求仙の門下生 〜仙人修行中の【平凡で目立たない弟子】と【スパダリな半妖の兄弟子】は、魑魅魍魎を退治して【残念美人な師匠】の破門を回避する!〜
babibu
第一章 三人にして迷うことなし
第1話 道士と弟子たち
「
「
おだやかに言ってきかせるのは、朱浩宇の兄弟子である
「先日の大雨で、いくつかの橋が流されたんだ。このあたりを取りしきっている道士さまは、橋の復旧の指図に忙しくしてらっしゃる」
夏子墨はさらに「道士さまは、近隣でも名の知れた知識人でもあるんだ。だから、地元の人たちに頼りにされているんだよ」と付けくわえ、不満を口にする朱浩宇を納得させようとする。そして、自分の隣の席に行儀よく座る幼い少年、
「
礼を言った周燈実は、よろこんで煮物を食べはじめる。
夏子墨は、子供らしい周燈実の様子に目をほそめた。それから、取りわけ終わった煮物の皿を、彼の師父である
「
夏子墨の話には思うところがあり、朱浩宇は口ごもる。
夏子墨のいう『六子山』とは由緒のある霊山だ。
かつて、
以来、青嵐派の弟子たちは日々の修行、法器や薬の材料収集を六子山でおこなっている。よって、六子山は青嵐派の門弟にはなくてはならない山なのだ。
そんな六子山の頂上へつづく道が今、大雨のせいで土砂くずれがおきて通れなくなっている。おかげで、弟子入りして日の浅い未熟な弟子たちは、一カ月近く一部の修行場や採集場に近づけていない。
しかもだ。霊山に自由に入れないだけでも大ごとなのに、六子山の山すその集落に正体のしれない化け物まであらわれたらしい。
あらわれた化け物を退治するため、青嵐派の弟子の多くが捜索にかりだされている。
ひっきりなしに発生した騒動を、青嵐派の長である
蔡凜風が気をもんでいるのは、朱浩宇もひしひしと感じている。
――夏子墨の主張は、理解できる。でも……
「そうは言っても、ほかにもっと適任者がいたはずだ!
自分の考えの正しさを訴えながら、朱浩宇は姚春燕に目をやった。
朱浩宇の師匠である姚春燕は、大きな瞳で朱浩宇たちを見る。
姚春燕の見かけは若々しく、服装によっては十代でも通用しそうだ。彼女は、
「夏子墨、朱浩宇。おまえたちが一人前になったら、わたしは門派から抜けるつもりなの。だから、新しい弟子はとれないわ」
姚春燕は言いきり、杯のなかの酒をいっきに飲みほす。酒をあおる彼女の顔は、まっ赤だ。ほんのりと頬が色づくなら、大輪の花のごとく華やいでいただろう。しかし、まっ赤となると話はべつだ。もとの容姿が整っていようと、とんでもなく見ぐるしい。
姚春燕の言葉に夏子墨が「師父!」と、ひどく落ちこんで呼びかける。そして、彼女の傍らに素早くひざまずいた。
「師父ほどの方が門派を去るだなんて……どうか、お考えなおしを!」
夏子墨は言いながら、姚春燕が膝においている左手に自分の両手をそえる。
夏子墨の言動に驚いた姚春燕は、酔いで落ちそうなまぶたを少しだけもちあげた。しかし、すぐに酔いどれた顔つきにもどると「夏子墨」と呼びかけ、空になった杯をおく。そして、自由になった利き手で夏子墨のあごを軽く押しあげ、彼の顔を自分のほうへむけさせた。
姚春燕と夏子墨の様子に、周囲の人々がざわつく。
悪目立ちしていると感じた朱浩宇は、いらだって舌打ちした。
朱浩宇たちがいるのは、とある村の小さな
まるで男娼と彼を買う客を思わせる
「うれしいことを言ってくれるのね。でも、ごめんなさい。もう決めたの。この気持ちは、かわらないわ」
姚春燕は、夏子墨のねがいをききいれない。
師匠を落ちこんだ目で見つめかえす夏子墨のすがたは、あわれをさそった。給仕の女にいたっては、夏子墨に見ほれ、甘いため息をこぼしている。
――わたしは、なにを見せられているんだ?
姚春燕にすがりつく夏子墨に冷たい視線を投げかけながら、朱浩宇はうんざりした気もちになった。
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