゲーム本編では、ヒロインであるユウヴィーの過去はあまり語られていなかった。田舎育ちで領地でほそぼそと暮らしている中で、突然目覚めた光の魔法の資質から、特待生としてこの学園に編入する。目覚めたきっかけは聖鳥との出会いがあって……ってくらいの薄さである。これはプレイヤーがヒロインである主人公に没入できるように、という設定のため詳細がないのだ。王家の血筋で隠し子的なものもなく、ただの田舎貴族で光の魔法が使えるようになった令嬢である。
ユウヴィーはまず自分の過去を整理することからはじめた。この世界に転生してからの過去の事である。
(私は転生者であること、転生前は過労死したこと、田舎で貧乏貴族だったけれど、規則正しく幸せだった事。使い魔のスナギモは、光の魔法で浄化した犬であり、私のかわいいペットであるということ―)
同室のハープとの自己紹介の後で、荷物整理をてきぱきとこなしながら頭の中で整理していた。もともと荷物が少ない事もあって、すぐに終わった。
(そういえばライバルというか悪役令嬢ポジションの人の使い魔は黒豹だったのに、デブ猫だった。もしかして、いいもの食べさせていたから太っていたのかな?)
ユウヴィーは自分の使い魔のスナギモを見た。
「あ、そういえばその使い魔名前ってあるの?」
ハープから話しかけられ、ユウヴィーはスナギモと答えた。一瞬、ハープは怪訝な顔をするもののどういう意味かわかっておらず、スナギモと口に出し使い魔の犬をジーッと見ていた。
「触ってみますか? ふかふかモフモフして気持ちいいですよ」
「えっ、本当に!?」
ハープはスナギモを撫でまわしていた。当のスナギモは気持ちよさそうにしているので、心配ないだろうとユウヴィーは思ったのであった。
ユウヴィーは、この学園に来た、というのよりも「来させられた」というのが大きいことを思い出す。国からの命令だったため断れなかったのだ。
この世界では各国の瘴気対策に向けての取り組みは、平和のためだ。瘴気という共通の敵があることで一致団結気味になっているが、脆くも崩れ去ろうとしているのが今の局面のため、いかに自国に瘴気対策に力を入れているのかをアピールしてるか、互いにけん制している時代である。
他国と戦争すると瘴気対策の技術が失われ、他国からの瘴気対策の情報が遮断されるよ? というのが学園の裏の顔である。もちろん、ある程度爵位や外交、貿易など行っている貴族は当たり前のように知っている。
要人を奪えばいいみたいな発想をしてる国もあるが各国から騎士団が派遣されていたり、爵位が高い貴族が監査役として各国から常駐している事もあって今までそういった事は起きていない。
(そんな学園に入学が決まってから、怒涛の詰め込み貴族教育を受けてきたけれど、退学したい。でも退学するにも国からの勅命に泥を塗るような事になるから処刑される可能性があるような……いやそもそも退学は絶対に許され無さそうだ)
頭を抱えたい気持ちを我慢し、スナギモとハープのモフモフを微笑を浮かべながら眺めていた。
(このロマフロのことを思い出そうにも、攻略対象者のことを思い出せない。うろ覚えレベルだ……前世の事を思い出したけれど、細かい所なんて十ン年前の事だし、誰とくっついても死ぬくらいしか覚えてない。いやどれも感動的で、愛はまさに世界を救う素晴らしい話だったけれども――)
ハープはモフモフしている中でスナギモに話しかけていた。言葉は通じるが、スナギモは言葉を喋るわけでもないのでワフワフいいながら返事をしていた。
(このスナギモとの出会いも、領地内で魔物と化した狼の群れを討伐する事になって、その時に光の魔法が覚醒して、なんとかなったんだ。瘴気に侵されて魔物化した狼の群れを結果的にうまく浄化したり、討伐できた中でひときわ体力があったのがこの子だったんだよね)
スナギモがお腹を見せてわしゃわしゃとされながら、恍惚な表情を浮かべていた。子犬のような見た目だ。
(大型トラックのような大きさの狼だったのよねぇ、浄化すると使い魔になりたそうにくぅんくぅ~んって鳴いてたから、親に飼ってもいいか聞いたっけ)
ユウヴィーは幼少の頃から、狩りをし、晩御飯の肉などをとってきていた。その際に害獣となる獣なども狩る技術を養っていた。狼というのが狩りに大きく役立つことを彼女は幼少の頃から親から学んでおり、いつか自分も欲しいと思っていたのだった。
(でも、使い魔契約をしたら子犬になるんだもんなぁ……一応狩りには役には立っていたけれども)
ユウヴィーは覚えていなかった。使い魔にした場合、大きいままだと餌代が大変だから殺せと親に言われ、その時に「それじゃしょうがないね」と言ったことにより、子犬化したのだった。親は一瞬驚いたが、ユウヴィーは「あ、小さくなったから大丈夫だ!」と叫び、使い魔契約が結ばれてしまったのだった。
その一連の出来事を忘れているユウヴィーはこの子犬が特別な狼だということを微塵に考えもしていなかった。もちろん、親もそういった知識に疎いため、「使い魔と契約すると小さくなるのか」という認識だった。
(まあ、とにもかくにも本当だったら聖鳥と使い魔契約していたはずだけどね。まあ、いっか!)
食べてしまった聖鳥の事は仕方ないと割り切るユウヴィーだった。そして可能ならまた美味しい鶏肉を食べたいと思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます