アリア攻略編17 エピローグ

【視点切替 エミ】



 私はマコトを売った。


「勇者様と貴方の子をウーラッハ家の次期当主にします」


 アリアの一言によって、愛する男を恋敵に売り渡した。あっさりと。


 『子を当主にする』。

 その言葉はずっと、生まれてから今までずーっと妾の子として蔑ろにされてきた私の心の傷を的確に突いた。私はすぐに堕ちた。


 心の底に溜まったどろりとした感情が、欲望の膿が漏れ出す。止められない。


「私が、正妻…………?」


「ええ」


 私には世界がひっくり返るような話なのに、アリアの口調は夕食のメニューを話すみたいに軽かった。


「まあ、私も勇者様に子種をいただいて2人は産みますので、それらも貴方の子として育ててください。貴方の子と比べて魔力が低いですので、後継者争いには絡まないでしょう」


「……結婚しないの?」


「聖女らしく、未婚を貫こうかと思います。魔王討伐を成した聖女として、名は必ず残りますし」


 聖女という言葉を出した時だけ、少し感情が浮かんだ気がする。何よりも誇らしい、そんな響きがにじんでいた。


「弟は」


「お父様が約定書を作成しています。口をはさめません」


 うわっ。約定書まで出てきた。たぶん本物?


 貴族は契約を重んじる。さっきからふわふわとしていた心が、今はほんのすこしだけ落ち着いて、おなかのあたりがだんだん重くなってきた。え、ほんとに?


 私、つとまるかな?


 そんな表情を読まれたみたい。


「私も母も、貴方の後ろ盾になります。ですので、貴方のお母様の立場はあまり変わらないかもしれません」


「……私がお飾りでなる感じね。いいけどね」


 アリアがここまで譲歩して誠意をみせてくれてる。貴族が。高位貴族の長子が家督を無条件で譲る。あり得ない。普通はあり得ない。背筋に冷たいものが流れる。


 こちらも誠意を見せなければ最悪殺される。母とは線を引く。大切なのは私とこの子だ。あとマコト。



✳︎



 以来、アリアとは協定を結んでいる。


 勇者マコトという希少な財産を2人でシェアする協定だった。


 意外なことに、アリアはマコトが他の女に手を出すのを嫌った。だから、ずっと私が相手して、アリアがたまに誘惑することでマコトの興味を封じ込めてる。


 魔力の波長を私と同じまま維持してたい感じ。たぶん。アリアくらい魔導の知識があれば、それでマコトを再洗脳できるんだと思う。自力で洗脳が解けかけてたし、なんか首輪をつけたいみたいだ。


 マコトの魔力は日に日に膨れ上がってて、もうアリアの10倍じゃ効かないんじゃないかな? あんなの手に負えないよ。


 日中はアリア、夜は私が担当ということになった。それで、食べるのはアリア、寝るのと寝るのは私が担当してる。


 3大欲求おさえよー作戦。今はうまくいってるみたい。



✳︎



 あとマコトの不穏な動きを報告することになってる。アリアの暗殺も、気配の段階から私はすぐに教えた。


 マコトが指輪をくれた時も協定は揺らがなかった。


 まあ、死ぬほど嬉しかったけどね!


 そもそも。


 洗脳は魔王討伐に必要なの。


 きっと、マコトも事情がわかれば納得してくれるはず!


✳︎


「でもさーアリア。

 洗脳解けてるマコト相手に、よく恋の魔法なんてウソついたよねっ。

 マコトはそれだけで心が折れちゃうし。

 ビックリしちゃった」


「ふふっ。

 ウソは女が咲かせる花。

 勇者様も、気に入ってくれてましたよ?」



───────────────────

      アリア攻略編 完

───────────────────







───────────────────

      次回 完全██編

───────────────────

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る