第49話 くわしすぎる実演
――これ以上、伍師姐のわたしへの印象が悪くなるのは、なんとしても避けなければッ!
「わ、わたしが悪者を演じたから、村は破壊されずにすんだんだ!」
あせった朱浩宇はうわずった声をあげ、自分の正当性を主張した。
しかし、たやすく朱浩宇のあせりを感じとれたらしい。朱浩宇の言動を目にした林沐辰は、さらに笑みをふかめると「よく言う」と鼻で笑った。そして、いつになく流ちょうな口ぶりで話しだす。
「あえて悪役を買ってでたのなら、人質をとった事実を隠す必要もないだろう。どうせ、計算高くたちまわった結果なんだ。おまえ、自分の利益ばかり追うところがあるからな!」
林沐辰のいうとおりだったので、朱浩宇は「そんなのは、でたらめだ!」と否定しつつも、さらにあせった。
朱浩宇と林沐辰はおたがいに一歩もひかず、にらみあう。
朱浩宇と林沐辰の間にただよう険悪な雰囲気を感じたのだろう。夏子墨が「朱師弟、落ちついて」と言い、ふたりの話にわってはいった。
「師弟の機転のおかげで大惨事にならなくてすんだと、わたしも師父も分かっているよ」
言って、夏子墨が朱浩宇をなだめる。
すると、伍花琳が瞳をかがやかせて「夏子墨は、朱浩宇をよく分かっているのね」と世辞を言い、さらに言葉をつづけた。
「兄弟弟子同士、仲がよくてうらやましいわ」
ほんとうに、うらやましく感じているのだろう。目尻をさげ、伍花琳がため息をつく。
朱浩宇と夏子墨に伍花琳が注目するのを見て、次男モモンガが「そうそう。お嬢さんのいうとおり、ふたりは仲がいい」とあいづちした。
――ん? このモモンガは、なにを言ってるんだ?
次男モモンガの言葉に嫌な予感がして、朱浩宇は林沐辰から注意をそらす。
すると、三男モモンガが「そうだな」と同意し、次男モモンガの話をついだ。
「兄貴が五弟を攻撃したとき。きれいなお兄さんが五弟をかかえあげて、兄貴の攻撃から守っていたもんな」
言いながら、三男モモンガはうんうんと深くうなずいた。
「!」
――その話は……
朱浩宇は驚きのあまり声も出ない。
朱浩宇がなにも言えずにいる間も、弟分モモンガたちは「そうだった、そうだった」などと盛りあがっていた。そのうちに、三男モモンガが四男モモンガをかかえあげる。
「こんな感じだろ?」
四男モモンガをかかえあげながら、三男モモンガがたずねた。
三男モモンガの実演を見た次男モモンガが「そうそう! それで兄貴が追いかけたんだ」と、李桃になりきって滑空する真似をする。そうして、四男をかかえる三男を次男モモンガが追いかけだした。
弟分モモンガたちが周燈実の頭や肩を駆けまわる。
すると、きゃっきゃと周燈実は楽しそうに笑いだした。
そんな弟分モモンガたちの熱演をまじまじと見ていた伍花琳が、頬を赤く染めて「まあ!」と身をのりだし、黄色い声をあげる。
「それって……」
驚きのあまりつづく言葉を失くしたらしい。顔色を赤くしたり青くしたりしながら、林沐辰は一歩あとずさった。
林沐辰の反応を見て、嫌な予感は当たったのだと朱浩宇は気づく。彼は弟分モモンガたちの話をとめるため「おまえら、やめろよ!」と、ムキになって怒鳴った。
しかし、朱浩宇が怒鳴っても、弟分モモンガたちは痛くもかゆくもないらしい。彼らは、知らん顔をして「事実じゃないか」などと口をとがらせた。次男モモンガなどは、話すべき理由を朱浩宇にあげつらいだす。
「おまえたちの活躍ぶりを伍のお嬢さんが聞きたそうにしていたから、くわしく教えてさしあげているのだ!」
善意からの行動だと言いたいらしい。次男モモンガはまたほこらしげに胸をはった。
「くわしすぎるんだよッ!」
夏子墨とのいきさつを話されるだけでも、朱浩宇にとっては恥だ。それなのに、実演までされてはたまったものではない。朱浩宇はまっ赤になって地団太を踏んだ。
「朱師弟。そんなに怒らないであげて」
言いながら、伍花琳がふいに朱浩宇にちかづいた。そして、彼女は自然な動作で彼の手をとった。
――え?
やわらかく温かい感触が手から伝わる。突然の出来事に、朱浩宇の頭はまっ白になった。どう反応すべきか分からず、朱浩宇はぴたりと動きをとめ、伍花琳を見つめた。
伍花琳のほうも、真剣な表情で朱浩宇を見つめかえす。朱浩宇を見すえたまま、彼女はおもむろに口をひらいた。
「だれかがだれかを大切に思うのに、性別なんて関係ないわ!」
伍花琳の言葉ははっきりと力強い。
「は?」
――この可愛らしい人は、なにを言ってるんだ?
伍花琳の言葉の意味が分からず、朱浩宇は戸惑うばかりだ。
朱浩宇が目を白黒させていると、伍花琳はさらに話をつづける。
「少数派ではあったけど、女弟子のなかにも疑っている人がいたのよね。でも、わたしはうがった見方だと思っていたの。それが……まさか、あの人たちの想像のほうが当たっていたなんて」
伍花琳は神妙に言い、恥じいった様子で首をふると「夏子墨のつれない態度にも、納得だわ」と独りごちる。朱浩宇の手をとったまま、彼女は夏子墨に目をむけた。
「え? 伍師姐、なにに納得なんですか?」
伍花琳が自分の手をにぎっている状況にようやくなれ、頭がまわりはじめた朱浩宇がたずねる。
すると、伍花琳はすまなそうに眉をよせた。そして、夏子墨に視線をむけたまま話しだした。
「朱浩宇をかかえあげてまで守るなんて……夏子墨にとって、彼は大事な人なのね」
言いながら、ちらりと伍花琳は朱浩宇を見る。朱浩宇を見る彼女の目には多少の羨望が見てとれた。
伍花琳の言葉や視線の意味が、朱浩宇には判じきれない。
朱浩宇がかける言葉に迷っていると、伍花琳は視線をまた夏子墨にむけなおした。彼女はさらに話をつづける。
「あなたの気もちに、まったく気づいてなかったの。気づいていれば、あなたに付きまとったりなんてしなかったのに。ほんとうに、ごめんなさいね」
心から申し訳なく思っているのだろう。伍花琳は苦しそうに謝罪の言葉を口にした。
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