アリア攻略編12 風の魔法

「"風よ!"」


 ドン。腹に響く爆音。

 風の散弾銃が俺の周りの蟻どもを砕く。俺にも当たるが効果などない。この程度の魔法には、既に完全耐性がある。強い魔力は万能だった。


 魔法が発動する瞬間、魔力は物理を超越する密度になる。魔力感知が苦手な俺でも発動の瞬間なら見ることができる。一瞬だけど。


 アリアが前に突き出した右手から放たれた風の魔法は俺を巻き込んで行使された。この角度で受けてやっと理解した。

 風の魔法の仕組みを。


 魔力の筒を具現化し、魔力の火薬を爆発させ、魔力の銃弾を撃ち出す。そのような、魔力でできた銃みたいな仕組みだと予想していた。実際はすこし複雑だった。


 蟻を剣で牽制しながら、アリアの手元を注視していた。アリアは魔法の発動がおそろしく速い。


 手元に渦巻く緑色の燐光。そこから突然、ヘビが飛び掛かってきたかと錯覚した。

 緑に光るヘビのような魔力のラインが俺へとうねりながら伸び、遅れてもう1本の魔力のラインが、グルグルと渦巻きながら向かってきた。魔法の効果範囲を指定するように。一拍遅れて爆発音。魔力の弾丸の嵐に襲われた。


 魔法を発動して数秒、魔力によって生成した風・火・水などは、術者の意思で操ることができる。この時は物理法則を無視できる。


 森は火気厳禁だからか、アリアは蟻を殺すのに風の魔法だけを使っている。何度か真似して魔力を風に変換してみたが、ぼふっと空気が広がるだけで、攻撃にはとてもじゃないが使えそうになかった。


 原理が少しわかったが、先は長そうだ。まだ、魔力のラインによって魔力の風を誘導したり効果範囲を指定できない。魔力の圧縮と操作もアリア並みに極める必要がある。毎日の自室でのトレーニングに追加することにした。


「どうかしましたか?」


 見つめすぎていたようだ。首を振り、思ってもいないウソを吐く。


「見惚れていただけだ。君は美しい」

「……照れます」


 なぜか良い雰囲気っぽくなる。ここ、蟻に支配された森なんだけど。


 潤んだ瞳に視線が吸い寄せられる。まるで魔法にかかったように目が離せない。洗脳。さっきの唇の感触を思い出してしまう。俺の心はアリアに堕とされつつある。もう時間がないのかもしれない。


「勇者様の魔力、本当にすばらしいですね。私の魔法で傷ひとつ付かないだなんて」

「短い詠唱だけならな……。飛ばす魔力の弾も優しい形をしていた。いつも、こんな形の刃を飛ばしてるだろ」


 指で宙にギターのピックのような三角形を描いた。さっきの弾丸はパチンコ玉のようだった。アリアの攻略はまだ先が長そうだ。


 魔王討伐において、高魔力由来の魔法耐性を期待しているようだが、俺はお前をそこまで生かすつもりはない。

 殺す。必ず殺してやる。遅くとも魔王戦の中で。

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