余命1時間のたわし

ガムちー

余命1時間のたわし

今日もいつもどうりの朝が始まると思っていた

いつもどうりあの子が起きてきて僕を使って

昨日残したものを洗う、

そんな日常が始まるはずだった

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ふぁ...ねむい....洗い物、やらなきゃ...」

寝室の方から眠そうな声がうっすらと聞こえてくる

(お、やっと起きた、ようやく俺を使うのか)

「あ、そういえば...今日スポンジ買うんだった」

(やっぱおれを...え?......今...スポンジって?..)

そんなことを言いながらパジャマ姿のあの子が

とぼとぼと歩いてくる、

一瞬たわしの方へ振り向きたわしに話しかける

「あ、たわし君おはよ」

(おはよって...どういうことだよ......)

「ねー、今日さスポンジを買おうと思うんだよ」

たわしは返事をせずじっと一点を見つめてる

2人に微妙な沈黙が流れる

「聞いてる?聞いてるなら返事してー」

朝ごはんのパンを焼きながら語りかけてくる

(........)

「いくよ?準備して」

洗い物をしようとたわしを持ち上げ汚れたお皿に

その体を擦り付ける、だが汚れは落ちない

「ねぇ、拗ねてるの?スポンジを買うから?」

(............)

再び沈黙が流れる

チンっ!沈黙を断ち切るようにパンが焼きあがった

音がする、あの子は若干ビックリしつつ

朝食の準備を進める

「拗ねないでよスポンジ買うだけだよ?」

(拗ねないでって...裏切ったのはそっちだろ....)

そんなことを思っていたらあの子が朝食を

食べ終わった、

あの子はお出かけの準備を始める

「ねぇ、何か言ってよ」

「なにさ...俺はもう使わないんだろ...?」

「そんなことないよ」

この短時間で3回目の沈黙だ

(なんでこんなに話しかけてくるんだよ...)

あの子の準備が終わった

「行ってくるね」

たわしは返事をせずチラッとあの子のことを

視界に入れる、たわしの惚れていたあの子だ

何も変わらないいつもと同じあの子だ

ガチャっとドアを開ける音と閉める音が流れ、

家には4回目の沈黙が流れる

時計の音、シンクに垂れる水滴の音

普段は気にならないものが妙に頭に残る

「どういうつもりだよ...好きだったのに...」

そんな独り言は誰にも聞かれることは無かった

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「店員さん、なにかおすすめのスポンジってありませんか?なにせ、初めてなもので」

くすくすと笑いながら店員さんに尋ねる

「いえいえ、スポンジは高価なものが多いのでたわしを使ってる人は少なくないんですよ」

「そうだったんですか...」

「そうなんです、それでおすすめのスポンジはそうですね、こちらのスポンジは掴みやすいように設計されていますので洗い物の途中で落ちたりしませんよ」

そういって店員さんはひょうたん型のスポンジを

指さす、値段は約3000円

買えない値段では無いがやはり贅沢な買い物になる

「げ、3000...高いですね...」

店員さんはニコニコしている

「そうですね...じゃあ..これで....」

結局200円くらいのくらげ型スポンジを

買うことにした

「お買い上げありがとうございます!」

あの子はスポンジを手に取りつつ

家にいるたわしのことを考えていた

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ガチャっと音を立てて玄関を開ける

「...おかえり」

「ん、ただいま」

「スポンジ買ったんか?...」

「買ったよほら」

「( ¯꒳¯ )ドモドモ」

そう言ってくらげ型のスポンジが喋り出す

「なぁ、スポンジを買ったからって俺の事捨てないよな...?...」

「もちろん」

(よかっ....た....)

ガツンとたわしと床がぶつかる音が響く

「たわしっ!たわ...どう....ぶ!?」

(何か言ってるな....聞こえないや.....)

そんなことを考えていると視界が暗くなってゆく

たわしはそのまま眠った

次に目が覚めたのはしらないベッドだった

ベッドの周りはカーテンで囲まれている

シャッと音を立ててカーテンを開けると

そこにはあの子と医者がいた、

「あ、起きましたか、ちょうど良かった」

「なんですか...?」

あの子は俯いている、涙ぐんでるようにも見える

「君はねカビが生えちゃってるよ」

(え?)

たわしはカビが生えると駆除されてしまう

なぜならたわしに生えるカビは人間に対して

絶大なダメージを与えることになるからだ

そして未だにカビを治す方法は無いのだ

「え?」

「あと1時間でさっき書いた住所に駆除隊の方が

着くらしいですから今から家に帰ってください」

そこから、どう家に帰ったかたわしは覚えていない

ーーーーーーーーー12時42分ーーーーーーーーーー

ただのたわしは余命1時間のたわしになった

家に着いてたわしを置いてあの子は散歩へ

行ってしまった、

「先輩、どうしたんですか?そんな顔して」

スポンジが話しかけてくる

「カビ...」

ただ一言で返事をする

「え、まさか、」

「そのまさかだよ...」

「あと何時間ですか?!」

「うるさいな...あと1時間だよ」

「主人は?!」

「しらん...」

スポンジが大声で騒いでいる

「先輩、主人のこと好きなんでしょ?」

スポンジが急に落ち着いた

情緒の激しさで風邪を引きそうだ

「なんで知ってんだよ...」

「顔みたら分かりますよ」

初めて会った時に既に気いていたようだ

「会いにいかないんすか?」

「場所分からんし...」

「言い訳しないでください、喧嘩でもしたんすか」

「してない、」

「じゃあ行きましょう今すぐgo!!」

「え、あ、」

ガッと家の外に蹴り出された1時間以内に見つけなくては、カビの生えたたわしを逃がすのは犯罪だ

この場合たわしが勝手に逃げても主人が罰せられる

「あの子を犯罪者にはしたくないからな」

(何処にいる)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

50分掛けたが結局見つからなかった

たわしはとぼとぼと家に向かって歩く

「見つかりませんでしたか」

「おう..」

本日5回目の沈黙が家に流れる

ガチャっと音を立てあの子が入ってきた

「たわし、寂しいね」

「おう、」

「洗い物してなかったね」

「おう、」

「しよっか」

「...おう、」

スポンジは空気を察して既にどこかへ行ってしまった、

「たわし、私の事好きでしょ」

「なんで分かるんだ...」

「わかるよ〜、ずっと一緒にいたじゃん」

「そうだけど」

「私も好きだよ」

(え、えっえっえ)

「あはは、顔真っ赤だよ?」

「たわしに顔は無い...」

「雰囲気じゃん?」

そういうあの子の顔には一筋の涙が垂れていた

そんなことを話しているとチャイムがなる

「来たか...」

ガチャっ

「駆除隊の者です」

「おれがたわしだ」

駆除隊の人があの子を見てから

俺を見る

「たわし、居ませんね探してきます、」

そう言ってどこかへ行ってしまった

「洗い物...、しよ...っか」

2人とも号泣だ

洗い物をした2人で笑いながら泣きながら

12年分の思い出話をした、

1時50分たわしはもう居ない


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余命1時間のたわし ガムちー @Akumachi

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