苦手な人の許嫁になってしまいました・・・。

夢呼

1.両親からの衝撃な告白

真理は今日もご機嫌に帰宅した。

長い夏休みも終わり、やっと学校で片思いの彼とおしゃべりができたからだ。


「久しぶりに会えた~。相変わらず、優しいなあ。川田君は」


実際は廊下ですれ違った時に挨拶しただけ。

でも、真理にとってはその一言だけでも貴重な『おしゃべり』なのだ。


真理が通う学校は、特進科と普通科がある。

普通科に在籍し、その名に恥じないほど普通な真理と違い、想い人の彼はエリート。

真理が密かに恋している川田遼は特進科に在籍している男子生徒だった。


特進科と普通科は棟が分かれている。

そんな違う科の生徒同士が、休み時間に普通に廊下ですれ違うなんてことは、まず無い。

すれ違うべくしてすれ違う・・・それ以外は。


実は、特進科寄りある職員室に何かと用事を作って通い、廊下で特進科から出てくる生徒を出待ちしていたのだ。

運良く川田を見かけると、さりげなく近づいて、挨拶をする。

ほんの一言二言の会話だが、未だ片思い中の真理には、これが精一杯だった。


そして、今日もそのミッションを成功させ、ルンタッタと家路を急いでいた。


「ただいま~!」


玄関に入ると、母親が出迎えた。


「お帰りなさい、真理。ちょっと、話があるの。パパから」


「え? パパ、もう帰ってるの?」


いつも帰りが遅い父が、こんなにも早い時間に家に居ること自体、とても稀だ。

さらに話があるって何だろう?


首を傾げながら母親について行くと、居間で父が少し緊張気味にソファーに座っていた。


「お、お帰り、真理」


「ただいま、パパ。何? 話って?」


「話? あー、えっと、そうそう、ママから話があるって!」


「え?」


真理はキョトンとした顔で父を見た。


「何言ってるの! パパから話があるんでしょう!」


母親はピシャリと言うと、父親の隣に腰掛けた。


「さあさ、パパ。真理に話して。真理も、早く座って」


母親は何か嬉しそうだ。

真理は首を傾げながらも、ソファーにカバンを置いて、自分もその隣に腰掛けた。


「えっと、えーっとね、真理・・・。実は・・・、その・・・」


「・・・何? パパ」


歯切れ悪い父親に真理は少し苛立った。

父親はチラリと母親を見る。どうにも自分からは話し辛いらしい。

真理も釣られて母親を見たが、母親は嬉しそうにニコニコしているだけだ。

父は覚悟を決めたように小さく溜息を付いた。


「真理、実はね、お前に縁談があるんだ」


「はい?」


「まー、その、パパの知り合いの人の息子さんなんだけどね・・・」


父親は首を摩りながら、申し訳なさそうに真理を見た。


「えー、まぁ、実は今上がった縁談ってわけじゃなくて、昔から約束していた、その、つまり許嫁ってやつ?」


「は?」


「そうそう! 許嫁ってやつよ、真理!」


母親が二人の間に割って入った。


「あなたには許嫁がいたのよ、黙っててごめんなさいね!」


母親は乙女のように目をキラキラさせて、興奮している。


「でも、素敵でしょう? 許嫁って!」


二人の話にまったく付いていけず、ポカンとしている真理に、母親は合わせた両手を頬に沿わせた。


「しかもね、そのお相手の男の子、真理と同じ年の同じ高校の子よ。しかも特進科コース」


「え・・・?」


真理は瞬きした。

今、何て言った? 

同じ年? 同じ学校? 特進科?


真理の心臓は静かに早打ちし始めた。


「と、特進科・・・?」


「そう! エリートじゃない?! 特進科なんて!」


「だ、誰!?」


真理は身を乗り出した。

もしかして? もしかする?


父親は真理の乗り気の態度に驚いた。

てっきり大反対をして大騒ぎすると思っていたのだ。


「え? 気になるのか? いいのか?」


「誰? とにかく、誰? パパ!」


真理はテーブルに手を付いて、ガンと父を見据えた。


(もしかして・・・!)


祈る思いで父を見た。

父はふぅと息を吐くと、ポケットから写真を取出し、テーブルの上に置いた。

そして、その写真をそっと真理の前に差し出した。


「高田翔君という子だ」

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