33.ジェンガ

ドンと置かれたジェンガを前に、高田はトランプを切る手が止まった。


「ジェンガ!」


真理はドヤ顔で高田を見た。


「こっちの方が勝負っぽいでしょう?」


両手を腰に当て、フフンと得意気に高田を見下ろしている。

高田は呆れたように真理を見上げたが、フッと溜息を付くと、


「ま、確かに、ババ抜きよりジェンガの方が緊張感はあるかもね。そう言う意味で勝負っぽいか」


そう言って、トランプを箱に戻した。


「いいよ、じゃあ、ジェンガで勝負しよう」


「よぉーし!」


真理はグイっと腕まくりをすると、ジェンガを箱から出し、ローテーブルにセットした。


リビングのローテーブルの上にそびえ立つ細長い塔。

木目が美しい木のブロックが隙間なく積み重ねられている。

まだ指一本触れていない状態のジェンガタワーはしっかりと安定感がある。


これが徐々に崩れていくのだ。


「中井さんからどうぞ」


ジャンケンもせずに先攻を譲るとは!

ここでも余裕な高田にイラっとくる。


(フン、この余裕もすぐ無くなるんだから!)


もちろん、それは自分にも当てはまる。

タワーが穴だらけになり、上に伸びれば伸びるほど、誰しも余裕は無くなるはずだ。

それは高田も然り。


「では、行きまーす!」


真理は早速、タワーからそーっと一本ブロックを引き抜いた。





「ああああ~!!」


真理の悲鳴と共に、ガラガラっとジェンガの塔が崩れ落ちた。

散らばったブロックの残骸の上に、真理は突っ伏した。


「はい、これで決まり。中井さんの負けね」


「く~~~!」


涼し気な高田の顔を、真理は顔をローテーブルに付けたまま、悔しそうに見上げた。


「もういいだろ? 一回のつもりだったのに、二回もやったんだから」


そうだ。

一回目をあっさりと負けた真理は、三本勝負と食い下がり、もう一度相手をしてもらったのだ。


「三本勝負で二回負けたら、もう終わりだろ?」


「・・・はい」


「ということで、洗い物はよろしく」


「うう、もう一回・・・」


「・・・」


「嘘です・・・。洗います・・・」


真理はだらしなく立ち上がると、すごすごとダイニングテーブルに向かった。


テーブルの食器をすべて片付け、流し台に持って行く。

その間も、悔しさが拭えない。


(くそ~、惜しかったのに~。さっきの一本が耐えてたら、絶対に次の奴の番で崩れたはずなのに)


負けた側の人間が必ず思うことを、真理も例に漏れず、思い返しながら洗い物をしていた。





一仕事終わって、一息付こうとリビングに戻ると、高田がまだソファに座っていた。

目の前には、ジェンガタワーがセットされている。


「しまわないの?」


真理は首を傾げながら傍に来た。


「中井さん、納得いっていないみたいだからさ」


高田は真理を見上げた。そして、


「そうだな、今度は食後のコーヒーを淹れるのを賭けようか?」


そう言うと、意地悪そうにニッと口角を上げた。

真理の顔はパッと明るくなった。


「どうする? 勝負する?」


「するっ!」


真理は勢いよく高田の向かいに座った。


「これも三本勝負ね! 私からでいい?」


「どうぞ」


「よし! 次は負けないから!」


真理は両手を擦り、上唇を舐めると、全神経をジェンガに注いだ。


一本そっと抜き取る。そして、ゆっくりと一番上に置く。

高田はスッと抜くと、サッと上に置く。

動きに無駄と迷いが無い。


「今だけだからね、そんな余裕」


真理はそんな高田を牽制するように、ジトっと睨みつけた。


「さあ? 俺の余裕が崩れるより前に、中井さんがタワーを崩すんじゃない?」


「きーっ!」


さっきの食器の洗い物を賭けた勝負よりも、ずっと空気が柔らかい。

お互い憎まれ口を叩いているのに、目と口元は笑っていた。

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