完全██編12 農村クラナフルス
悪気はなかったが、結果として馬を驚かせてしまい謝って回るハメになった。アリアの従者が。
「やっぱり俺も謝りに行こうか」
「いいんですよ」
アリアは俺のやらかしにも反応が軽く、まったく怒りも呆れも感じない。が、それでも気まずいから今は左から俺、エミ、アリアの並びにした。姉妹の間に挟まれるのも変な気分だしな。なんかいいにおいするし。
「馬は臆病ですから。私も幼い頃、馬に避けられていて馬車に乗れなかったですし」
馬車に一人だけ乗せてもらえないアリアを想像する。イジメかな? ちょっと可哀想すぎる。
「殺気出しすぎだろ」
「若かったんです」
俺でもいま普通に馬車に乗れているぞ。どれだけ殺気立ってたんだよ、幼女アリアは。
森はよく蟻が出るようだ。散発的な戦闘音が遠くから聞こえる。群れをなすモンスターは数多いが、蟻はその群れ組織がすこし軍隊的らしい。魔力差があっても果敢に挑んできやがる。俺としては訓練になるからありがたい習性だったが。
「さっき風の魔法を真似てみたんだけど、また失敗した。俺が後ろに吹っ飛んだよ」
「魔力をいきなり爆発させすぎです。魔力のラインできちんと誘導してください」
「ラインか。そこがまだ上手くいかないんだよなー…」
まるで銃を撃つように、一気に魔力を風に変換したせいか。たしかに、威力が強すぎて魔力の弾丸が砕け散り、光の粒子となって宙を舞っていた。
「それでは後ろに人がいたら大惨事ですよ。もっと練習しましょう」
「わかったよ。アリア以外を
「私も轢かないでください」
たしかに後ろが木でまだ良かったよ。アリアはそういうの効かなさそうだから大丈夫。
つまり、風の魔法は撃ってから加速させるのか。魔力のラインによる方向の誘導と加速の動力源が必要。要は、魚雷や誘導ミサイルのように射出してから加速させなければならないということだ。意外とむずかしいな。
「そうだ。さっき流星剣に魔力を込めたら、白く光って蟻を斬れたぞ」
「マコト、すごっ」
「まあな。それで興奮して叫んじまったけど」
「本当に凄まじいですね……」
「おう。意外とやるだろ?」
口角を上げ、アリアに微笑みかけてやる。これでお前をいつでも殺せるぞ。とかは思考に浮かべない。俺はアリアに従順なんだよ。
アリアがうっとりとした目で見つめ返してくる。白い頬をほのかに赤く染めて。
あれ、効果はあったみたいだが、なんか、調子が狂うから。止めろ。
✳︎
森を抜ける。損害はまったくなかったらしい。後続の商人連中が歓喜の声を上げている。勾配は少しあるが、また平野の気楽な旅が続きそうだ。
気が抜けてうとうとしていたらしい。右手を握られてびくりと覚醒した。エミ。ピンクの唇に指を当てて静かにのサイン。
エミの視線がゆっくりとアリアへ。俺も見てみると、寝てるな。目を閉じている。今日のアリアはよく寝るよ。
エミの目が嬉しそうにきょろきょろ動いた。イタズラを思い付いた子供みたいな表情。いや、アリアはすぐ起きるよと指を差して伝える。が、諦める気がないなこいつ。なんか大胆な性格になった気がする。魔力のラインを通したのが原因か。
夜まで待て、と伝えようとしたところで唇をふさがれた。やわらかいエミのうすい唇。いつもの感触。アリアがいるのに。背筋に甘い痺れがすこし走る。止まらなくなる。
目を閉じて唇の神経に集中する。どうせもうやめられない。音は立てないように、できればもっと長い時間たのしみたかった。緩急をつけて、そっと優しく唇をついばみあう。
ガマンできずにエミが舌を入れてくる。ぬるぬるとした舌がまとう甘い唾液を味わうためにこちらからも絡める。くちゅ。音が立つたび、一度は動きを止める。そしてゆっくり舌をかきまわしだす。唾液が流しこまれた。
薄く目を開けてエミの表情を覗く。完全に情欲の火が点いていた。どこで止めればいいんだ。左手で耳を撫でる。むずがるみたいにエミが悶えた。止められない。お互い止まる理由がなかった。
すでに意識の外にいたアリアの目が薄く開いて微笑むのが視界の端にうつったのはその時だった。笑っている。寝たフリを続けてくれそうだ。アリアに感謝しながらエミの耳から首をそっと撫でた。
「ぁ、んっ」
喘ぐな。
エミは止まる気がなさそうだ。旅行は女を開放的にさせるものだがそれでも発情しすぎ。
アリアの浮かべていた笑みが深まった。寝たフリは継続してくれるらしい。俺は安心してエミの胸に触れることにした。いつもと雰囲気の違う格好のエミに俺も正直、発情している。
位置は完全に把握している。
カリカリとやさしく先端をひっかくと、びくんっ、とエミの体がふるえた。
やさしく、ゆっくり。
何度もなぞっていく。俺の口内に差し込まれたエミの舌には力が入り固くなったままだ。舌を絡めかえしてやりながら、何度でも繰り返す。また、ふるえた。まただ。
不意に右手の薬指から魔力がかすかに流れていった。昨日の夜と同じように。
目を開けると、悪戯っぽく微笑んだアリア。右手を顔の前にあげていって、薬指にキスをした。そして魔力をすこし吸われる。
──ゾクリと、背筋が甘く痺れた。
アリアは舌を伸ばして指を舐めていく。
ちゅぷっと唇に第一関節まで埋めた。
また魔力を吸う。切なそうな顔をして。
興奮で脳がどうにかなりそうだ。もう洗脳は解けているのに。
アリアの指の感触を知りたかった。魔力だけじゃなく、感触を味わいたくてたまらなかった。望んでしまった。アリアとつながりたいと。
だからだろうか。突然、自分の指が舐められる感触がした。魔力のライン。強まっている。まるで魂が結ばれたかのように。
熱い舌がにゅるりと動くたびに、俺の指と脳を舐め溶かしていく。エミに舌を舐められながら、アリアに指をフェラされている。永遠の快楽。もっと続けてほしいとしか考えられなかった。頭が真っ白になる。
一瞬、意識が飛んだ。びくんとして理性をかき集めていると、いつの間にか攻守逆転していた。エミが俺の顔を手で挟んで、俺の口内をねっとり嬲っていた。
ちゅぽっ。エミの舌が引き抜かれる。
「顔、蕩けすぎ。キスだけでそんなにして。えっちなんだから」
耳元で囁かれる。
慌てて口元に垂れたよだれを袖で拭く。頬が燃えるように熱い。
エミは余裕の顔だ。視線が一度下に向いた。そしてまた耳元で囁く。
「大変なことになってるけど。夜まで待ってね?」
俺のセリフのはずなのに。いつもと立場が逆だ。
そしてもう遅い。もっと大変なことになってるから。
✳︎
「村が見えます」
御者に静かに声を掛けられたのはそれから1時間ほどしてからだ。
「やっと着きましたね。クラナフルスです」
今晩俺たちが泊まる農村に着いたのは、日が沈む直前のことだった。
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