54.ライバル

「だって、奈菜の話だと、あの花沢楓も高田翔を狙っているんでしょう? 二人で仲良く歩いてるところ、私も見たことあるし」


「そうだった! 楓ちゃん、高田君の事、諦めないって言ってた!」


再び腕を組んで真理を見る梨沙子の横で、奈菜は大変な事を思い出してしまったと言わんばかりに、両頬に手を当てた。

真理は、そんな二人をぼんやりと見ると、


「あはは・・・、花沢さん・・・。そう、結局、どっちみち、花沢さんがライバルだった・・・」


力なく笑い、ガックリと肩を落とした。


「違うでしょ? 花沢楓でしょ? それどころか、高田翔って好きな人がいるんじゃなかった? 振られたんでしょ? 花沢楓って。ねえ? 奈菜?」


「そうだった! 好きな人がいるってフラれたのに、諦めないって言ったんだった!」


奈菜と梨沙子は顔を見合わせ、チラリと真理を見た。


「花沢楓どころじゃないんじゃない? むしろ、その『好きな人』の方が強敵じゃないの?」


梨沙子は眉を潜めて怪訝そうに、奈菜は気の毒そうに真理を見つめた。


「・・・いや・・・、花沢さんよ・・・」


真理はだらしなく顎をテーブルに乗せると、不貞腐れたように呟いた。


「何で言い切れるのよ?」


梨沙子はそんなだらしない態度を諫めるように、真理のつむじを人差し指でギューッと押した。

真理はムッと梨沙子を睨むと、頭を摩りながら起き上がり、座り直した。


「だって~、叶わない相手だもん。高田君も諦めてるわよ」


「なに? 知ってるの!?」

「え? うそ? 誰誰?」


(し、しまった!)


慌てて口元を両手で押さえたが、もう遅い。

二人は爛々とした目で真理を見ている。


「えっと・・・、都ちゃんだから・・・。その、高田君が好きな子って・・・」


真理は観念したように小さく呟いた。


「え!? 都って、神津都?」

「都ちゃんって、真理ちゃんのお友達の?! あのめっちゃ可愛い子?!」


目を丸める二人に、真理は黙った頷き、そのまま俯いた。


「はーっ、さっすが王子様ね。好きになるタイプもレベル高っ!」

「そっかぁ~、あの子かぁ~。楓ちゃんでも敵わないわけね~」


妙に感心している二人に、真理は何となく不愉快になり、


「でも、都ちゃんには津田君がいるし!」


顔を上げると口調を強めて二人を見た。


「そうなのよね~。ホント、うちの高校一番の七不思議よね! あのカップル!」

「うんうん! 私もそう思う! だって、全然似合ってないもん!」

「相手は特進科で頭がいいかもしれないけど、ちょっとね~。あの神津都とは合わないわ~」

「うんうん! 高田君の方が断然お似合い!」


「ちょっと! 津田君って良い人よ!」


真理は思わず声を荒げた。

だが、二人は気にも留めない。


「知らないわよ、そんなこと。でも、まぁ、良い人だから付き合えているんでしょうね」

「うんうん! そうじゃなかったらあり得ないもんね~」


睨みつける真理に、梨沙子は肩を竦めて、


「悪く言ってるんじゃないわよ。褒めてんのよ、良い人だって。それは真理の友達も同じよ。外見で選んだんじゃないってことだもの。いい子なのね、神津都って。ねえ、奈菜?」


澄ました顔で奈菜に振った。奈菜もうんうんと頷く。


「つまり、そんないい子で可愛い子がフリーだったら、まず勝ち目は無かったわね」


「・・・う、うん」


梨沙子に諭されるように言われ、真理は急に勢いを無くし、肩を落とした。


「それにしても、好きなタイプが神津都ねぇ・・・」

「そして、ライバルが楓ちゃんかぁ・・・」


梨沙子と奈菜は同時に溜息を付いて、真理を見つめた。


「・・・何、その憐れむような目・・・」


「いや・・・、ハードル高いなって思って・・・」

「うん・・・」


「・・・分かってます・・・」


真理は再びだらしなくテーブルに顎を乗せた。


「それどころか・・・。『俺のこと好きにならないでくれよ』って言われてるんですよね、私・・・」


「はあ!?」

「ええ?!」


梨沙子も奈菜も目を見開いたまま、固まった。


「そんな私に勝算なんてあるんでしょうかね?」


そんな二人を、真理は上目遣いで見つめた。


「・・・」

「・・・」


「その沈黙は・・・?」


梨沙子はハッとしたように真理を見下ろすと、優しく頭を撫でた。


「・・・。真理。何か食べよ・・・。私と奈菜で奢ってあげる」


「うん! 甘いの食べよ! パンケーキにする? パフェにする? 遠慮しないで、真理ちゃん!」


奈菜も大慌てでメニューを取ると、デザートのページを真理の前に広げた。


「・・・」


「飲み物取ってくるわ。真理、何がいい? カフェオレ?」


「ほらほら、真理ちゃん! 何にする~? 私、期間限定のにしようかなぁ!」


「・・・勝算、無いってことですね・・・」


「・・・」

「・・・」


真理はゆっくり顔を上げると、メニューに目を落とした。


「これとこれ・・・」


季節限定のデザートを二つ指差した。

そしてもう一度力なくテーブルに顔を伏せた。

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