聖女洗脳編11 エピローグ
「萎えた」
「…………ウソつき」
「おい。つつくな」
やる気が萎えたんだよ。本当に。
「こんなにいい女を目の前にして」
「自分で言うな」
「勇者様はひどい人です」
アリアはあおむけになって目をつぶり、ベッドに寝ころんだ。恥ずかしげに頬を紅潮させ、デカい胸を寄せて上げてくる。目が、離せない。服を着ているっていうのに、なんつう重量感だ……。
ついに自ら軽く揉みだした。ワイヤーで覆われた硬質なブラではない、ほとんど布みたいな柔らかいブラをしてるのか。むにゅりと音まで聞こえてきそうだ。本当に、この聖女はドスケベだな。
鼻息がつい荒くなっていた。胸に気を取られて、いつの間にか目を開けていたアリアのにやにやとした顔にやっと気づく。さすがに恥ずかしい。頬に血が巡っている自覚がある。
血祭りにあげた魔族は近隣最強個体ではなかったが、それでもソフィアは盛大なパーティーを開いてくれた。
パーティーなんてと最初は思っていたが、楽しんでしまった。最高に楽しかった。
音楽家たちの生演奏を聴きながらの食事というものを初めて体験したが、あれは素晴らしいな。思えばこの世界の音楽をよく知らなかった。聴いたことのない民族音楽って感じ。弦楽器は元の世界に割りと似ていた。
着飾った美女たちに代わるがわるお酌されるのは、アリアやエミの目がいたくて勘弁してほしかったが。隙があればあやうく持ち帰られそうだった。当然、俺が持ち帰られる方だ。
高揚した気分のままエミを抱き、アリアの嫉妬の魔力ラインを朝まで無視しつづけたが、ついに諦めて、適当に言い訳をして部屋を抜け出した。……魔力を感知されたらバレるよな。その辺は保留だ。
いつの間にか背後に回って、背中に胸を押しつけてきたアリアの肩を掴んで引き剥がす。
「……しないんですか?」
「ああ。アリアの戦闘力が落ちたら困るんだよ、マジで。俺が死ぬ」
一転、昏い顔。別にアリアを拒絶したわけじゃないんだが。
なんかつぶやいたな。勇者の耳はよく聞こえる。どうせみんな死ぬ、そう言っていた。たしかに魔王に負ければ俺たちは死ぬし、みんな100年後にはどうせ死んでる。それでも後ろ向きすぎる。
アリアは、たまに厭世的になる。俺の前でだけだが。聖女の心の闇は深いのかもしれない。
俺たちは恋愛をしている。
殺し合いといってもいい。
惚れたら負けの、心の殺し合いだ。
油断した方が心を奪われる。洗脳される。
俺の洗脳はいまだに解けない。
だが、手応えは悪くない。
アリアへの洗脳は確実に効いている。
あとはタイミングを狙って繰り返せばいいだけだ。
他に選択肢がないのも良い。お互いの唯一無二性が強調されている。いい傾向だ。
アリアの孤独は深い。当主たる父、愛する母はともに忙しい。話をする機会も限られる。電話もネットもないしな。聖女としての修行時代に親交のあった友人がいるが、こっちも物理的な距離がある。手紙さえなかなか届かない世界だ。
心の中で消えてくれない犯罪野郎の亡霊。アリアへの妄執以外は怒りで焼き尽くし、飼い慣らしている。いずれアリアの心を手に入れて、その時に、完全に消してやる。それでやっと俺の心は解放される。
それまではアリアへの怒りの火を消すことができない。やつあたりの自覚はあるが。
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聖女洗脳編 完
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次回 魔王攻略編
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